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ウィンドシンセ基礎奏法01 - レガートタンギング

ウィンドシンセの奏法についての解説。最初に、基礎中の基礎と思われるレガートタンギングについて。ぶつ切りのタンギングにならないようにしましょうというお話です。

はじめに

Youtube等でプロ・アマ含め様々なウィンドシンセ演奏の動画を聴くことができますが、ときどき一音一音のつながりが「ぶつ切り」になってしまっている演奏を見かけます。フレーズの滑らかさにかけてしまいちょっと残念かと思います。特にご自分で動画に「初心者」と書かれているものはぶつ切りのケースが多いようです。プロ・アマ含めたくさんの動画を見ていくと、「ぶつ切り」か、「ぶつ切りでなく滑らかにできているか」が言葉が悪くて恐縮ですが「素人っぽく聴こえる演奏か、そうでないか」の最大の境目であるような気がしてきました。この「ぶつ切り」になってしまう理由は「タンギングによる音の切れ目が長い(演奏技術不足で短くできていない」ことによるもので、この切れ目が短いタンギングを「レガートタンギング」と言います。
ということで、レガートタンギングができるようになって脱初心者を目指しましょう!というお話です。

ぶつ切りタンギングとレガートタンギング

ウィンドシンセ動画でよく演奏される THE SQUAREの「OMENS OF LOVE」のフレーズの一つを使って比較動画を作ってみました。
 ・コントローラー;AKAI EWIUSB
 ・音源:Cherry Audio S.E.M(1VCOのSAW音色)https://cherryaudio.com/products/synthesizer-expander-module

最初のフレーズがぶつ切りになってしまっているタンギング、2番めのフレーズがレガートタンギングで吹いたものです。この2つのピアノロール画面を切り出したのが下図です。

MIDIピアノロール画面を切り出したもの

レガートタンギングという言葉は知らなかったけれど、自分の演奏はこの動画でいうところのレガートタンギングの感じでやっているという方は、それで問題ありません。「タンギングはぶつ切りにならないこと」をしっかり意識できていたものと推察いたします。素晴らしい!

自分の演奏が、最初のぶつ切りタンギングに近いと思った方は、なるべく短くなるように意識して練習すると良いと思います!

同じ音でレガートタンギングするのは比較的難易度が低いですが、運指で音を変えながら同時にレガートタンギングするのは少し難易度が上がります。まずは同音で練習してから、スケール(ドレミファソラシド等)を練習するときにレガートタンギングを意識して練習しましょう。

タンギングは、舌をついて行うものなので、「舌をチョンとついて・すぐ離す」という動作をなるべく素早く行えば音の切れ目が短くなります。またこの時、息の圧力は変えないこと、音の切れ目にアタックがつかないようにすることを意識して練習します。これ以上は文章で解説するのは難しいので、ジャズサックスプレイヤーの個人レッスンをうけるのが一番の早道ですが、ジャズサックスの教則本や教則動画を探すのも手かもしれません。

レガートタンギングができたら、動画の3つ目のフレーズのように、息で抑揚をつけると、より音楽的になってきます。その後、ビブラートやベンドを少しでも使えるようになれば、「脱初心者」と言っても良いのではないでしょうか。

今回あらためてウィンドシンセの教則本
https://www.alsoj.net/store/EWI/index.html
をいくつか読み返しましたがレガートタンギング(タンギングの間の切れ目を短くするように)を意識するという内容は書いてなかったです。レガートタンギングで演奏することは管楽器演奏ではそもそも前提なので当たり前すぎて書いていないのかもしれません。WEBで探すと自分がJWSAに20年以上前に書いたのくらいしか見つからないけど・・・全体的にちょっと古いけどタンギングのところは間違ってはいないかな・・と思うので一応参考まで

ジャズサックスの奏法教則本にはレガートタンギングがしっかり書いてあるものもありますし、またタンギングというか音の出だしと終わりをどのように演奏するか、フレーズをどうつなげるかの演奏技術については、裏打ちするジャズタンギングとか、アクセントとその強さ・長さとか、スタッカートとか、タンギングをしないスラーレガートとか、いろいろあるのでレガートタンギングだけでは不足なのですが、まずはレガートタンギングができるだけでも、かなり脱初心者に近づけるかと思います。

タンギングの聴き分けを意識して耳コピする

まず全ての演奏について、音符と音符との繋がり(音が出ているか出ていないか)の処理としては、4つ考えられます。

  1. レガートタンギングで繋げる(極めて僅かな切れ目がある)

  2. スタッカートまたは休符の前の音なので音と音の間に長い切れ目または無音がある

  3. タンギング(レガートタンギング)をしない、指だけ動かして音を変える、スラーレガート(切れ目が無い)

  4.  2ではない音楽的理由で、音と音の間に長い切れ目または無音がある

ここで最初の動画でフレーズ引用した曲「OMENS OF LOVE」の、オリジナルアルバム演奏(アルバム R・E・S・O・R・T収録)のウィンドシンセのメロディーを聴いてみます。音符の繋がりの処理は1〜4のどれでしょうか?

・・・原曲のギターソロ前までのウィンドシンセのメロディーは、ほぼ全て「1」か「2」であることがわかると思います。「3」では無いことにも注意が必要です。
(なお、より厳密には8分音符フレーズで1〜2箇所「3や4混じり」のフレーズがあるかも??、とは思いますが)

一般的に「3」のタンギングをしないスラーレガートは、ジャズ・ポップスの管楽器演奏ではクラシックの管楽器演奏に比べると使用頻度が少ないです。ジャズ・ポップスの管楽器では高速フレーズは別として「全てのフレーズをレガートタンギングで吹き、特別に効果を狙うときだけタンギング無しのスラーで吹く」のがデフォルトですので、耳コピする時はこの点を考慮しながら聴くと良いかもしれません。またこの理由で、レッスンはレガートタンギング使用頻度の多いジャズ経験のあるプレーヤーに習ったほうが良いと思います。

蛇足ながら吹奏楽編曲版の「OMENS OF LOVE」をyoutubeでいくつか聴くと、「1」はほとんど無く「2」と「3」を組み合わせたフレーズになってますね。吹奏楽でこの曲を経験した方は、「RESORT」の原曲のイメージで吹くのであれば吹奏楽の時のイメージを変えたほうが良いでしょう。

マルチトリガー音色の功罪

ウィンドシンセは、「シンセサイザー」であるが故に、この音符と音符の繋がりに関しては、生管楽器にはないメリット・デメリットがありまして、いわゆるJudd系音色のような、シンセ用語的には「マルチトリガー音色」を吹く音色に選ぶと、タンギング無しのスラーで吹いても次の音にアタックがつくのですね。なのでレガートタンギングが出来ない人もマルチトリガー音色でスラーで吹くとなんとなく格好がついてしまいます。
ただ、タンギング無しでフレーズを吹くとピロ音が出やすくなるのでそれはそれで難しいのですけどね。トッププロの方々がマルチートリガー音色で高速フレーズを吹きまくると、とてもとてもカッコ良いし、それこそ生管楽器では不可能なウィンドシンセならではの表現なのでマルチトリガー音色のメリットも大きいのですが。
下記は2023年の「TRUTH」の演奏ですが

伊東さんがEWI1000でJudd系のマルチトリガー音色、本田さんがNuRADでマルチトリガーでは無い比較的素直な音色で競演されています。マルチトリガーと、そうでは無い音色の比較にはわかりやすいかと思います。

ここでもう一回、オリジナルの「RESORT版 OMENS OF LOVE」のメロディーを聴いていただきたいのですが、ひとつひとつの音の立ち上がりがほんの少しだけ「プワン」としてますよね?
これは冒頭の私のタンギング比較動画(下に再掲)の「3つ目のフレーズのリバーブ有り」を聴いていただくと少しわかるかと思いますが、息で少しだけアタックをつける(吹き始めだけわずかに強い息で吹く)+ エフェクター(リバーブとディレイ)の効果によるものです。2番めのフレーズはEG変化をつけない棒吹きなのでリバーブをかけても「プワン」が少ないですね。

鍵盤型シンセサイザーでは、音の立ち上がりはシンセ側の設定(EG、ADSR)で作るのが普通ですが、「ウィンドシンセにおいては、シンセ側でEGは設定せず、EGは息で自分でリアルタイムにコントロールする」のが普通です(もちろんJudd音色のようにEGを積極利用するのもありですが)。冒頭の比較動画も、1VCOのSAW波形のVOLUMEとCUTOFFを息でコントロールしているだけで、音源側でEGのコントロールはしていません。

近年の音源内蔵のウインドシンセでは、プリセット音色に音源側で音の立ち上がりが「プワン」となるようにEG設定した音色が多く入っていますので、この「息によるEG」を意識せず、なんとなく吹いて音源側で「プワン」となる設定の音色を選んでしまうと、一生懸命練習しても最終的に「オリジナルとなんとなく違う・・・」という感じにとどまってしまうかもしれません。もし、「アナログシンセ・リリコン時代」の演奏に近づけたいのであれば、音の立ち上がりにEGが設定されていない素直な音色を選択するのも有効だと思います。

ということで息によるEG(プワン)や抑揚をつける=ブレスコントロール、が上達の次のキモだと思います

これについてはとりあえず前述の20年前の記事に書きましたが、、、改訂するにもあまりネタが思い浮かばないなぁ・・・・


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