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忍殺トリロジー感想/書籍第二部(3)『ゲイシャ危機一髪!』(上)

◇注意◇
現行AoMシリーズからニンジャを読んだ人が、
旧三部作(トリロジー)に戻って色々読んだ感想記事です。
感想の中でAoMのお話もします。

こんばんは、望月もなかです!
『スズメバチの黄色』で忍殺に復帰し、以来AoMの連載を読んでいるタイプの人です。最新話を追いかけながらの並行トリロジー、第2部の2・前半です。今回も無理せず二分割記事でいきます。もう1巻1記事縛りは諦めました……

前回感想はこちら

◇◇◇

今回読んだのはこちらです。

ニンジャスレイヤー第2部 ♯2/ゲイシャ危機一髪!

ザイバツ支配下のキョート共和国。ニンジャスレイヤーは私立探偵タカギ・ガンドーの協力を得て、不慣れな土地で仇敵ザイバツに戦を挑む。一方、妻子の仇たるダークニンジャもまた、何らかの目的のためにザイバツに忠義を誓い、キョートで暗躍を始めていた。

 【モータル・ニンジャ・レジスター】

キョート中にばら撒かれた無数の「忍殺」張り紙……名前の書かれた十四人のザイバツ・ニンジャが一人、また一人と消されていく。赤黒の死神、我らがニンジャスレイヤーの手によって――!

フジキドさんおかしいよ。

冒頭から「憂鬱な」を敢えて多用することによって醸しだされる重苦しいキョートの情景、すごく「狙ってやってる」感があって興奮しました。技術的挑戦を感じます! 「憂鬱なサーチライト」って表現なんか特に、思い切ろうとしてもなかなかできないと思います。うまいなぁ。

このイクサは始まったばかりなのだ。十四人の咎人 とがにんを殺す事は最終目標ではない。手段なのである。

こわい……

殺ビラばら撒きキドさん異常者すぎてザイバツの皆さんが気の毒になってしまいますね。デザインも自分でやったのかなパワッポとか使って……サラリマン時代に取った杵柄で……怖……。

(そういえばAoMシーズン4開始時点で夫くんとこんな会話したんですけど、この展開のことだったんですね)

「(略)そのアプレンティス、今はパープルタコ=サンの預かりだとよ」

ウィーヴくんパープルタコおねえさんの預かりになっちゃったんですか!?
パータコおねえさん、GWに読んだ「ビヨンド・ザ・フスマ・オブ・サイレンス」でお会いしましたけどものすごく青少年には与えちゃいけないタイプの女人でしたよね。レーティングが危ない!

「……そしてニンジャスレイヤーについても抜かりなし。同時に三人を差し向けた……

そうか三人死ぬのか……としか思えなかったの、フジキドさんの異常性を端的に示していると思います。

ナ、ナムアミダブツ……ロープにくくりつけられているのは、紛れも無い首吊り死体……ニンジャの死体!

死ぬのは四人だったかぁ……としか思えなかっ(略)

フジキドさん、ニンジャスレイヤーに登場した無数のニンジャさんたちの中で、もっともマスラダくんのことを「あまりに若く……無鉄砲で……危なっかしい。見ていられん」と評する資格のない人物なのでは???? 鏡を見てもう一度言ってもらえますか? ケンジくん? 聞いてますか??

#ZAIBATSUNET:PURGATORY:そちらへコンジャラー=サンを送った。必ず仕留めるべし。

死ぬのが五人になった……という透き通った気持ちにしかならない。心象風景がイーハトーヴの空のようです。

コンジャラーさんの『馬鹿げたリストを作りテロ行為を繰り返している』という要約が完璧すぎて深く頷いてしまいました。現代文で100点取れるよ。

「オヌシらを恐怖させ、より上位の者たちを否応無しに引きずり出す。最終的にはオヌシらの首領を殺す」

あ、はい。

……フジキド・ケンジはどの口でマスラダくんに「無鉄砲」とか言ってるんですか?????? ケンジくんの固く引き締まったお口は自分の吐いた言葉を十年かけてすっかり忘れてしまったのかな~~~???

鏡を見て言え、KENJI。

◇◇

 【ゲイシャ・カラテ・シンカンセン・アンド・ヘル】

ゾンビニンジャ・ジェノサイドは、ザイバツに捕縛され、リー博士の待つキョートまでシンカンセン輸送されることになる。奇しくもシンカンセンのマケグミ車両には、生前の恋人だったユリコと、復讐に燃えるニンジャスレイヤーが乗り合わせていた。

黄昏ゲイシャ」や「虚無的なノボリ」など、語彙の選び方に地ならしというか、第二部の雰囲気を丁寧に作っていこうという工夫を感じるような気がします。いいですね。

「ポータルをくぐった時は死ぬかと思ったが……」重いフード付コートを脱ぎながら、ニンジャの一人、小兵こひょうのヘッジホッグが言った。「……ネオサイタマの死神に遭遇しなかったのは幸運だったな」

 なんてこと。登場と同時に死亡フラグが立ってるじゃないですか。

「まあ、俺たち四人ならば(略)……死神だろうと返り討ちにできただろうが」
「ああ、まったくだぜ」

ちょ、なんなのこの人たち。こぞって死亡フラグ何本立てられるかのチキンレースでもやってるんですか? フジキド召喚レースじゃんこんなの……!

乗客死傷率ってなんだよ。おかしいでしょ。計算が成立する時点でおかしい。ゼロで割り算させてくださいよ。あまりに何もかもがおかしいので、AoMのヨロシンカンセンって普通だったんだな~と異常な世界に麻痺した異常な感想を抱きかけてしまい反省しました。繭糸で破損を自己修復するシンカンセンもそうとう変ですね。はい。

半分砂に埋まった古いトリイが傾きまばらに立ち並び、その間を水牛たちが歩んでいる。汚染されてはいるが、美しい日本の原風景だ。海の彼方では、重油まみれのイルカたちが飛び跳ねている。

? 

?? …………?(「水牛」に首を傾げている)

「ドーモ、ニンジャスレイヤーです。ザイバツ・ニンジャ……殺すべし……!」「ウォーッ!? ウォーッ!? ドーモ、サイクロプスです!」困惑しつつもオジギするサイクロプス!

困惑しまくっており心の底から同情してしまう。

なんでだよ ここに赤黒 聞いてない(ざいばつ 心の俳句)

「……そ、そのメンポ! 貴様は、もしや、ニンジャスレイヤー=サン!」ヌーズマンは震える指先でネオサイタマの死神を指差す。「ドーモ、ニンジャスレイヤーです。オヌシら……ソウカイヤの残党か!」

可哀想すぎて心の底から同情してしまう。せっかくネオサイタマで死神に見つけられずに生き残ったのにね……。

なんでだよ ここに死神 聞いてない(ざんとう 心の俳句)

当のフジキドさんは錯綜する状況に思い悩んだりネオサイタマ炎上の遠因が自分ではないのかと考えたりとてもまじめに生きているわけですが、

答えは知らぬ。ニンジャの世界にそのようなことを思い悩む時間は無い。そのどれもが誤りかもしれぬのだ。後悔は死んでからすればよい!
(((そう、最終的に全員殺せばよいのだ!)))

よいのだ! じゃないよ。さすがにガバガバすぎる。どの口でマスラダくんに「無鉄砲」とか言以下略。

鏡を見て言え、KENJI。

ジェノサイドさんが事あるごとに「俺は!」「ジェノサイドだ!」って叫ぶの、記憶も肉体もすべてが不確かでポロポロとこぼれ落ちていく生のなかで、唯一忘れることなく縋りつける確かな事実が「ジェノサイド」というニンジャネームだからなのかもな……と考えると切なくなりますね。もう死んでいるから死ぬこともできないし、今生きているからには生きていたい。けれど人前に出られるような肉体ではもはやない。ジェノサイドさんはこの先、マッポ―の世界で何を求めて、誰と共に生きていくのでしょうか。

玉座の背後に掲げられた大きな油絵には、アダムとイブに知恵の実を授けるニンジャのモティーフが描かれている。

バイブルをファックするのはさすがにダメ。これはアウト。

「もう大丈夫よ。ジェット噴射は停止。減速装置も強制作動させたわ」

ナンシーさんがいつの間にかハッカーたちの間で伝説的存在になってしまっているの、ちょっと笑ってしまいました。ナンシーさん自身には電子の女神になりたいとかハッカー道を極めたいとか、そういう野心があったわけではないんですよね。ただ行動倫理の狂った暴走死神ニンジャと二年もの間、行動を共にしていた結果、二両編成の暴走機関車が爆誕してしまって伝説化してしまっただけだっていうこの……気がついたら誰も手の届かない場所まで飛んでしまってた、みたいな感じが実にナンシーさんらしくて笑ってしまうのです。

AoMのタキさんも、なんやかやと暴走気味のマスラダくんに付き合っていくうちにいずれこういう高みまで来ちゃうのかなとふと思ったりしましたが、なんだか、それでも最終的にはキタノ・スクエアの薄汚いピザ屋店主の椅子に座り直してそうなところがタキさんの魅力なんだよな~という気もしています。


◇◇

 【クライ・ハヴォック・ベンド・ジ・エンド】

地下二層。屋台で食事をとっていたガンドーとフジキドは、満身創痍の薄汚れた男を看取る。彼が手にしていたのは直訴状。地下十四層の人々が、酷薄なる掘削事業に伴い間もなく皆殺しにされるという。フジキドは、妻子の仇敵が待ち受けるとも知らず、急ぎ地下十三層へと向かう。

 キョート城、謁見の間。
 邪悪なる古代ニンジャヘレニズム様式のレリーフ彫刻と没薬の煙、奴隷ゲイシャが一心に爪弾くオコトの音が、(略)

? 

【ヘレニズム】
(1)ギリシャ的な思想や文化に由来する精神。
(2)アレクサンドロスの東方遠征以後、ギリシャとオリエントが影響し合うことにより生じた歴史的現象。(以下略)
『スーパー大辞林3.0』より

?????

 (略)ナムアミダブツ! なんたる禍々しい光景か!
 秘密の呪文めいて唱えられるザイバツ・シャドーギルドの文言もんごん「ガンバルゾー」が繰り返し暗黒の広間を震わせ(略)おお……キョートの暗黒は深くそして濃い……!

地の文=サンと私の間に、千尋の谷並みの深い断絶を感じる。
禍々しさへの感受性が違う……いやでもメーデーなどで(昔の勤め先で典型的なメーデー参加があった)労働組合が「頑張ろう三唱」を棒読み気味に拳突き上げて唱和する様子に、正直、異様さを感じたことは私もあります。ある。だからボンド&モーゼズが「ガンバロー」をカルトめいた宗教儀式っぽく脚色しちゃうのは、まあ、ちょっとわからなくもない……。

フジキド&ガンドーコンビが屋台外のテーブルで一緒にご飯食べてる光景が良い。誰もが目を逸らして避ける瀕死の男にさっと駆け寄るガンドーさんの漢っぷりも光ります。こんなの惚れちゃいますよ!

 ……フジキドはマキモノから顔を上げた。たまたまその横をすれ違おうとしたオカモチ・バイシクルマンがその眼光を見てしまい、失禁しながら転倒した。

うわぁ。燃え盛る森林火災にタンクなみなみのガソリンをぶち込むような状態ですよこれは……あーあ。もうこの時点でシリンダーハンマーは鉄屑か、よくて磁石くっつけトンカチでしかないんだよな……。

「これから降りる。方法を教えてほしい」「え?」ガンドーは瞬きした。「マジか。下層に? これから? 今?」フジキドは頷いた。

ここで彼の十年後の発言を振り返って見てみましょう。

「……彼は実際どんな子なの? まだ電脳空間で少しタッチした程度」
「悪い男ではない。……才能はある。だが、あまりに若く……無鉄砲で……危なっかしい。見ていられん」
【IRCチャンネル @YCNAN_GOKUHI :フジキド、ナンシー】より)

……鏡を見て言え、KENJI(定期)。

脂肪とうまい肉を震わせて逃げるバイオモグラに彼は飛びかかった。「イヤーッ!」アメリカンフットボール選手めいて見事にダイビング・キャッチ!「タンパク質ヤッター!」

サワタリさん……。

あの、なぜ、ここにおひとりで? ご家族はどうされたんですか? ひょっとして……迷子……いやいやいや……。

サワタリさん戦闘になるとめちゃくちゃシャープで音もなく動いて強くてカッコいいのに落差が激しいですよね。「金庫とか機密とか」ってどういう検索ワードだよ!www 

陰から見ていたガンドーさんのサワタリさん評が「全く脈絡のない出で立ち」「よくわからぬ」「わけのわからぬ」「何もかも意味がわからぬ」のわからん尽くしでさすがに笑ってしまいました。ふふ。

フジキドさんがサワタリさんを前にすると死神らしからぬ言動になっちゃうのも楽しいです。

「ここで会ったが百年目と言いたいところだが、俺には任務がある!」「ドーモ。ニンジャスレイヤーです。生きていたか、薄汚いジャングルの油虫め!」

罵倒じゃなくてただの悪口(「バーカバーカお前の実家ナムジャングル~」的な)になってるんですよね語彙が。元サラリマン同士で小学生みたいな言い合いをしはじめるのかわいいね……。

トゥールビヨンくんの煽り耐性のなさ、ちょっとヘラルドくんを思い出しました。高貴で神経質な騙されやすいお坊ちゃんニンジャをおねショタ並みに繰り返し味つけを変えながらお出ししてきますな……。

サワタリさんとフジキドさんが来なければ、オラついたオムラ出向社員ヴォルテージさんとの関係性に可能性を見いだせた予感がありますが、サワタリさんとフジキドさんは来てしまったので……残念です。

イクサは拮抗していたものの、結果的にはダークニンジャさんの判断が早く、シリンダーハンマーは撃ちこまれてしまいました。そ、そんな……。ニンジャだからといって何でもできるわけではない、それはそうです。時系列的にこのあとのエピソードである【シー・ノー・イーヴル・ニンジャ】を読んでいたこともあり、遺跡発掘自体が行われることもわかっていました。でも……それでも、やり切れないですね。

タフで情が深くて強くて優しいガンドーさんが救いです。ガンドーさんほんとに素敵ですね。ずっと一人で(ナンシーさんはなんかこう……生身で在りながら死神と並走しているので……)気を張っていたフジキドさんが、自分より度量の深い年上の人に、僅かなりとも心を許して話をできる環境になったことにはすごく安心します。

だいぶ字数も嵩んできたので、今回はここまでにします。
読み終わってますので、後半の感想も近いうちに書きますね。

ではでは~おやすみなさい!


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 次の感想はこちら。

【感想目次】


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