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もう一度サッカーへと立ち返る。元Jリーガー・川崎元気、「問いかける育成」で贖罪と恩返し

「元Jリーガー」であり「元大分高校サッカー部監督」という肩書きを持つ川崎元気さんに、随分ひさびさに会ってきました。現在は自身が代表を務める「Animo Select Football Club」で、育成指導に当たっています。

恩師から託された「強豪校監督」という要職

会うなり川崎さんは、「自分は教え子や保護者やお世話になったいろんな人たちを裏切ったので…」と頭を下げました。あれは彼が大分高校サッカー部監督を務めていた2017年5月。酒気帯び運転で追突事故を起こして書類送検されるという“事件”を起こしたことへの謝罪でした。

川崎さんが就任する前にサッカー部を率いていたのは、朴英雄監督。無名だった大分高校を選手権やインターハイで何度も全国上位へと導き、2011年度選手権では学校史上最高のベスト4にまで勝ち上がって話題をさらった敏腕指導者です。何より注目されたのはその戦術家ぶり。高校生の大会に世界最先端の戦術を取り込むなどして解説者を唸らせたことも。そのサッカー観を一冊にまとめようと、朴先生と4年間かけて書き上げたのがこの本。

どういう本かはこの記事を読んでいただければ大まかにわかるかも。

ところが、この本が完成した2016年夏。朴先生はご自身の強い意志で監督の座を引き、20年以上暮らした大分を離れて帰国することを決断しました。その際に「自分の後任には彼しかいない」と朴先生自ら指名したのが、大分での最初の教え子の一人である川崎さんでした。1993年に朴先生が初めて指導した大分市トレセンチームのメンバーで、その後は大分高校へと進学し、大分トリニティ(現・大分トリニータ)でプロデビュー。J1・ガンバ大阪やJ2・サガン鳥栖など6クラブでプレーしましたが、まだプロ契約を残していた2010年、朴先生に呼ばれて現役引退し、翌年から母校の指導者に。恩師譲りの戦術眼を持つ川崎さんの指導は、朴先生のサッカーに新しい概念を取り入れながら、新たな大分高校スタイルを構築しはじめていました。

当時取材させていただいて書いた記事です。川崎さんとともに指導に当たっていたのは、こちらも朴先生最初のトレセンメンバーで川崎さんと2トップを組んでいた岡松克治コーチでした。

贖罪も恩返しもサッカーでするしかない

そんなふうに順風満帆だった矢先に起こしてしまった不祥事。恩師の信頼をも裏切るかたちになった川崎さんはサッカーから離れ、中津市にあるダイハツ九州大分工場で働くようになりました。ですが、反省の日々を送る川崎さんを、学生時代からプロ時代、指導者時代に至るまでのサッカー仲間や支援者たちは、こぞってサッカー界へと呼び戻そうとします。

戻っていいものかどうか悩んだ末に、やはり自分に出来る最大の贖罪と恩返しはサッカーしかないという結論にたどり着いた川崎さんは、サッカースクール「FOOTSTEP SOCCER ACADEMY」で指導を手伝ってほしいというオファーに応えるかたちで、サッカーの世界へと戻ってきました。

そして2018年9月。日中は自動車整備工場で働きながら、自身が代表を務める「Animo Select Football Club」を立ち上げます。「Animo」はポルトガル語で「元気」を意味する言葉。対象は中学生です。

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育てたいのは「認知・判断・実行」

最初は大々的に選手を集めることはせず、川崎さんの指導を受けたいと集まってくる選手だけの、少人数でのスタート。それでも少しずつ人数が増え、来年度はいよいよスカウトした選手も入団することになりました。

学校に勤務していた頃はリフレッシュ講習に行く余裕もなく、現役時代に取得していた指導者ライセンスはすでに失効。C級、B級とライセンスを取り直すための講習を受ける中で「あらためて教えることが好きになった」と川崎さんは話します。

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また、自身が代表を務めるクラブでは、指導方針を自分で決めることが出来るのも大きなポイント。そこで川崎さんが目指すのは、選手の将来を見据えての育成です。目先の勝利は追わず、あくまでも個々を育てることに注力する。特に追求するのは「認知・判断・実行」で、認知力や判断力を養うために、とにかく問いかけ続け、選手のミスの質を見極めた上で細やかに指導しています。実行力を培うためには足元の技術の鍛錬を徹底。「トラップ1回で蹴れるところに置こう」と、プレー精度の向上にも余念がありません。

「ライセンス指導のマニュアルには、この年代ではスピードより正確さを求めるようにと書かれてる。でも、スピードはゆくゆくは絶対必要だから、僕は正確さとともにパススピードも求めるようにしてるんです」(川崎さん)

パススピードには認知や判断のスピードも関わり、切り離すのは難しい。川崎さんの指導には一理あると思えます。実際にそうやって育った選手たちの評価は高く、長崎の名門・国見高校など県外へ3名の進学が決まりました。

その指導方針に共鳴する人たちに支えられて

川崎さんが働いている「オートステーションHOT」は、クラブの最大のスポンサー。おかげで町クラブにしては珍しく、選手たちに練習着を支給することが出来ています。保護者の方々にとって、これは大きいですね。

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川崎さん自らスポンサー営業に足を運び、現在の協賛4社に新たに3社が加わる予定。「こうして支援や協力をいただきながら、いい練習環境を整えていきたい」とのこと。

また、業務提携していた「FOOTSTEP」が、「Animo U-12」となることも決定。来年、いきなり全国大会デビューだそうです。

中学時代の同級生をコーチに招聘し、指導体制も強化。川崎さんのお兄さんも、クラブの事務的なことをサポートしてくれています。

イタコーOBの旺盛な探究心は恩師譲り?

「一度はサッカーを離れようと思ったけど、まだやり残していることがあったので。自分に出来る最大のこととして、サッカーで恩返ししたい」

真摯に話す川崎さんは、暇さえあれば国内外のいろいろなチームの試合や練習風景の動画を見て、戦術や指導法を模索。「最初は消音で見て、練習メニューの意図を自分なりに考える。それからボリュームを上げて答え合わせするんです」と、指導者自らも思考することを心がけています。

その様子は「特に教わったわけでもない」と言いますが、休み時間になると愛車の運転席にこもってタブレットをいじっていた朴先生そっくり。中津市でFCジュニオールを主宰している浦本雅志さんもそうですが、恩師譲りの探究心は「イタコーOB」ならではなのかもしれませんね。

「Animo Select Football Club」のトレーニングは月・木・金・土・日曜の19時から、挾間上原グラウンドで。

月曜と木曜は体験での練習参加も可能です。
詳細は以下にて。

朴先生の愛弟子・川崎さんの今後の指導の成果に、大いに期待しています。

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