見出し画像

(大幅改訂)2020年から有効となるカリフォルニアの新制度とカリフォルニアレター(PTAL)撤廃に関して

(2020年1月に新記事「さらばカリフォルニアレター!遂にPTALからPTLへ!」を公開していますが、PTALのbackgroundなどを知りたい方は是非この記事も読んでみて下さい。PTALに振り回された時期もあったんです。)

厄介だった旧法律

カリフォルニアで卒後研修を行うには「Postgraduate Training Authorization Letter(PTAL)」と呼ばれる書類をMBC(Medical board of California)から発行してもらう必要がありました。また、他州のACGME/RCPSC認定プログラムで24ヶ月の研修を修了したIMGはPTALではなく「州免許」の申請をしないとカリフォルニアで働くことはできませんでした。
1番厄介だったことは、医学生時代に経験した「実習週数」を詳しく記載する必要があったこと。研修医のローテートでも、日本の海軍病院でのfellowshipでも、アメリカで行うobservershipやexternshipでも補うことができなかったため、実習週数が足りなかった場合は申請書類を作成してくれる卒業大学の理解と協力が絶対に必要でした。協力が得られなかったため、魅力的な病院が多いカリフォルニアで医師として働くことができず、涙をのんだ先輩方もおられると思います。
具体的な必要実習週と診療科は下記の通りです。
・全実習数の合計が最低で72週間
・以下6つの診療科は個別の必要週を満たす必要があり、合計で40週以上。①外科 8週間以上、②内科 8週間以上、③小児科 6週間以上、④産婦人科 6週間以上、⑤家庭医学 4週間以上、⑥精神科 4週間以上。

結論からいうと、2020年からはこの条件が撤廃されます。実習週数に関してはもう何にも気にしなくていいです。PTALという言葉自体もなくなります。記事の後半で詳しく説明しています。
新法律には、実習週数を定めていた項の最後に This section shall remain in effect only until January 1, 2020, and as of that date is repealed. と記載されています)

・・・

新法律を理解する前に知っておきたい2023年問題の要約

この内容はしっかりと把握しておきたいところですので簡単に解説したいと思います。
2010年9月、ECFMGが「2023年以降は国際基準に基づいて認定された医学部以外の卒業生はアメリカで医師になる申請資格を与えない」と通告しました。ご存知の方も多いでしょう。アメリカの医学部はLCME(Liaison Committee on Medical Education)という機関に厳しく評価されて認定を受けているのですが、IMGがアメリカで医師をしたいのであれば、IMGの出身大学もLCMEから認定されるレベルの大学でないといけない、と決まった訳です。その後、世界中の医学部を評価する機関として2011年に立ち上がったのがWFME(World Federation for Medical Education: 世界医学教育連盟)です。ただし、WFMEが直接大学を評価していくのではありません(下図)。

画像1

大学と直接やり取りするのはWFMEから認定を受けたagencyが担当し、基本的には各国に1つのagencyが存在しています。2015年12月に日本で発足したのがJACME(Japan Accreditation Council for Medical Education: 一般社団法人日本医学教育評価機構)と呼ばれる評価機関です。

(どうでも良い内容ですが、2023年が近いにも関わらず、例えば中国にはJACMEのような認定機関が存在していません。日本よりも断然医学部の数が多いのですが、2023年以降はECFMGに申請できない医学生、卒業生が中国では増えそうです)

2019年2月1日に更新されたJACMEのリストを見ると日本では27大学しか認定されていません。時間がかかる認定プロセスであるものの、2023年までまだ数年あります。個人的にはほとんどの大学が2023年までに認定されるのではないかなと予想しています(というか、2023年に間に合うように日本でも早期にJACMEが発足し、認定を開始しています。日本のJACMEは世界で6番目に認定されました)。JACMEから認定されれば2023年以降もUSMLEさえ合格すればECFMG certificateをもらうことができます。もちろんすでにcertificateを持っている人は何も心配いりません。

ちなみにカリフォルニアがIMGに対しての厳しい実習週数の条件を撤廃した理由は、2023年以降にECFMG certificateをもらう人達は必然的に十分な実習週数を満たすことになるからだと思います。確かに、JACMEから認定されるために日本の医学部も実習(ポリクリ・クリクラ)のカリキュラム改訂を行い、72週の実習数は最低でも確保できるようになったみたいです。LCMEから認定を受けているアメリカの医学部出身の人達はこれまで実習週数を記載する必要がありませんでした。これは、LCMEから認定を受けている =  十分な実習を経験している、と判断されていた証拠です。世界の医学部がLCMEに準ずるレベルで認定される以上、2023年以降はIMGも同等に扱われるということですね。

さて、この内容がなぜカリフォルニアと関係するのか。

・・・

2020年から有効となる新制度下でのカリフォルニアレジデンシー

2023年どうこうに関わらず、2020年以降はECFMG certificateさえあればカリフォルニアで研修できるのか、ということが気になるポイントです。

個人的に大事と思う所は1点のみ。

出身大学がカリフォルニアに認められているかどうかの確認をすること、です。

細かい点は記事の最後に記載していますが、どうもこの点だけ特に留意しておけば問題なさそうな印象です。

また、確認に際してのポイントは、認められているかどうかの判断基準が1点ではない、という点です。
以下は新法律のスクリーンショットですが、認められているかの基準は3点で、いずれかに該当すればいいようです。ここ大事です。法律の2084項で、(a)はアメリカの大学に関する内容なので関係ありませんが、(b)にそう記載されています。

画像2

2084項の(1)〜(3)の内、1番straightforwardな(3)をまず解説します。
「(3)すでにカリフォルニアから認められたリストに名前が載っている大学は2020年から最大7年間は認定大学として扱われる。」
はい、これに該当する方は「PTALからPTLに」の段落まで読み飛ばしてもらっても構いません。現時点で大学の名前がカリフォルニアのリストにあれば2020年からカリフォルニアでのレジデンシーやフェローシップにeligibleという判断でいいです。もっと言うと、JACMEから認定を取り消された某大学のように、たとえ認定が取り消されていても、カリフォルニアのリストに名前があれば7年間の期限が切れない限りカリフォルニアで研修できるということになると思います。ここも大事なポイントでしょう(ちなみにその某大学はカリフォルニアにすでに認定された大学として名前が記載されています。2027年までにJACMEから再認定されれば、その大学出身の方もカリフォルニアで医師を継続することができると思います)。

・・・

(1)(2)は分かりにくい記載がなされています。私見を含みますが、調べた結果を記載したいと思います。

まず(1)。

画像3

要約すると「ECFMGかECFMGのagencyに評価されたことがある大学で、LCME(やCACMCまたはCOCA)に認定されている大学と同等の条件を有していると見なされた大学」
「ECFMGかECFMGのagencyに評価されたことがある」という文言が分かりにくいです。が、文の後半のLCMEと同等レベルかどうかを認定、というのはまさにWFMEがやっていることで、ECFMGのagency = WFME = 各国の評価機関と捉えて問題ないと思っています。
(ちなみに調べましたが、ECFMGが直接大学を評価し、LCMEに準ずるレベルと認定したことはないと思います。)
WFMEというのはECMFGから承認されている唯一の評価機関なのは間違いないようです。

画像4

つまり、ECFMGのagencyがWFMEで、更にその下に各国の評価機関が位置していると捉えることができますから、(1)は現時点では、WFMEのagencyから認定を受けている大学、と言い換えて問題ないのではないでしょうか。
おそらく、ECFMGがWFME以外の機関を今後認める可能性もゼロではないので、WFMEという単語を使用せず、最上位に位置するECFMGという単語を代わりに使用しているだけと考えています。
でないと、意味が通りません、この(1)は。

まとめると、たとえ現時点でカリフォルニアのリストに出身大学の名前が載っていなくても、2019年中にJACMEから認定された場合は、2020年夏から始まるカリフォルニアレジデンシーでは特に心配する必要はなさそうです。後で詳しく触れますが、2020年夏開始のレジデンシーにマッチしたとしても、そのプログラムが始まるまでにはJACMEから認定を受けていないと、定められた期限内にライセンス(PTL)を受け取れない可能性があり、riskyなように思います。

・・・

次は(2)。

画像5

「WFMEのリストに載っていて、かつFAIMERのリスト(=World Directory of Medical Schools)に載っている大学」
この捉え方が正しいかどうか。
みなさんどう思いますか?英語をそのまま訳すとこの捉え方で良さそうなのですが。

WFMEにあるリストとは何でしょう。ホームページにあるのはFAIMERと同じ「World Directory of Medical Schools」だけです。前述のようにWFMEは大学を認定する機関ではないためか、これまでWFMEのagencyが認定した大学のリストはなく、それぞれのagencyのホームページに公開されているのみです。

この「World Directory of Medical Schools」はWFMEとFAIMERがコラボして生まれた”joint venture”です。

画像6

ちなみにカリフォルニア新法律には下図の通り「joint directory」という単語が記載されています。

画像7

個人的にはこの法律の文は「WFMEとFAIMERのjoint directoryである”World Directory of Medical Schools”に出身大学の名前があればいい」と言いたいのではないかな、と考えています。
先程説明したように、各国の評価機関が認定した大学というのはWFMEにはリストされていません。そもそもWFMEの認定というのは(1)の内容です(私の解釈では)。なので、書き方がややこしいけど、「World Directory of Medical Schools」に大学の名前があればいい、と言っている条件なんだろうなと今の所は解釈しています。もし私の解釈が正しければ、日本の全医学部がほとんど認定されることになってしまいます。(JACMEなどの認定機関からの認定情報が2020年からWFMEにも記載されるようになるみたいなので、もしかするとWFMEに名前が載っていたとしてもJACMEから認定されている必要性があるかもしれません。。。)

この(2)が関わってくるのは(1)または(3)の条件を満たさなかった一部の大学ですので、該当する方はいずれにせよ多くないと思います。(※注意点の項参照)

「PTAL」改め「PTL」に

PTALが廃止となり、今後は「Postgraduate Training License (PTL)」となります。カリフォルニア "レター" として慣れ親しまれていましたが(?)、レターという言葉はなくなりましたね。
一方州免許の方は正式名称は「Physician's and Surgeon’s License」のままで、変更ありません。

今後はオンラインで申請し、レジデンシープログラムも卒業大学もすべてオンラインで書類を提出することになるようです。これはとても便利になります。
また、PTLは更新が不要で(これまではPTALを年1回更新)、これもかなり良い改訂ですね。

コメント欄で共有して頂いたPDFの一部を参照下さい。こんな有用な資料があったとは。

画像8

上図でハイライトしていますが、プログラムが始まって180日以内にPTLを取得している必要があります。申請してどれくらいでPTLが取得できるか不明であるものの、例えばプログラム開始1ヶ月前に渡米してソーシャルセキュリティナンバー(SSN)を取得したとしても、かなり時間的猶予があるので、これも良い改訂だと思います。その他の必要事項は上図をご覧下さい。問題となり得る所は、前述した内容(出身大学の認定)だけのように思います。

・・・

無事36ヶ月分の研修が終了した場合、その後カリフォルニアで医師を続ける場合は州免許が必要です。PTLは36ヶ月の卒後研修後90日は有効なので、それまでに必ず州免許を取得しておく必要があります。

画像9

PDFのリンクです。
http://www.mbc.ca.gov/Licensees/SB798PD_FactSheet.pdf
https://www.mbc.ca.gov/About_Us/Meetings/Materials/1147/lic-AgendaItem5-20180726.pdf

※注意点(MBCから明確な指針が出るまでは全員に読んで頂きたい内容)

現在、MBCによるホームページの更新準備が行われているようで、おそらくERASのオープン時期がマッチング申請の締め切りまでにはMBCが新制度の詳しいまとめをアップするのではないかと予想されます。

この旧記事を読んだ方は覚えておられると思いますが、旧法律には「たとえ学生時代の実習週数が足りなくても、卒後研修分でその不足分を補うことができる」と記載されていました。にも関わらず、その救済方法が取られたことはなかったのではないでしょうか。

何が言いたいかというと、海外の医学部を認定するに際し、新法律では(1)〜(3)の3つの方法があったものの、上のPDFを読む限り、まるで(2)しか存在しないような記載がなされており、もしかすると(1)と(3)の方法ではMBC側が納得してくれない可能性があります。もちろんレジデンシープログラム側も深く理解していない可能性が高く、混乱を招く恐れがあります。

実は最近MBCに直接電話したのですが、「ちょっとまだPTALとPTLのことは分からないから、今年のmatchが不安ならPTAL申請して」という無責任な返事が返って来て、「オイ, #%#"(&"%&"#% 」と 心の中で思うことがありました 笑 MBCのスタッフはめちゃくちゃ適当だと思います。MBC側としてはPTAL申請料を取ることができますし、、、
実際のPTL申請書に基づいた内容しか理解してくれない可能性もあるだけに、たとえ(3)で自分の大学が認定されていたとしてもまだ安心はできないかもしれません。

もちろん(2)の解釈が私の予想通りであれば全く心配いりません。しかし、もし万が一JACMEからの認定も必要となる場合は2019年や2020年のマッチングでカリフォルニアのプログラムに申請できない人が出てくるでしょう。

・・・

記事を読んで下さった方から御協力のお陰で、現時点で得られる情報から大事な部分をまとめることができ、個人的にスッキリしました。あとはMBCから詳しい説明や実際の申請書が公開されるのを待つのみです。旧記事から大幅な変更となってしまい、混乱を招いたかもしれませんが、この記事がみなさんの新制度の理解に繋がれば幸いです。

《2019年4月8日追記》

MBCに大学認定基準に関して直接質問しました。新しい記事でまとめていますので、御確認下さい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?