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マラソン大会の法則

「アイスバスは何分入ればいいですか?」という質問をよく受けます。
自分もインストラクターになるまでは10分入るというのが一つの目標でした。
深呼吸して、アイスバスに10分入るという意図を設定して、いざ入水!上がったらZwiftを漕いで体温を回復するというのが私のルーティンでした。
”でした”というのは、そもそも私の場合は、健康目的なので、時間で図るのではなくて、気分が良くなって、落ち着いた気分を味わえたらそれがゴールだと気づいたからです。
安全性重視なら2分で十分ですし、アスリートはもう少し追い込まないと効果不十分でしょう。個々人の体格や代謝によっても違います。万人に当てはまるベストプラクティスみたいなものは無いと思っています。

四半世紀前に就職した当時、千葉ではサンスポマリンマラソンというマラソン大会がありました(2019年を最後に終了)。

当時、私の職場では新人は、これに参加するのが義務でした。

幼稚園の頃から走るのが苦手で、ずっと水泳をしてきたので、高校の体育の授業で走った4kmが最も長い距離でした。それでも、サボるのはいけないことだと教育されていたので、どうにか歯を食いしばって体育の持久走をこなしていた苦い思い出が蘇りました。

10キロも走るなんてとんでもない!

マラソン大会が近づいたら少しは練習しようと思っていましたが、仕事から帰るとすぐに寝てしまい、全く練習しないまま大会の日が近づいて来ます。ハイ、絵にかいたようなダメ人間スタイルです。

段々と気持ちが重くなり、サボる理由を考え始めます。練習していなのに、「練習中に足が攣って走れなくなった」とか、「風邪気味」だとか、ウチの犬ではない「犬を病院に連れて行かないと」とか、小学生低学年のようなセコい言い訳を思い浮かべては、やっぱり10km1時間くらいは頑張らないとと自分を鼓舞してみたり、これをマラソン大会当日の電車の中まで頭の中で繰り返していました。

マリンスタジアム(今のZOZOマリンスタジアム)に到着しても「やっぱり棄権すべきだった」と後悔しながら、スタート地点に向かいます。
1月のマラソン大会は寒くて、職場の先輩に言われた通りTシャツ・短パン・ランニングシューズ姿でスタートを待っていると、けっこう冷えます。脚が震えてきて、寒さのせいか気持ちも白けた感じになり、どこでリタイアするかという後ろ向きな計画を全力で練り始めます。

いよいよスタート 私の悲壮な心持ちとは裏腹に、周りの人はみんな笑顔、、、
「1万人が申し込んで数週間で締め切られる人気のマラソン大会だもんな〜」「みんな自分が好きで申し込んでるんだよな〜」

もう幽体離脱して空から、自分を他人事のように眺めているボディ・マインド・セパレーション状態で、この拷問をやり過ごそうという作戦。。。作戦なのか???

 そして、いよいよ号砲がバーンと鳴ってスタート。しかしスタートラインまでが長い!(3分くらい)「もうおウチに帰るもん」という幼児返りをしている間に、大混雑に押し出されて、ピピピっと自動計測機の音が聞こえて、スタートラインを超えているのでした。

 大混雑のなか、どつかれまくりで、昨日買ったばかりのサングラスはどこかに吹っ飛び、転びそうになりながら、周りのペースに合わせていると、いつの間にか1km、すでに人生で味わった事がないほど疲弊困憊ぐあいです  

「こんなに揉みくちゃになるならやっぱり棄権すればよかった。」と後悔しながら、最初の3kmくらいを走っていると、なぜか少し走るのが楽になってきてました。後で知ることになりますが、陸上用語でセカンド・ウィンドといい、代謝が運動に順応して楽になる時間帯です。

4kmを過ぎると人生初めての領域(チャレンジゾーン)に突入です。とたんに不安になり、心臓が破裂しそうな感じがして、翌日の新聞に「マラソン大会で20代男性死亡」という見出しが踊るのが目に浮かんでいました。超ネガティブな自己達成予言です。

そして5km地点を通過した時、相変わらず苦しいままだったのですが、「半分まで来たから、頑張ろう」という気になっていました。

しばらくすると速いランナーが折り返してきて、すれ違いざまに職場の同僚が励ましてくれました。「あと半分」という沿道の応援にも勇気づけられて、しばらく順調に走っていました。

ところが8km地点で、同じように走っているのに脚が重たくて動かないような、膝が痛いような感覚に襲われました。「ような」というのは、実際には少し遅いペースでしたが走りつづけていて、動かないわけではなく、膝の痛みも周期的に襲ってきてはおさまるという心理的な痛みだったからです。

このあたりになると、歩いている人、リタイアして横になっいる人が路肩にたくさん現れ始めます。自分も「そっち側に行って早く楽になりたい」という誘惑にかられましたが、あとで職場の先輩・同僚にバカにされなように、どうにか踏ん張って「あと2km」とつぶやきながら走り続けていました。科学的根拠はありませんが、ランニング友達の間でまことしやかに言われているのは「100m走でもフルマラソンでも8割地点が精神的にキツい踏ん張りどころ」「サロママラソン(100km)なら早めにランナーズハイに持ち込んでおくのが正解」
足の指の痛みや脇腹の痛みに耐えて、どうにか走っていると、スタジアムの入り口(ゴール地点の400m)で先にゴールした職場のみんなが応援してくれました。「あと400m、トラック1周分だ」。励まされて気持ちだけは盛り上がったものの、ラスト400mがまた長い!あと○○mとかいう情報が心理的な時計を遅く進ませるみたいで、
ラストスパートできる体力もなく失速気味にゴール!

ただスースーハーハー(金栗四三)とリズムだけ取って走っているだけの方が全然ラクでした。

ゴールしたら、「まだ11時だし、もう10㎞走れそう!」「I should have entered the half marathon.」(何で突然英語なの?)

先ほどまでの苦悩はなんだったのか?
エンドカンナビノイド全開の多幸感に包まれて、満面の笑みで、論理の破綻したおめでたい発言の連発です。

これがマラソン大会に出走するたびに、心境の典型的なパターンです。毎月ハーフマラソンを走っていた時期でも、ほぼこのワンパターン。

内なる平和を求めてアイスバスに臨んだはずが、10分とか時間にこだわると、このパターンに陥りマインドレスな体験になってしまいます。

(安全のために)タイマーをかけてアイスバスに入ったら、呼吸に集中して、お腹が温かい感じがなくなってきたら上がるようにしています。まだ余裕があってもタイマーが鳴ったら上がりましょう。
 こうするようにしてから、マラソン大会のようなワンパターンのドラマから脱却して、アイスバスは静寂を堪能する瞑想のような時間になりました。皆さんも試してみてください。

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0306453021000470

Exercise-induced euphoria and anxiolysis do not depend on endogenous o... https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0306453021000470

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