見出し画像

「らしさ」を支える最初の一歩は、おもしろがってみること | 伊豆大島ツアー&ワークショップ 2023 Summer レポート・前編

その地域で、だれかの「自分らしい暮らし」を支える仕事をしながら、自らも「自分らしい暮らし」を副業的に実践する。そんな「半福半X」のライフスタイルを模索する新たなプロジェクト「Work in Local × Social」の伊豆大島ツアーが、7月9日、10日の2日間にわたって繰り広げられました。東京・竹芝から2時間。美しい離島を舞台に、14名の参加者が考えた「Local × Social」とは? 激動の2日間をレポートでふりかえります!

1泊2日で行われた「Work in Local × Social」の伊豆大島ツアー

離島・伊豆大島を舞台に、福祉の仕事をしながら、自分が実現したい「X」にチャレンジしよう。Social も Local も、両方楽しむ人が増えたら、島の福祉は充実し、「自分らしく暮らせる人」が自然と増えていくはず! そんな妄想から誕生した「Work in Local × Social」は、社会福祉法人武蔵野会とSOCIAL WORKERS LABがコラボして企画されました。
 
今回行われたのは、1泊2日の現地ツアー。実際に働くことになるかもしれない福祉施設を見学し、施設長やスタッフなど Social な現場で働く人たちと対話したあと、大島で起業したり、お店や宿を立ち上げたりした Local な人たちと交流しながら、自分なりの「Local × Social」を考え、プレゼンしあおうというものです。さまざまな地域から集まった14名がツアーに参加しました。


◆ DAY1

●ツアーの舞台「伊豆大島」って?

大島行きの高速ジェット船「セブンアイランド大漁」

東京・竹芝のフェリー乗り場に集合すると、早速、大島へと向かう高速ジェット船「セブンアイランド大漁」に乗り込みます。大海原をグイグイと突き進む船。はじめは少し緊張していた参加者のみなさんも、船窓から眺める海をみて、不安が旅への期待に少しずつ変わっている感じがしました。1時間40分ほど経ち、船は大島・岡田港に到着しました。

いざ、大島へ! 胸が高鳴ります

大島には、岡田港と元町港の2つの港があり、どちらの港に船がとまるかは毎朝7時20分に流れる放送で島民に知らされるといいます。島の1日は、毎朝の放送を聞くところからはじまる。さっそく、大島ならではの暮らしを知ることができました。

大島に到着。港には多くの観光客の姿が

到着後、私たちを出迎えてくれたのは、武蔵野会の大島拠点「恵の園」の松岡施設長と田部課長。普段は施設の利用者の移動に使っているマイクロバスに乗って、まずは島を巡ります。日々使われているバスの年季に、武蔵野会がこの島の福祉を支えてきた歳月を感じずにいられません。大島に赴任して4年目となる田部さんの運転も手慣れたもので、島特有の曲がりくねった登り道をグングン走らせながら、道中のバスガイドも務めていただきました。

恵の園・松岡施設長
田部課長の運転で島をめぐります

岡田港から20分ほど走ると、島の南西部に「バームクーヘン」と呼ばれる縞模様の地層が突如としてあらわれます。このバームクーヘンは、昭和28年の大島一周道路の建設工事中に偶然見つかったものなのだそう。長さ600メートルにわたって地層が露出する大パノラマ。伊豆大島は現在も活動を続ける火山島です。噴火のたびに灰が積もり、気が遠くなるよう長い年月をかけ、この地層が生まれたのです。

島の噴火の歴史を伝える「バームクーヘン」

巨大なバームクーヘンの前に立ち、伊豆大島の大自然の力強さを感じます。ここでどんな暮らしができるんだろう、大島ならこんなことができるかもしれない。そんな妄想のスイッチが入る瞬間です。

大パノラマにみんな大興奮!

さらにそこから10分ほど移動すると、海が美しいトウシキキャンプ場に到着。透明度の高さから「トウシキブルー」とよばれるトウシキ海岸は、恵の園の利用者とスタッフのみなさんの息抜きスポットにもなっています。

島民に人気の「トウシキ海岸」


● オリエンテーション

時刻は12時をまわり、ちょうどお昼の時間。まだお互いに名前も知らない参加者でしたが、お昼のお弁当を囲みながら自己紹介を行いました。このツアーでなにを考えたいか、なにに期待するかなどを一言ずつ語り合い、風景の写真を撮ったり、周囲を散歩したりして過ごしました。

お昼ご飯の会場「トウシキキャンプ場」
自己紹介で親睦を深めます

ちなみに、お昼に提供されたお弁当は、ツアーの宿泊場所にもなっているゲストハウス「露伴」を経営する山口薫さんが調理してくれたもの。伊豆大島でよく獲れる「目鯛」を使ったフライ、島の名産「明日葉」のおひたしなど、地域の食材もふんだんに使われています。島の人たちが大切にしているものを「食べること」を通じて知る。そんなランチになりました。

大島の食材がぎゅっと詰まったお弁当
「露伴」を経営する山口薫さん

今回の参加者のバックボーンはさまざま。大学で福祉を学ぶ学生、まちづくりに関心のある人、福祉の仕事に関わる福祉施設の職員もいれば、仕事をやめたばかりで次のステップを考え中だという人もおられます。立場や所属はバラバラだけれど、Social や Local に、なんらかの形で関わりたい、そういう思いは共通している。だからか、ツアーは始まったばかりでしたが、なんとなく一体感のようなものが生まれ始めていました。


● 【大島恵の園見学】いざ、福祉の現場へ

 トウシキキャンプ場のそば。大島のシンボル「三原山」のふもとに、社会福祉法人武蔵野会が運営する福祉施設「大島恵の園」、「第2大島恵の園」があります。ここからは、5名ほどのグループに分かれ、施設の見学に出かけます。さあ、大島の Social と Local を五感で感じるぞ! みなさん、意気揚々とグループツアーに向かいました。

武蔵野会の障害者支援施設「大島恵の園」

まず私たちが訪れたのは「大島恵の園」。平成元年9月に開設された障害者支援施設です。現在は、知的障害のある50名弱の方が利用しています。入り口に、利用者が作成したアート作品が展示されていて、日常的に創作が行われていることが想像できます。

玄関に飾られているアート作品を、田部課長に説明していただきました

恵の園では、アートの先生を外部講師によんで、創作活動を行なっています。「一人ひとりの感性を大事にしながら、創作をサポートしてくれる先生には感謝しています」と田部さん。使う材料も使わなくなった家具や材料を、島民の方から集めているのだそうです。

中に入ると、昼食後の時間ということで、利用者のみなさんがテレビを見たり、室内で体を動かしたり、ウトウトしたりと思い思いに過ごされていました。現場のスタッフのみなさんも、丁寧に普段の様子や業務について話してくださり、「福祉の仕事」に対する具体的なイメージも湧いてきます。高齢の利用者も多く、そのせいかゆったりとした時間が流れているように感じました。

ソファーでくつろぐ利用者のみなさん

実は、この「大島恵の園」は、武蔵野会という組織にとって、とても大切な場所だといいます。もともと、障害をもつ子の「親」たちの、「自分たち親が亡き後も、安心して暮らせる施設をつくりたい」という思いから出来た施設です。「親の切実な願いに応えて設立した施設であるという思いを継承していくことが、まず私たちの根っこにあります」と松岡施設長も語ります。

松岡施設長は、原点を忘れずに継承していきたいと語ります

障害のある人たちの親が抱える「親亡き後」の問題。自分が生きている間は、自分が世話できる。でも、自分が死んでしまったら子どもたちの世話は誰がみてくれるのだろうか。そんな不安を抱えている方は少なくないはず。その不安になんとか応えたい。そういう「やむにやまれぬ思い」から福祉が始まり、30年以上の月日が経ったのだということを強く実感できました。

次に向かったのが、「恵の園」から遅れること6年、平成7年に開設された「第2大島恵の園」です。こちらも、知的障害のある方が入居しています。定義は「障害福祉事業所」かもしれませんが、利用者のみなさんにとっては、ここは自宅でもある。きれいに並んだコップや歯ブラシ、大きなお風呂、洗濯場などを見て、ここが生活の場であることが強く感じられました。

施設全体をぐるっと案内していただきました

第2恵の園では、今年の4月に島に移住し、福祉の仕事をはじめた中本なずなさんからも話を聞くことができました。中本さんは「先輩たちのサポートのおかげで、楽しく働くことができている」と言います。今後は、施設内に農園をつくり、地域の人たちとも一緒に活動にしていきたいとのこと。大島で実際に Local & Social な働き方を実践している方の話は、とても説得力がありました!

恵の園で生活支援員として働く中本なずなさん

見学の最後には、利用者の方が普段から使っている創作室の中にも入れていただきました。味のあるアート作品が並んでいて、思わずほっこりした気持ちになりましたが、机にこびりついた絵具を見て、ここで繰り返されてきた日々の重みのようなものを感じずにいられませんでした。

たくさんの色が塗り重ねられた机

日々そばで支えてくれる職員やスタッフのみなさん。そして、恵の園を「めぐみさん」という愛称でよび、暮らしをサポートしてくれている島民のみなさんがいるからこそ、「親亡き後」の安心もある。大変な仕事だとは思いますが、ここでの福祉は大きなやりがいもあるのではないか。そんなことも感じました。

● 【波浮エリア散策】そこにある Local と Social

 2つの施設を巡ったあとは、恵の園からほど近い波浮港の散策です。ちょうど、港を見下ろせる高台に見晴台があり、そこに立ち寄ってみました。参加者から飛び出す「うわー」「きれい!」という驚きの声。この日はあいにくの曇り空でしたが、海の美しさ、周囲の山の緑の濃さ、美しい地形と、歴史を色濃く残した集落の姿がはっきりと見えます。

見晴台から向こうを見渡します
波浮港沿いにつづく集落

その美しさにしばし見惚れながら、島の名物・大島牛乳アイスクリームを味わっていると、疲れもあってか謎の充足感が心の底から湧き出てきました。たしかに、都市部のように便利ではないかもしれない。娯楽だって、充実しているわけではないでしょう。でも、海があり、道があり、家並みがあり、山がある。そして職場がある。それで充分なのではないか。そんなことを感じます。

大島名物「大島牛乳アイス」
アイスの甘さが体に染み渡ります

見晴台の下に降りてみると、その思いは一層強くなりました。明治時代から昭和にかけて、文豪や観光客らがこぞって足を運んだのが、ここ波浮港です。まちの一角には、当時の面影を残す建物が今なお現存しているのですが、U・Iターンしてきた人がこの物件を預かり、カフェやゲストハウスとして活用する動きが、この数年活発化しているそうです。

どの建物も、大島らしさと、オーナーらしさが渾然一体となっていて、とても魅力的。このまちを、この風景を、最大限におもしろがってやろう。魅力を、目一杯引き出してみよう。そんな思いをあちこちに感じました。

当時の面影と大島の歴史を継承する建物

新しい建物にはない、このまちの歴史そのものを体現する建物。それがこのまちの価値なのでしょう。どこをみても「大島らしい」風景を感じます。そう思って、ハッとさせられました。「その人らしい暮らし」を支えるのが福祉だとしたら、まちづくりも「そのまちらしい暮らし」を支えるものなのだと、瞬間的に理解できたのです。

港でちょっと一息

福祉も、まちづくりも、Social な取り組みも、Local なアクションも、目の前の人、目の前の風景の「あるがまま」を受容するところから始まる。そして、その人らしさ、そのまちらしさを引き出しながら、おもしろがりながら、じわじわと膨らませていく。そういう意味で共通しているのではないでしょうか。アプローチは異なっていますが、Social にも、Local にも、重なる部分がある。そう。Local で Social な暮らしは、ここにもうあったのです!!

そう思えたら、なんだかじわじわと妄想が膨らんで、あんなこともできるかも? こんなことが体験できるかも? と次々にアイディアが浮かんできました。そして、今日一緒に旅をしてきた仲間たちに、思いついたことを話してみたくなりました!

見聞きしたものを参加者同士で共有しあいます

まち歩きを終えた私たちは、波浮港から続く階段「文学の散歩道」を上がったところにあるゲストハウス「青とサイダー」で小休止。さあ、これから待ちに待った夕食と交流会です。ツアーの参加者だけでなく、武蔵野会で働くみなさんも、大島でさまざまな活動をするみなさんも参加します。こんな気持ちのいい海風の中で飲むお酒はきっと格別な味になるだろうな。どんな楽しい時間になるんだろう! と期待に胸を膨らませながら、私たちは交流会のスタートを待ちました……。

文豪たちが歩いた「文学の散歩道」
波浮港にあるゲストハウス「青とサイダー」

というところで、レポートの「前編」はおしまいです。夜の交流会と、2日目のワークショップの模様は、このあとの「後編」でご紹介します!おたのしみに!  (追記:8月25日に後編を公開しました!)

* * *

9月10日に行われる「公開プレゼン&トークセッション」の申し込みを、先日より開始しました! 当日の詳細は、以下のpeatixでチェックしてみてください。

▽ 詳細確認・お申し込みはこちらから ▽


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?