予測市場から読む世論とオッズの読み方
大統領選が11月8日に行われるので、ご存知の通り今年の米国はその話題で持ちきりである。つい2週間ほど前にはマスコミが「トランプ氏が追いついた」と報じ、今週はまた別のマスコミから「クリントン氏がリード」と報じられている。こうした調査はどの程度信頼できるものだろうか。世論調査には、選んだサンプルの偏りによって正確な数値が出ないことがままあるし、マスコミ自身のバイアスによって自ら偏りが作られているケースも考えられる。
過去の実績では、世論調査よりも一般人に選挙結果について賭けさせる「予測市場」の方が精度が高いことが知られている。アイオワ大学の電子予測市場の精度は、1988年から2004年までの調査によると74%のケースで世論調査を上回っているという。
選挙予測市場の精度が高い理由の一つは、選挙の投票者と予測市場の参加者がかなりの程度重複してることだろう。例えば市内の明日の天気について市民全員に予測させれば、現在の空模様に影響されて大多数の人が予想を大きく外すことがあるが、選挙であれば仮に有権者の判断が妥当でなかったとしても、多数決で決まる。
もう一つの理由は、予測市場は市場参加者自身が自動的に偏りを補正する方向に働くことだ。例えば、自分はトランプを支持しているけれども当選するのはクリントンだろう、と考えれば予測市場ではクリントンに投票するのが合理的だ。
8月4日現在、アイオワ電子市場(IEM, Iowa Electronic Markets)によれば、民主党候補(クリントン)勝利の可能性が72%、共和党候補(トランプ)の可能性が28%となっている。この数字は数週間前にはいったん、各々65%、35%程度になったのでクリントン氏のリードが広がっていはいるものの、必ずしも一時トランプが並んだということではない事が分かる。
少し注意してもらいたいのは、これはどちらが勝利するかを予測したもので、得票率を予測したものではないことだ。得票率の予測は別個に予測されており、民主党候補が53%、共和党候補が45%となっている。極端な話、仮に民主党候補の期待得票率が50.1%、共和党が49.9%のように接近している場合でもその確実性が高ければ民主党候補の勝利の可能性は、8割とか9割とかになりうるということだ。
英国のEU脱退に関しては、予測市場が結果を外したが、これは双方の期待得票率が半々に非常に近い状態だったので、勝利を予測するのが難しかったと解釈することができる。
ところでオッズの表示の仕方には、他にもいくつかの方法がある。一つは小数表示のオッズ (decimal odds)によるものだ。例えばBovadaという予測市場の現在のレートで言えば、クリントン氏が1.3倍、トランプ氏が3.5倍になっている。これは、民主党に1ドル賭ければ当たった時に1.3ドル、共和党に1ドル賭ければ当たった時に3.5ドルになることを意味する。胴元がどんな結果でも等しい利益を手にするためには、各選択肢(i)を予想した参加者の割合(p_i)とオッズ(o_i)の積は等しくなってなければならない。従って、各選択肢が実現する確率(p_i)はオッズの逆数に比例する。上の例で言えば、民主党と共和党が勝利する確率の比は、
1/1.3 : 1/3.5 = 0.769 : 0.286
となる。合計が1にならないのは胴元の儲けがあるからだ。二数の和が1になるようにこの
比率を変換すれば、
0.769 : 0.286 = 0.729 : 0.271
となりIEMの確率とほぼ同じであることが分かる。なお、小数表示のオッズには利益の部分だけを換算して、民主党を0.3(=3/10)、共和党を2.5(=5/2)、のように表示する市場もある。
もう一つのオッズの表示方法は、アメリカ方式のオッズ(American Odds)である。これは、
- 小数表示のオッズ(Odds)が2以上の時は、100 * (Odds - 1)
- 小数表示のオッズ(Odds)が2未満の時は、-100 / (Odds - 1)
によって算出される。例えば、上の例で言えば民主党はOddsが1.3、共和党は3.5なので、
民主党:-100/(1.3-1) = -100/0.3 = -333
共和党:100 * (3.5 -1) = +250
となる。
11月までマスコミは色々な記事で大統領選を盛り上げようとするだろうが、世論調査と予測市場を並べてみれば正しく現状を把握することができるだろう。