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組織エンゲージメントと役員報酬を連動させる前に考えるべきこと

 2023年3月期決算の有価証券報告書より企業の人的資本の開示が始まりました。その人的資本経営の重要なキーワードの一つに「エンゲージメント」があります。これは、社員の企業に対する自発的な貢献意欲を指します。そして、このエンゲージメントを人的資本経営の中心に据えている上場企業も増えてきています。

 その中で、少し気になる流れも出てきています。日立製作所、出光、京浜急行電鉄などいくつかの企業が、役員報酬と組織のエンゲージメントの状態を連動させるというのです。(「役員報酬、従業員の働きがいと連動
日立や出光が導入
」日経新聞、2023年6月7日)

   人に一定の行動をとってもらいたい場合、その行動の結果を定量的に測定し、報酬に結び付けるというやり方があります。一見有効そうに見えますが、上手く機能せずに失敗する場合も多々あります。

   イギリスの経済学者グッドハートは、こんな風に言っています。「管理のために用いられた測定はすべて信頼できない」と。言い換えれば、測定され、それに対して報酬が与えられるものは、なんらかの形で改竄されたり、間違った形で集計されるといいます。

   これはグッドハートの法則と言われ、経済学では有名です。しかし企業経営の世界ではあまり聞かないかもしれません。そのためか、あらゆる事業活動をKPI化し、報酬に結び付けようとする風潮も根強く存在します。

   このグッドハートの法則を裏付ける事件がありました。半世紀以上の前のインドでの出来事。その頃のインドでは、路上に出現する猛毒コブラに悩まされていました。そこで、当時インドを統治していた英国インド総督府は、コブラと引き換えに報酬を渡すことにします。

   最初は成功しコブラは減ったのですが、人々は報酬のためにコブラを養殖するようになります。これに気がついた総督府はその報酬制度を廃止。すると、養殖していた人々は、飼育していたコブラを放ち、逆にコブラが市中に増えてしまったそうです。

   このような失敗例、つまり外的報酬で行動を促そうとしたが、思い通りならなかった例は、あらゆる分野で枚挙に暇がありません。(詳しくはジュリー・Z・ミュラー『測りすぎ~なぜパフォーマンス評価は失敗する
のか~』で紹介されています)


 報酬連動の全てが悪いとは言いません。ただ、効果的に進めるには、報酬に結び付ける前にやることがあります。それは、その促したい行動が、組織にとってどれほど重要かということをしっかり説明し、必要性を認識してもらうということです。

 エンゲージメントの向上の例で言えば、役員に会社全体のエンゲージメントを高めることの必要性・重要性を腹落ちさせる。もっと言えば、企業全体でその機運を高めることが大切になります。それなくして、報酬先行で促しても、中身が形骸化したり、「正しく」ない方法で結果の積み上げがなされるかもしれません。

 報酬に結び付ける前に、まずは「よし!これは必要、やるべき!」といった内からの声を上げてもらうために、経営側の地道な努力が必要です。

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