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チームの知識を最大限に活かす方法 ~トランザクティブ・メモリー・システムの重要性~


コンサルタント時代の恥ずかしい経験

34歳のときに私は、それまで勤めていた事業会社から外資系のコンサルティングファームに転職しました。意気揚々と入ったは良いものの、研修もそこそこに直ぐにクライアントを任され、厳しい環境に身を置くことになります。十分な引き継ぎも受けずにクライアント対応し、お客様からの要望に右往左往していました。

そんな中、ある顧客担当者の方からサービスについての質問がありました。私が入って間もないことを理解してくれたのか、「このことなら○○さんなら分かると思いますよ」と、親切にも先輩クライアントの名前を出して下さました。とても恥ずかしい思いをしたのと同時に、社内の専門知識の在処を知っておく重要性を再認識したのを思い出します。

トランザクティブ・メモリー・システムとは?

組織学習研究においてトランザクティブ・メモリー・システム(TMS)という概念があります。一般的にTMSは、「誰が何を知っているかがチーム内で共有されている状態」と定義されます。組織にとって重要なことは、What(何を知っているか)ではなく、Who Knows What(誰が何を知っているか)であるという考え方です。

チームで効率的に仕事をしようとすれば、自ずと、営業、財務、開発などに担当・専門分野が分かれます。勿論、それぞれの専門が深掘りされていくことも大事ですが、さらに必要なことは、個人に蓄積された専門知識が効率的にチーム内で引き出せるかどうかです。このTMSが有効に機能し、「あ~あのことならあの人に聞いたら良い」とすぐに分かる状態になっていれば、組織は効率的に動いていることになります。

そして、TMS は、三つの要素があります(※1)。
●専門性:誰かどの専門知識を持っているか認識されているか
●信頼性:メンバーが他のメンバーの知識・情報を信頼しているか
●連携:チーム内が連携された状態で仕事を進められているか
この三つが高いレベルにあることがTMSでは求められます。

TMSを阻害する二つの要因

一方で、このTMSが阻害される要因も研究されています。ここでは二つの阻害要因を紹介します。

一つは、メンバー間でTMSが構築されているのに、それを無視したアサインメントが行われた場合です(※2)。例えば、チームで最も英語が得意なAさんがいてメンバー間でもそのことは周知の事実なのに、マネジャーがそれほど英語が得意ではないBさんに英文翻訳をお願いしてしまうといったケースです。そうなると、Aさんのモチベーションが下がるのは勿論、Bさんも本来の得意分野に時間を割けなくなります。またメンバーからのマネジャーへの信頼にも影響が出てくるでしょう。

プレッシャーの強い組織風土も阻害要因として挙げられます(※3)。タスク量が多く常に高いハードルが課せられプレッシャーの高い組織では、メンバーが自分の仕事ばかりに集中していくことになります。その結果、本来、チームで情報共有し、より専門知識の高いメンバーの意見をもらうべテーマや課題があっても、自分で処理してしまうということが発生します。

また、そういった組織では、新人が入ってきても、皆自分のことで精一杯。当然、フォローが手薄になり、新人の成長や早期戦力化にも影響が出てしまうでしょう。前述の入社しての私がまさにそれに当たるかもしれません。

TMSは業績との相関も高い

TMSは、組織論の中でとても注目を浴びている考え方です。TMSが構築されている組織は業績にも良い影響があると、いくつかの研究で実証されています(※1)。チームメンバーが互いの専門性を理解・信頼し、情報のやり取りを円滑に行うことで業績効果を高められると言えます。

組織としての取り組み

組織パフォーマンス向上のためには様々なアプローチがあります。そして、組織特性に応じて適切な手段を選んでいくことが肝要です。個々の専門性が高く、知識が偏在し易いプロフェショナルチームではトランザクティブ・メモリー・システム(TMS)が不可欠と言えるかもしれません。そういった組織では、前述の三つの要素(専門性・信頼・連携)でTMSを定期的に点検しておくことをお勧めいたします。

現場のマネジャーは何をすべきか?

現場マネジャーは、常に、正しくメンバーの知識や専門性を理解する必要があります。また、1on1を通じてその情報を逐次アップデートすることも大事です。その上で、正確な仕事の割り振りを行い、個々の力を発揮させること。そして、組織にプレッシャーがかかっている状況であれば、率先してコミュニケーションを図り、メンバーが情報共有し易い環境を作っていくことも重要なファクターと言えるでしょう。

<参考文献>

※1)村瀬俊朗, 「トランザクティブ・メモリー・システムとは何か」, 英治出版オンラインnote
※2)入山章栄, 「世界の経営学者はいま何を考えているのか」, 英治出版, 2012, p.83-103.
※3)大沼沙樹, 「組織風土とチームの多様性がトランザクティブ・メモリー・システムに及ぼす影響」, 日本経営学会誌 ,第43号 p.66-79. 2019

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