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コーチング型マネジメントは、部下の積極性を引き出し自身の負荷軽減する!〜2000人の管理職の就業調査から見えてきたこと〜

昔の管理職はやる気に満ちていた

もう20年も前のこと。事業会社で人事担当をしていた頃、組織サーベイを全社員に対象に実施したことがあります。当時、その会社は、若手が多く、活気に満ち溢れ、みなモチベーション高く働いていて、調査結果も予想通り、若手の「仕事への満足度」が高いという結果となりました。少し意外だったのは、課長職、部長職と職位が上がる毎に「仕事への満足度」が点数がさらに高くなっていたこと。「権限も広がり仕事が面白くなるんでしょうね。どこの会社もそうですよ」と調査を依頼したコンサルタントが事も無げに言っていたのを思い出します。

「働き方改革」が管理職を変えた

現在は、私がコンサルタントになり、様々な会社で組織サーベイを提供しています。その中で、若手よりも課長職の方が満足度が高いという結果はあまりなく、多くの会社で、課長職の「仕事への満足度」がすべての職位中で一番低い結果となります。

この20年で何があったのか?
おそらく風向きが変わったのは、2019年4月にから順次施行された「働き方改革関連法」だと思われます。時間外労働の上限規制が導入されたことで、残業できない部下の仕事を管理監督者の課長が担当することになります。さらに、課長自身も労働時間を把握されることになるので、自分自身も時間外労働をし難い状況に置かれることも多くなっています。業務負荷のみならず精神的負担も以前より増しているが現在の課長職だと思われます。

さらに加えると、コンプライアンス、サステナビリティ、ダイバーシティ&インクルージョン等、会社で取り組む様々なテーマに対して現場で対処しなくてはならず、マネジメントの難易度も上がってきています。課長職の仕事の満足度が昔よりも下がっているのは無理のないことなのかもしれません。

管理職の負荷を軽減するのは「部下」

その負荷を減らすために、上司や人事が適切な支援をしていくことも大切だと思いますが、一番のキーパーソンはやはり部下です。部下との関係性が悪く、コミュニケーションが上手くとれないとなると、管理職の負荷は一層重くなります。一方で、部下との関係が良く、主体的に動く部下が多ければ、負荷はかなり軽減されるのではないでしょうか。

2019年にパーソル総合研究所が2000名の管理職に対して、就業負担に関する定量調査を行いました。その報告書の中で下図のような分析結果が提示されております。そこから言えるのは、管理職の負担感にマイナスの影響、つまり負担を軽減しているのは、部下の「積極的行動」。「積極的行動」とは、”上司の出す要求、目的を理解し一生懸命働き”、そして”自分の割り当てられた以上の仕事を進んで行う”、さらには、”上司や組織のために能力を積極的に発揮している”といった行動を意味します。一方で、上司の顔色ばかり気にする「配慮的行動」や、上司を批判し、自分の意見を無理に押し通そうとする「批判的行動」をとる部下が多い場合は、管理職の負担感が増すようです。

パーソル総合研究所 「 中間管理職 の就業負担に 関する定量調査」P.40

積極的な部下を増やすには?

調査では、どういうマネジメントスタイルを取っている上司に、積極性の高い部下が多いかも分析しております(下図)。結論から言えば、「信頼・承認のマネジメント行動」を取っている上司のもとには、「積極的行動」を取る部下が多いとのこと。一方で、「厳格・厳密なマネジメント行動」を取る管理職のもとには、「配慮的行動」、「批判的行動」の部下が多く存在しているという結果になりました。

パーソル総合研究所 「 中間管理職 の就業負担に 関する定量調査」P.41

「信頼・承認のマネジメント行動」というのは、
・部下を信頼している
・部下の能力を認めている
・部下が優れた仕事をした時それを認める
・部下の話に関心を示す
といった行動を指します。これらは、所謂コーチング型マネジメントスタイルと言えます。

組織の置かれた状況にもよると思いますが、管理職が自分業務の負担感を軽くするには、まず、自分のマネジメントスタイルをコーチング的なものに変えていくことが必要です。それを続けていくことで、指示を具体的に出さなくても主体的に行動をとる部下が増えていくこと、それがこの調査結果の言いたいことの一つです。

すぐに始められるコーチングのティップス(ちょっとしたコツ)

コーチングに関する書籍は数多く出ていますが、それらを読んでもすぐに実践するのは難しいかもしれません。ここではまず、コーチングの入り口となるティップスをご紹介いたします(下図)。見て頂ければ分かる通り、これらのティップスのすべての根底にあるものは、まず「相手の存在をしっかり認める」ことです。その意識をベースに置きながら、試しやすいものから始めてみてはいかがでしょうか。「名前を呼ぶ」といった簡単なことでも部下との関係性に変化が出るはずです。

最後に

仕事に負担感を感じてる管理職の方は、先に挙げたティップスをとっかかりとしながら徐々にマネジメントスタイルをコーチング型に変えていくことも一考の余地があると思います。それによって、部下の主体的アクションが増えれば、業務負荷が減るだけでなく、部下の成長や組織の活性化にも確実に繋がっていくでしょう。そして、管理職が本来の業務に集中し、より規模感の大きい仕事や質の高い仕事で成果をあげられれば、「なり損」と言われてしまっている管理職に魅力を感じる人もこれまで以上に増えていくように思います。


参考資料
パーソル総合研究所 「 中間管理職 の就業負担に 関する定量調査」