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『ためいき』

給料日。
あまりに軽い封筒を手にすると、笑えてくる。

他に収入のない僕にとって、30,952円は安い金額ではない。しかし、週に2回、4時間の労働。血と汗の結晶がたったのこれだけ。
とはいえ、店長を血も涙もない人間だとは思わない。
血と汗と涙と、なんだろう、BTSかな。

いま気付いたことがある。

人は、少なくとも僕という人間は、お金のために働くことができない。

稼いだお金で出来ることを考える。それは解決にならない。
「合格したらご褒美で美味しいパンケーキを食べられる。だから試験勉強を頑張ろう。」なんて馬鹿げている。パンケーキは好きなときに好きなだけ食べられるのだから。

クイズ大会で優勝するために毎日トレーニングを重ねるのは理解できる。
いくら机に向かったってメレンゲに艶はでない。

「文句ばかり言うな。」

義務教育もまともに修了していないような僕は、おそらく不満を言える立場にないのだろう。

学校に行くのが何だ。果たしてそれほど貴いことを学ぶ場所なのか。ーそんな風に言えたなら、どれだけ気持ちが軽くなるだろう。

兄は、不登校は「選択だ」と言う。
僕は「失敗だ」と思う。

きっと学校は成功体験をして、その悦びを知るための巣箱で、自己肯定感を十分に育んだ鳥たちは、未熟ながらも大きく飛び立つ。

僕はその養分、人間として必要不可欠なはずの養分に恵まれることなく、誤った方向へ枝を伸ばしたのち、枯れてゆくのだ。

高く飛び立ち、称えられる鳥と、人知れず踏み台にされ、忘れられる枝。

ぼくは人生失格なのだろうか。

「たとえ失敗だとしても、誰も気にしないよ。今からでも変われるさ。」

そんな優しさはそっと包んで深くに埋める。

誰も気にしない?気にしているのは本人だ。その当人が気にするから問題なのだ。

面倒な完璧主義と呆れるほど怠惰な己の間で、葛藤やら悶着やら、そんなものに多大なエネルギーを消費する。そんな無駄な時間が僕の中には流れている。

もし今後、仮に小さな成功を手にしたとしても、僕が喜びに支配されるのも束の間、すぐに自己嫌悪に苛まれる。これだけは確かに思える。

そう、僕には過去も未来も変えられないのだ。

ある人は言う。
「過去が未来をつくるのではない。これからの未来が過去に意味を与えるのだ。」

僕は消すことのできない自らの過去に囚われ、どんな過去の思い出も、将来のどんな体験も、すべてが煙を纏った不気味なものとなり重くのしかかってくる。
そうとしか考えられない。

それに、いつの日からか、変わることが正義になってやしないか。

夢をもつのがよい。やりたいことをもつのがよい。
自分が世の中に貢献するために、世界の変化を柔軟に受け入れ、自らを変える努力をしなければならない。

そんなの誰が決めた?

おそらく貴方は、降りしきる雨の中で、雨がやむことを願う人を馬鹿にするだろう。自分から傘をさせと。雨を避けられる場所を自分で見つけろと。
そんなわがままでいいのか。ぼくは雨に濡れたって気にしない。

虚無、諦め、溜息ー。
そんな弱いところを、この小さな手で確かに握っていたいんだ。

----- inspired by『BAN』櫻坂46


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