#3 - Michael Richards "Are You Down?" (The Bronx Museum)
マイケル・リチャーズというこのアーティストは、社会の不平等、不正義などをテーマに制作していた黒人のアーティスト。1990年代に活躍したが、なんと、現役真っ最中の2001年、同時多発テロに巻き込まれて亡くなってしまう。(なんと38歳という若さで。)彼のスタジオがワールド・トレード・センターの中にあったそう。
そんな同時多発テロで犠牲になったアーティストがいたんだ、と初めて知って驚いた。
彼のことは以前は知らなかったのだが、ブロンクス美術館に行こうと思い、たまたまやっていたのが彼の回顧展だったのだ。
ブロンスク美術館は毎年NYをベースに活動するアーティストのためのフェローシッププログラム(AIM Fellowship)を行なっていて、選考で選ばれたアーティストは約一年間美術館で開催されるミーティングやイベントに参加して、成功しているアーティストやキュレーターなどと交流を深めたり、スタジオビジットをしたりしてアーティストとしてのキャリアを伸ばすための活動ができる。
そのプログラムに、今年も応募しようと思って、応募するからには一度美術館を訪れてみようということで、足を運んでみたのだ。
私はブルックリンに住んでいて、ブロンクス美術館までちょっと遠い。だから今まで来たことがなかったのだ。
実はマイケル・リチャード自身もこのフェローシップの卒業生で、生前はこの美術館で展示もやったそう。だから、ブロンクス美術館は彼の作品や彼に関する資料をたくさん持っていて、展示内容も充実している印象だった。(展示スペースは小さいが、内容はよかった。そして、誰でも入場は無料。)
90年代までには、飛行や航空が彼の大きなテーマとなっていた。彼は飛行の二面性に惹かれていたそう。飛ぶことは、自由であり、降伏でもある、と。Tuskegee Airmen という第二次世界大戦中のアメリカ初の黒人パイロットが特に彼の作品の重要なレファレンスになっていたようだ。
この飛行機の彫刻、近づいてみると、髪の毛で形作られている。この黒くてカールのかかっている毛は、アフリカ系アメリカ人の象徴としてのマテリアルだ。
こちらにも飛行機が。
なんだか、飛行機に夢中なところは宮崎駿を思い出させた。飛ぶことに魅せられたアーティストたち。『風立ちぬ』でも飛行機の二面性が描かれていたよな。夢としての美しい飛行機と、戦争に使われる戦闘機。夢を追うことと戦争に加担すること。自己矛盾。
話が逸れてしまった。
これは…パイロットの帽子。
また、マイケル・リチャードは、彫刻を作る際に自分の体の型をとって作品にしていたそう。黒人に対する暴力や社会の不平等なシステムについて、神話や歴史を引用しつつも自分の経験に基づいて、質量のある表現をしていった。
これはすごく心に残っている彫刻。「ジェイコブはハシゴを登っていって死んだ(頭を無くした)」と書いてある。社会のハシゴを必死に登っていった先に、足元を掬われた黒人の姿が目に浮かぶ。ドナルド・ジャッドを引用しているよう。
正面からみると文字が壁に写っていて綺麗だった。
これは、5つの首が台に乗っており、真ん中の首だけ回転している。
タイトルは、"A Loss of Faith Brings Vertigo"で、「信仰の喪失はめまいをもたらした」という意味になる。ここでいうVertigoは、調べたところパイロットなどが飛行中に一時的に平衡感覚を失うことを指すようで、ここでも飛行に関するレファレンスがあることがわかる。
両端4つの台には金のプレートに"When I was young, I wanted to be a policeman"(若いときは警察官になりたかった)と書いてあり、真ん中のプレートだけ、タイトルの文句"A Loss of Faith Brings Vertigo"が書いてある。
Black Lives Matterで警察の黒人に対する暴力の問題が全国的な議論になったが、今なお続く問題を思い起こさせるインパクトのある作品。
これもパイロット。
タイトルが、"free for all"(万人に自由を)と"free fall"(重力によって落ちること)をかけているようだ。これも二面性だろうか。足にも釘が刺さっていることから、キリストの聖痕も思い起こさせる。
これは3体ともTuskegee Airmenという黒人のパイロットを模した彫刻。このパイロットはイカロスのイメージだとか。ここでも神話が用いられている。
この展示の詳細はこちら↓
余談
美術館の中から見えた紅葉が綺麗だった。黄色い内装とマッチしていた。
ニューヨークで学びアーティストとして活動するための資金とさせて頂きます。