『性風俗サバイバル』出版記念イベントVol.1『コロナ禍の路上で生きる ~夜の歌舞伎町、路上で客を待つ彼女たちをどう支援するか~』開催レポート
2021年4月23日(金)19時~21時、『性風俗サバイバル』(ちくま新書)出版記念イベントVol.1 『コロナ禍の路上で生きる ~夜の歌舞伎町、路上で客を待つ彼女たちをどう支援するか~』を開催いたしました。
新宿・歌舞伎町の一角には、「立ちんぼ」や「街娼」と呼ばれる、路上で売春の客待ちをする女性たちの集まるエリアがあります。
二〇二〇年四月に緊急事態宣言が発出された直後も、そのエリアには客待ちをする女性たちが立ち続けていました。
路上での客待ちや勧誘は、売春防止法第五条で禁止されている、れっきとした違法行為です。悪意のある客から性暴力やストーカー、盗撮や盗難の被害に遭うリスクも大きく、性風俗店に在籍して働くことに比べると、安全面でも収入面でも、路上に立つメリットはほとんどないように思われます。
にもかかわらず、コロナの影響で性風俗による収入を失った女性たちの一部は、「行政や支援団体に相談する」のではなく、「路上に立って客を取る」=街娼として売春を行う、という選択肢を取りました。
なぜ彼女たちは、コロナの渦中に歌舞伎町の路上に立つという選択をしたのか。そして、路上に立ち続ける彼女たちを公助につなげるために必要な支援の在り方とは何か。
緊急事態宣言下の歌舞伎町で夜回りを実施していた数少ない支援者の一人である、NPO法人レスキュー・ハブの坂本新(さかもと・あらた)さんにお話を伺いました。
第一部:坂本さんの発表(抄録)
(2020年4月・緊急事態宣言下の歌舞伎町 撮影:坂本さん)
・警備会社での8年強の海外赴任の経験から、どの国でも女性が弱い立場にあることに気づき、なんとかしたいと思っていた
・弱者を守る活動をするためには、会社に所属していると制約がある
・「このような支援がある」と提示しても、実際に一人で行動できる人は少ない
・相談したくても、まわりに夜職以外の大人がいない=夜職以外の選択肢を提示できる大人がいない女性が少なくない
・女性たちが抱えている困難は、当事者の責に因らないものも多い
・たとえ自己責任であったとしても、本人が「変わりたい」と思うのならば理由は問わず支援する
・行動を伴う支援をする
・支援者としてではなく、一人の人間として関わる
・支援者が自分の立場から一歩踏み込む勇気が重要
第二部:対談 坂本新×坂爪真吾
聞き手(Q)坂爪、回答(A)坂本さん
Q:不安を抱えた女性たちを支援するにあたって、どのようなことを心がけたのか?
A:信頼関係を築くこと。自分を本当に助けてくれる人だと思ってもらえる関係を築くことが大切。
Q:自己肯定感が低い女性たちと接するとき、心がけていることは?
A:相手を否定せず、話を聞くこと。過去や価値観を問いただしたいという気持ちを抑える。必要なのは、本人が置かれている状況を理解し、信頼関係を築くこと。
Q:女性たちが「彼氏」と呼ぶ男性たちは、実際にはホストやスカウト、買春男性であることが多い。彼女たちが、(行政やNPOなどの支援者ではなく)そうした男性に惹かれる理由は?
A:相手の男性も、同じような生育歴や環境の中で苦労してきた人であることが多いので、引け目を感じず、等身大の相手として付き合えるからでは。
Q:女性にとっては、同性より男性の方が話しやすい?
A:それはわからない。ただ、同世代の同性だと、自分の現状と比べてしまい、引け目を感じてしまうかも。強がらなくてもよい相手のほうが、自分をさらけだせるのではないか。
Q:自助や周囲のサポートがないとそもそも公助につながれないという現状をどう思うか。
A:民間の支援がないと公助が利用できない、ということは感じる。行政の支援は死角が多く、足りないことがたくさんある。制度はあっても、実際にそれで暮らせるか、それだけで生きられるかは、別問題。
Q:公的機関とつながる上で、気を遣っていることは?
A:批判からは何も生まれない。批判をすると行政と壁が出来てしまい、結果的に、そのしわよせは当事者にいく。困っている人を本当に助けるためには行政の力は不可欠であり、行政につなげていくためには、支援団体と行政の信頼関係が必要。支援団体のほうから歩み寄る姿勢が大切だと思っている。「誰が当事者の現状や気持ちを一番知っているか」という小競り合いをしている場合ではない。そもそもの目的は何かを明らかにして、お互いに信頼関係や安心感を作らなければいけない。
Q:福祉の一線を越えた支援が必要なとき、どこで線を引くのか
A:支援は、やろうと思えば、どこまでも延々と続く。お金もそう。その都度ごとに判断するしかない。どこが正解かはわからない。検証もできない中で、目の前の人を見て判断していくしかない。
Q:支援者や専門職としてだけではなく、「人間として」関わることが必要というのは全く同感であるが、結果的に「個人」としての支援(職人芸)になってしまい、組織的に活動を展開できないというジレンマがあるのではないか。
A:そこは悩ましいところ。支援者と当事者が共依存になってしまえば、女性の自立にもつながらない。女性が最も辛い期間を抜けて、次の支援につないだタイミングで手を離さないといけない。組織が大きくなると、ルールや規範が必要になる。今は自分一人でやっているから良いが、組織が大きくなれば問題になる。信頼できる人と少人数で動くのがいいと考えている。少人数でも「ハブ」になることはできるはず。
第三部:参加者からゲストへの質疑応答
<キャリアカウンセラー(男性)からの質問>
Q:風俗業から介護職への転職支援の経験あり。坂本さんが支援してきた女性たちは、できれば昼の仕事をしたいという人が多いのか、夜の仕事を続けていくという人が多いのか?
A:年齢的に一定のところまでいくと「昼職に転職したい」という人が多い。内心では苦しいと思っている人も多いと思う。
<元当事者 ・介護職(女性)からの質問>
Q:どこに行けば当事者とつながれるのか?
A:歌舞伎町、池袋、新宿を中心に回っているが、現地に行けば女性たちはいる。直引きの売春の子を見つけるとすれば歌舞伎町だと思う。どんな困難を抱えているかによって、行く場所は変わる。
Q:歌舞伎町という土地柄、危ない目にあったりしたことはないか。その場合の対処は?
A:石原都知事の歌舞伎町浄化作戦でヤクザは減った。何かトラブルを起こしてしまうと今後の活動に支障が出るので、夜回りをするにあたっては、警察署と連携し、活動時間や内容を共有している。
Q:一般職から福祉職に転職するうえでジレンマはあったか?
A:給料が下がることへの不安、福祉の知識がなくてもやっていけるのかという不安があった。転職後1年は思い通りにならず、人生最大の失敗かと思うこともあった。
<NPO職員(女性)からの質問>
Q:これまで2年間アウトリーチする中で、どのようなリソースがあったらもっと良いと思ったか?
A:そもそも、解決するべき問題が見えるまでに時間がかかる。何かがあったとき、すぐに相談できるような場所があったらよい。歌舞伎町には家や居場所がない女性がたくさんいるので、トイレ、携帯の充電、寒さや暑さを避けられる場所、食事や休息の取れる場所が必要ではないか、そこで自分の思いを吐き出せたら良いのではないか。
<司会(女性)からの質問>
Q:女性に話しかけたとき、「この人、買ってくれるお客なんじゃないのか」と思われたり、支援する過程で恋愛関係になってしまったりする可能性もあるのではないか。初めて女性に話しかけるとき、どんなことに気をつけているのか。
A:初めて話しかけるときは、警戒されるのが普通。「警察じゃない」と言う。恋愛関係になりそうな時はないが、その人だけを特別視している感じは出さない様にしている。
<ノンフィクションライター(女性)からの質問⇒坂爪>
Q:支援を継続するために、どんな後ろ盾を?
A:助成金を確保する、寄付金を集める、自主事業で稼ぐ、の3つ。クラウドファンディングや新書、イベントなどで財政基盤を作っているところ。
Q:クラウドファンディングが広がってはいるものの、それだけで持続的に活動資金を確保することは難しいのでは?
A:クラウドファンディングについては、自分も一度やってみて、かなり魂を削られた。クラウドファンディングだけを連発するのではなく、それを通してつながった人との縁を大切にし、支援を継続してもらえるように心がけている。
Q:企業に支援を要請したりするか?
A:以前の勤務先で、社会貢献をしている企業にローラー作戦で電話をしたことがあったが、共感が得られにくく、当事者も見えにくい世界であるため、どうアピールするかが難しい。
Q:今、東京で出産すると費用が70万かかるそう。出産する際のサポートをする際、費用面はどのように支援しているのか?
A:自分が対応した件では、生活保護につないだ。
<坂爪からの質問>
Q:個人で支援をしていると、ケースの振り返りや対応の検証がしづらいが、スーパーバイザー的なことをお願いしている人はいるのか?
A:一応連絡を取っている専門家はいる。福祉畑の人に相談しても、かえってブレーキになってしまう可能性があり、人選が大事。
<懇親会で出た話題>
【元当事者(女性)の感想】夜業界は、自分が居た頃と全く変わらず、女の子たちが苦しまないといけない状況が続いているを見ると悲しくなる。経験がある自分だからこそできることがあると思う。将来的にはアウトリーチ活動に関わりたいと思う。
【キャリアカウンセラー(男性)の感想】怒られる、非難されるという経験→もう二度と人に相談したくない→相談窓口の人が否定しないという姿勢が大事だと感じる。
【風テラスインターン(女性)の感想】「待っているだけでは救えない」という言葉にはっとした。資金調達が課題になると思った。
あっという間の2時間でした。幅広い職種・世代の方々にご参加頂き、歌舞伎町の路上に立つ女性への支援、その背景にある社会課題の解決策について、多様な角度から議論をすることができました。
貴重なお話を聞かせてくださった坂本さん、参加者の皆様、ありがとうございました!
坂本さんのご活動の詳細は、『性風俗サバイバル』第四章にも掲載されています。ぜひご覧ください。
『性風俗サバイバル』出版記念イベント・第2回目は、2021年4月28日(水)『水商売サバイバル 水の世界の緊急事態』です。ご期待ください!