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第69回「角川俳句賞」を読む。

俳句を学ぶ際、先人の句集を丁寧に読み込むこと、が自分には大切だと最近とみに思っている。
一方で、俳句の「今」を知ることも大事。

今回は、じっくりと「角川俳句賞」に向き合い、自分が好きな句を挙げ、ここに記すことに。

句会では、限られた時間(約20分程度)に150程の句から五句を選ぶ、という駆け足選句だが、自分なりに納得のいく選句を短時間にできるようになるには、日ごろ念入りに句を読むことが恐らく必要とも。

これからは、俳句誌などもこのような丁寧な読みをし、それをその場で流すのではなく、書き留める(キーを打つ)時間をとることができたらいいな、と思う。




角川俳句賞 「小窓」 野崎海芋氏 

 好きな句十五句

薬局の二階雀荘春浅し
燕来てゐるほんとだと人応ふ
喪の家やゆがき減りしてはうれん草
チューリップ活けて二夜や捩れ伸ぶ
あねもねや死より始まる物語
苜蓿にたふれ泣きたし倒れざる
たまねぎのうすきひかりのサラダかな
写経して無の文字多し夏の雨
噴水のまへ噴水に背を向けて
梨さくと切るなり水の星に棲み
本棚にまりもの壜やつづれさせ
長き夜の配管をゆく水の音
池ひとつ光らせてある枯野かな
隣家よりテレビ聞こゆる初湯かな
世界地図端に日本や日脚伸ぶ

角川「俳句」2023年11月号 P.62~67 抜粋

昨年の第68回「角川俳句賞」を受賞された、西生ゆかり氏の「胡瓜サンド」に比べると、全体に穏やかで落ち着いた印象の句が並ぶ。
野崎海芋氏ご自身が仰っている「賞に応募する作品としては力強さに欠けるのではないかとぎりぎりまで悩んだが、今の時分を正直に出すのが最善と信じ、五十句をまとめた。」(角川「俳句」2023年11月号P.59より抜粋)とのお言葉の通りだなあとも。
この自分を正直に出す、という勇気、が素晴らしいと思った。

南風の主宰や顧問の御句にも、何気ない日常を丁寧に切り取り、そこに「はっとする視点」を入れ込み、読み手がその「はっとする視点」に大きな納得と共感を得る、という作品が多いけれど、今回の野崎氏の「小窓」にもそれをとても感じた。

例えば、私は写経をするのがわりと好きで、確かに「無」の文字を幾度も書くのだけれど
写経して無の文字多し夏の雨
には、唸った。そうか、ここを切り取るのだと。

また、
世界地図端に日本や日脚伸ぶ
このような海外詠み、もあるなあとも。(野崎氏にとっては海外詠み、のおつもりではなかったかもしれないが)

個人的には、植物への興味が深いためについ植物句が多くなりがち。


角川俳句賞 候補作品から

好きな句(*初見でおっ!と思った句)

「飛行船」 高梨 章氏

物音のまだせぬ時間沈丁花
消えさうな虹だからイヤフォン外す
絵のなかのひととトマトの皮をむく*
「売切」のランプの視野に雪がふる
雨の日は雨のなかゆく冬の犬

角川「俳句」2023年11月号 P.68から抜粋

トマトの皮の句、あり得ないことなのだけれど視点が面白くて魅かれる。
想像があれこれ膨らむ。

「唇ポ」 千野千佳氏

友情の二マスすすむおでんかな*
梟の戻りきらない顔の位置*
福引の玉の遅れて出でにけり
この鳩と決めて見てゐる日向ぼこ
捌かるる河豚の唇ポとひらく
てらてらの花の写真や種袋*
よく話す姉の日傘に入りけり
書架の本並べ替へたる素足かな

角川「俳句」2023年11月号 P.69から抜粋

二マスすすむ、戻りきらない、てらてらの花、面白い。
千野氏の御句は、個人的に普段から興味深い。

「間仕切」 笠原みわ子氏

うつすらとポトスに埃二月尽
パン粉から作るコロッケこどもの日
蠅取りリボンゆらりチャーハンまだ来ない*
夕星にひと声かけて舟遊び
そぞろ寒使へる電池見つからず
誠実に星のまたたく枯野かな

角川「俳句」2023年11月号 P.70から抜粋

蠅取りの句、これもありか!と驚きとともに、蠅取りが脳裏から離れなくなる。

「ダクト」 椎名果歩氏

たんぽぽの絮離さじと茎赤む
土筆摘む摘まざる土筆踏み潰し
爆走のゴミ収集車蔦若葉
ビニールを破る朝食夏の雨*
自撮棒見上げひしめく水着かな
バス降りる大きな一歩石蕗の花
室の梅面接の手の置きどころ*
歳晩や潰して匂ふ段ボール*

角川「俳句」2023年11月号 P.71から抜粋

ビニールを破る朝食、にハッとした。夏の雨がまた良い。
手の置きどころ、潰して匂ふ、視点の細かさと発見。

「しりとりの途中」 桐野 晃氏

しりとりの途中の別れ夏帽子
手から手へ渡る硬貨や夏祭
足形のすぐにうすれて水遊び
立秋の水風呂満たす水の音
北風を来し手品師の荷に手首

角川「俳句」2023年11月号 P.72から抜粋

「日晒し」 山口遼也氏

大根や背広を着れば誠実に
北窓塞ぐトランプの裏表
卒業の日のにはとりの喧嘩かな

角川「俳句」2023年11月号 P.73から抜粋

予選通過作品より 10句抄

好きな句(*初見でおっ!と思った句)

「許す近さ」 後閑達雄氏

朝寝して朝の薬も昼に飲む*
何杯も呑めたる頃のアロハシャツ*
あきらかに猫がもの言ふ良夜かな
文化の日頼めばすぐに出るもつ煮

角川「俳句」2023年11月号 P.74から抜粋

朝寝の句、ああ、あるあると思いつつ、これを俳句にする勇気。
若き頃の着古したアロハシャツ、への郷愁。

「野鳥図鑑」 草子洗氏

絵の中の人が手を振る木の芽時
うららかにパンちぎりあふ鴉かな
やどかりの縦あるきまた横あるき
たたまれてタオルふくらむ秋深し*

角川「俳句」2023年11月号 P.74から抜粋

たたまれたタオル、への視線。

「ちよろちよろ」 山中 望氏

晩夏光オルガニストの足忙し*
白板に定食の名や今日の月

角川「俳句」2023年11月号 P.74から抜粋

オルガニストの足は、確かに忙しい。

「背表紙」 仲村折矢氏

夏めくや魚のかたちの醤油入れ
夏ゆふべ回覧板に猫のこと
やや寒の店の死角に置く鏡*

角川「俳句」2023年11月号 P.75から抜粋

死角に置く鏡、ものすごく好き。もしかしたら、一番好きな句かも。

「カラフル」 金山桜子氏

細長き尾を葉のうへに蜥蜴の子
くたくたのたんぽぽ石にいちれつに

角川「俳句」2023年11月号 P.75から抜粋

「レプリカ」 矢口 晃氏

あたたかや手品にコイン生き生きと
炊立てのごはんのやうな春の昼*

角川「俳句」2023年11月号 P.75から抜粋

炊き立てのごはんと、春の昼、の取り合わせが見事と思う。
冬の昼、夏の昼、秋の昼、では決してない。



     ・・・・・

「角川俳句賞」は、未発表句五十句の応募。
自分なりに気に入った句を五十、しかも、春夏秋冬新年をまんべんなく、は相当大変。(精魂尽き果てそう笑)
だが、挑戦することで多くの学びが得られることは確実。

そのうち挑戦したい、と思ってはいる。

いただいたサポートは、次回「ピリカグランプリ」に充当させていただきます。宜しくお願いいたします。