見出し画像

準紫乃賞(私設賞)・九句

(順位なし・投稿順)

🍂 新酒注ぎ孫の写真を指でぽん

🍂 香を焚くパソコン越しの送り盆

🍂 再婚の報せにズキと星月夜

🍂 ガラス越し桂男と酌み交わす

🍂 弓引けば芝に影射す渡り鳥

🍂 空を縫い野に刺し子する赤とんぼ

🍂 名月の国わたりゆく白さかな

🍂 もう母はいないと諭す秋の月

🍂 頑張れと君もいうのか昼の月



《選句理由&講評》

新酒注ぎ孫の写真を指でぽん

季語:新酒

私はお酒が好きだ。当然、日本酒も大好き。
ここの新酒は、まず間違いなく日本酒であろう。
何の銘柄の新酒かな~?と思いつつ(笑)それはそれとして、
おお!お孫ちゃんいるんだ!
写真かわいいよねえ~。
そしての「指でぽん」!!!
おお!こんな表現の仕方があるんだ!と驚いた。

写真はスマホにでも入っているのかな?
画面にお孫ちゃん出して、ぽん!?
いや、既に待ち受けがお孫ちゃんで、ぽん!?
いやいや、壁に飾ってある写真を、ぽん!?

秋の夜長、新酒を愛でつつ、お孫ちゃんも愛でるおじいちゃん。
(私だったらおばあちゃんだけど)
いいですねぇ!


香を焚くパソコン越しの送り盆

季語:送り盆

このご時世、ふるさとに帰郷できない方々はきっと多い。
作者ご本人も、恐らくそのおひとり。
ご自宅の、いつも使っているテーブルで亡き人を偲びながら香を焚く。
横には開いたままのパソコン。いつもの光景。
その中で、香りと煙に包まれながら、在りし日のあれこれを思い返す。
ご自身なりの心をこめた儀式であろう。
そして家族との会話は、パソコンでのオンライン。
そのような、この時代だからこその盆の過ごし方。
本当は、直に想いを伝えたかったことだろうに。

共感なさる方も多いのではないだろうか。
このような句を詠んでくださったことに、ありがとう。


再婚の報せにズキと星月夜

季語:星月夜

この句を見たとき「ズキ」としたことを思い出した。
そして「私がこの句を選ばずに誰が選ぶ?」とも思った。

もうだいぶ前のことだけれど、私が前の結婚に終止符を打ったその後、間もなく私の幼馴染みの友人も同じ道をたどった。
報せを受け、お互い頑張ろうねと。
それから10年ほど経った頃であったか、その友人からの年賀状に「再婚しました」との報。
来ましたよ!「ズキ」!
もちろん、よかったね~って思ったけれど、やはり「ズキ」はしたの。

ということで、実体験が伴ったこの句。
ズキ」と「ほしづきよ」の「ダブルZUKI」。
ふたりでズキズキしましたね、作者さんっ!と思った。

どうやら、作者さんのズキの相手はちょっと違ったようですが、それはそれ、これはこれ(笑)
こういう実体験を詠むこと、いいと思います!
(もしかして想像だったらすみません)


ガラス越し桂男と酌み交わす

季語:桂男(月にいるという仙人)

正直に言う。季語が何なのか、最初はわからなかった。
「桂男」は歳時記には載っておらず、私がそれを見つけたのは、夏井いつき先生の「おうち de 俳句くらぶ」の季語辞典。
私は、普段は「角川歳時記」に載っているとても一般的な語を、季語として扱おうとしているので、果たしてこれが季語なのか?と思ったけれど、
今回の「白杯」は「季語なしもOK、秋っぽい句」の括り。
ならば、よしとしようと。

そのような準備を経て、改めてこの句に向かい合う。
ガラス越し桂男と酌み交わす
「ガラス越しに桂男と酒を酌み交わす」
実際には、ガラス越しに見える月を見ながら酒を吞むということ。
ガラス越しの月はどのような月なのだろうか。いずれにしても月は月。
その一夜のことには限らないのかもしれないし。
ガラス窓は、綺麗なのだろうか? そうでもないかもしれない。
それでも、それを通して見える月を友として酒を呑む。

孤独な人物がそこに現れた。
「桂男さんよお、一緒に酒呑んでくれんかのお」
「おお、またおまえか。いつもひとりだなあ。」
桂男と酌み交わす酒は、ひとりで呑む酒よりはずっと美味いに違いない。
それでも、まだ本当は孤独。侘しい夜が続くのだ。

この句の作者の「白帝」「桂男」「月の舟」念入りな季語選びは、全516句の中でピカイチだと私は思った。
だからこその「桂男」を私は選んだ。
さみしき人の酒の友としての桂男を。


弓引けば芝に影射す渡り鳥

季語:渡り鳥

また正直に言う。この句の作者がどなたなのかは、三句が並んだところでほぼ確定した。
どの句にも鳥が出てくるからだ。
そのうえでの選句は、非常に難しい。
結果、他のどの句よりも厳しい目で見た。

弓道。私はそれを嗜んだことはないのだけれど、あの弓道場の雰囲気や、弓を引く時の空気感はよくわかる。
場に立つ。構える。静けさ、緊張、統一。
「弓引けば」の出だしで、凛と場が、句の出だしがしまる。
そしての、芝。秋であるので少し茶色かかった芝。でもまだまだ美しい。
そこに影が射す。
以前、私は、
「秋の田に雲かげひとつ滑りゆく」という句を詠んだことがある。
晴天の秋の田に、ひとつぽかりと浮かんだ雲は、その田の上にしっかりとした影を落とし、まるで滑るように移動する。
その句の光景が、この「影射す」にしっかりと重なった。
そして、その影はここでは、渡り鳥。
私は北海道で、この渡り鳥の移動の様子もはっきりと目にしている。

私にとってのこの句は、弓を構え、そして弓を引き、狙いを定めて弓を射るまでのしんとした静寂の中で、渡り鳥の群れの影がしっかりとした影となって芝の上を渡る、十数秒の時間の物語である。
影を見ていたのは、弓を射る人を後方から眺める仲間たち。

「弓引けば芝に影射す渡り鳥」
この句が伝える、心理・緑色・薄茶色・黒・青・空・音・流れを、私は私の瞼の裏にはっきりと再現できるのである。
これを選ばずにいられようか。
このように、読み手の実体験に見事に重なる句、というのもあるのだ。


空を縫い野に刺し子する赤とんぼ

季語:赤とんぼ

「縫い」と「挿し子」の表現から、この作者は、恐らく裁縫をなさる方であろう。
赤とんぼが飛ぶ様子を、まず「空を縫い」と表現。
針がチクチクと布を微かに上下させるように、赤とんぼが飛ぶ。
なみ縫い、ぐし縫い、時には返し縫。まつり縫いもあるかもしれない。
「空」は「そら」でもあり「くう」でもある。
そらとくうを、さまざまな縫い方の針の動きのように、赤とんぼが飛ぶ。

そしての「野に刺し子」。
赤とんぼは、飛んだまま空に止まるのか、それとも、野の上で一休みするのか。いずれにしても、動きの止まったそれは、あたかも野の布の上に、赤の糸で大き目の刺し目で縫った、刺し子のひと目のようである。

赤とんぼの動きと赤の色を、赤い糸と運針の動き、縫い上がった刺し子のひと目に例える技、ただただ素晴らしい。

そして、漢字とひらがなが交互に配置されているのも、また正に縫い目のようで、全てが非常に美しく整った句である。
この作家がこれから詠む句もまた、非常に楽しみである。


名月の国わたりゆく白さかな

季語:名月

この句のシンプルさは半端ない。
真っ白の名月があって、それが国をわたっていく
使っている言葉も、漢字も、伝えている意味も、このうえなくシンプル。

だけれども、この十七音、十三文字には、完全なる見事な世界観がある。
その研ぎ澄まされた世界は、音すらも消えて「静」。
そこを、月がひっそりと美しく動いていく。

何ひとつ奇をてらわず、何かしらの意図もなく、ただ、するりとすべるように文字が連なっている。
喜怒哀楽もない。俗っぽさもない。
ただただ、そこに文字があるだけ。月があるだけ。

本当に美しいと思う。心から思う。
このような句を、私は詠めるようになりたい。


もう母はいないと諭す秋の月

季語:秋の月

恐らく作者は、この句を詠まれた時間近にお母さまを亡くされたのだろう。
色々なあれこれの最中は、かなしみより「やらねば」が先だつ。
自分の心を冷凍保存する。「しっかりしなくちゃ」。
一連がすんだ後こそが、危ない。

泣けましたか?
何も気にせずに、精一杯、必死に泣きましたか?
私は、ただそれを願うばかり。

この句が詠めたということは、恐らく無事に「その行程」を済まされたのだろう。
そして、見上げた秋の月は、
「かなしいね。そうだよね、母さまもういないね」って優しく語りかけてくれたに違いない。そう、今だって、今夜だって。

諭す」。この言葉に込めた作者の想い。
「母さまもういないけれど、どうか乗り越えなさい。そうでないと、母さまも安心できないよ」

少しずつでいいので、どうか受け入れてください。
そして、月に向かって微笑んでください、いつか。
そして、また何か辛いことがあったときは、素直に泣いて、そして俳句を詠んでください。
素晴らしい句を、本当にありがとう。


頑張れと君もいうのか昼の月

季語:昼の月

「頑張れ」
場合によっては、この言葉ほど、キツい言葉はきっとない。

もう頑張っているんだよ、できる限り、さんざん。
これ以上は頑張れない、もう限界、たぶん。
でも、それを自分で認められない。
まだまだ不足なんだ。だから楽になれないんだ。
そして、結局また頑張る。前以上に、頑張ってしまう。

わかってるよ、わかってるからさ。
どうか、誰もその言葉だけは口にしないで。私にはもう言わないで。
両手で両耳を覆って、誰もいないところに走って行って。

もうきっと大丈夫。
ホッとして空を見上げる。そこに昼の月。月が口を開ける。

「なんで君まで言うのよ、頑張れって」
作者の叫びが届く。私に届く。しっかりと。

作者さん、少しずつ、少しずつ、その声は小さくなるよ。
自分の中の声も、小さくなるよ
そして、いつか気にならなくなる。その日は来る。絶対に来る。
勇気をもって詠んでくださってありがとう。
素晴らしい句をありがとう。
私は、あなたを静かに応援しているよ。
あなたと一緒の想いのみんなを、応援しているよ。


     ・・・・・

(本日、事情によりコメントへの返信が遅れます。申し訳ありません)

いただいたサポートは、次回「ピリカグランプリ」に充当させていただきます。宜しくお願いいたします。