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ピリカ☆グランプリ 応募作品

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ピリカ☆グランプリ応募作品です。 《応募要領》①800~1200文字のショートショート(最大1200文字)  ➁お題「睡眠に関すること」  ③募集期間6/18~6/30  ④「#…
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夏の夜の夢|掌編

細切れの断片でしかないあの夜の記憶が、意味をもってつながりをなすまでしばらくかかった。僕はまだ6歳だった。仕方のないことだ。 じめじめと暑苦しい夏の夜だった。 運転席の父は無言でハンドルを握りしめていた。街灯が照らすその横顔は、お面でもはりつけたように固く、血走った目ばかりがぎょろぎょろとせわしなく動いていた。 寝入りばなを叩き起こされた僕は、とにかく不快で、不機嫌だった。出かけるなんてイヤだとだだをこねた。父は何とかなだめすかそうとしたが、6歳児は言うことを聞かなかっ

薄暗い部屋の冷たい床とひとときのしあわせ

仕事から帰った21時。 朝、家を出てから優に半日以上。 これが私の日常で、私よりももっと酷い人がいるのよと自分を慰めることでなんとか明日も頑張ろうと言い聞かせる日々。 肩から鞄を滑り落として、床に落とす。 一度座ってしまったら立ち上がれなくなってしまうから、パジャマを用意して、先にお風呂に入ってしまわなくちゃ。 ごはんはもういい。明日食べれば。 お腹は空いたけれど。 さっぱりしてベッドに入って、好きな動画を観たり、返せていないLINEに返事を出して、ちょっとでもたくさん睡眠

#9 寝ても覚めても

眠い眠い眠い。 4月から始まった会社の研修。 眠すぎる。 大学3年間大教室で寝て過ごし、最後の1年は授業すら受けなかったやつが月曜日から金曜日までびっちり研修を受けるなんてムリだ。 ・慣れない8時間労働 ・つまらない上司から教わる研修 ・オンラインだから仕事とプライベートが曖昧 眠い。 テキストの読み合わせをして眠気を覚まそうとしてくれるその気持ちはありがたいが、それでも眠いものは眠い。 「次、小林さんお願いします。」 「はい。」 よかった、短い。 「第一印

潮騒の寝息

渚の家に住む白濁の瞳の青年は、潮騒の響と共に眠りつく。 青年の傍らにはいつも大きな犬がいた。名はアオメ。青い目と書いてアオメと読む。アオメは嘗ての主人にこう言われた。「アオメ、貴女が目になるのよ」意味ではない、その言葉の響きが、アオメを青年の生涯の友であることを運命づけた。 アオメは青年の掌が好きだった。骨張って、細長く、それでいて柔らかい肌がアオメの首根を包み込む度にアオメは言葉を無くすのだ。自身の温もりが主人の掌を温めるように、主人の冷たい掌が、アオメの沸き立つ不安を

掌篇小説『23年種』

百貨店へ。 なじみの洋服ブランド店にゆくと、見覚えない女性店員が独りでいた。入社したばかりか、ベテランの異動なのか、ぐらいはすぐ判断のつきそうなものだが、わからない。それは年齢不詳だとか言うより、その人物が胸の名札をはずせば、空にフワリ飛び去ってしまいそうに、濁りない肌とか、ゆるいカールの髪とか、指や脚の淑やかなうごきの残像が、此方の世界のそれとは異なる質感に思えるからだった。 問えば、やわらかに微笑んでこたえる。 「私『23年種』なんです」 『23年種』とは、22年眠り

寝付けない夜に

布団の中に入って どれくらい経っただろう。 今夜は目が冴えて眠れない。 今夜だけ?いや、昨日もそうだったかも。 早く眠らなきゃ、夏の夜明けは早い。 明るくなったら眠れない。 焦りながら布団の中で目を閉じていると、 おもてに何か気配を感じた。 庭に出入りするときに使う窓のカーテンを 開け、部屋の外を見たら、そこに大きな亀が 自宅に面した通りに浮かんでいた。 かなり大きな亀、よく見ると 昔、何処かの湖で乗った亀の形の遊覧船だった。 もっと良く見たくなって、窓を開けて外に出た

夢をあやつる

始まりは寝る前に書く日記だった。 大学ノートを開いてえんぴつで書く。 サラサラと 紙の上でえんぴつの芯が 音を立てながら、 その日のことを吐き出していく。 落ち着くし楽しい。 そしてノートを閉じて眠った。 ある時、書いた日記に チカ自身の願いが混じった。 叶って欲しい小さな事。  すると 夢のなかで、ちゃんと叶った。 うわ! たかが夢だけど、 次の日は明るい気分になれた。 そんなことが 次の週にもあった。 日記に1コマか2コマ、 シーンみたいに書いて眠る。

ねむの木 ねむの葉 ねむの花 【物語】

「この家のシンボルツリーはね、ねむの木なのよ」 「ねむの木って、暗くなると葉が閉じて、逆にお花は夕方に咲くっていう…」 「そうそう!よくご存じね」  大家の里子さんは、ふっくらした頬にえくぼをつくり、胸の前で手を蕾のように合わせた。  たまご焼き色した壁にチョコレート色の屋根。白い扉にささやかなステンドグラスの小窓。門の脇には赤い郵便受があって、極めつけは柵から飛び出た風見鶏。その可愛いお家は坂の下にあり、ミニバスの停留所も近い。    里子さんは言う。この家でひとりでいる

番外編ショ~トショ~ト💞「小さな手が求めていたものは....」✨ピリカグランプリ応募しま~す🌈

小さな手の指で計るの ママとあたしのお布団の距離 1ミリでも 近くにしたくて ママに気づかれないように そっと蒲団を近づける...... 怖かったのかしら眠るのが それとも ママから離れるのが怖かったの? 今も想いだせる ほんの数センチの距離を 縮めることに 必死だった眠りの前のあの時間 ママ あなたにくっついていたかった どんな瞬間(とき)も...... あなたの姿を捉えていたかった どんな瞬間(とき)も.... あたしはそんな子供だった

私の手が、好きですか?

いつの間にかできていた小さな切り傷みたいな恋に悩まされた春休みだった。 いったん気がついてしまえば、気になる。 「木谷、マニキュア塗ってるだろ」 人もまばらな午前の美術室に、染み付いた絵の具の匂いが薄く充満している。 「絵の具です」 「すぐバレる嘘はつくな」 「落とせって言われても、除光液持って来てないです」 そういう先回りはやめろ、とさらに叱られて喜んでいる私はきっと分かりやすくコドモだ。 終業式の日、 「俺、前から思ってたんだけど、木谷の手ってクリームパンに似てね?」

暑くて眠れない夜は

うらん作 地球温暖化で、気温が高くなっている。 世界的課題だ! あと1.5度高くなるだけで、危機的な状況に陥るらしい。 いや、それよりも、今の僕にとっては、「寝苦しい夜をどう過ごすか?」が最大の課題だ! クーラー病だから、扇風機を壁に当て、風が跳ね返るようにしてみた。でも、ダメだ。暑い。 枕をアイスノンにしても、身体中から汗だくになる。いろいろ試したが、日ごとに暑苦しくなる。 誰かぼくに安眠できる方法を教えくれ! 涼しく寝られるようにになる季節はいつ来るのだろう? 部屋にこ

寝言

うらん作 僕はタケル、中学2年生。クラスは畑学級。 クラスの友達は最高な奴ばかり。 毎日が楽しい。 秋口、自転車通学の僕は寝坊して、坂道の降りで車とぶつかった。 気がついたら病院で脚を宙吊り。 母が、「命があってよかったよ」と慰めとも、諦めともつかないため息混じりの声で呟いた。 病室には、中村さんと言う40代のおじさんもいた。 話し相手も居ないので、よくお喋りしたよ。 中村さんは、決して慰め言葉は言わなかった。 人生色々あるさ、遠回りもするもんさって云う。 僕が中学の

ふーこ

良く眠れないので、お布団を変えてみたらいいかなと思い、近所の寝具店を訪ねてみた。 年配の奥さんと息子さんの二人で切り盛りしている小さな寝具店だ。 すみません。最近良く眠れないので、 寝具を変えてみたいのです。だけど あまり予算ないので、 と、小声でぐずぐずと奥さんに伝えていたら 奥さんが、 大丈夫ですよ。ご予算の中で、寝心地の良い品をお選びいたします。 と、優しい声で言ってくれた。 翌日、ピンポン 玄関のチャイムがなったので、インターホンの モニターを見たら、布団屋

#8 夢カジノ

寝るという行為が賭け事の一つとして楽しまれている。 その名も「夢カジノ」 お金の価値がなくなった現代、賭けるものは自分の時間。そして、報酬は個人個人の価値観の中で定義される「幸せ」になれたかどうかである。つまり、楽しい夢を見られれば勝ちで、悪夢を見れば負けである。 長年の研究の成果により、夢を外部から操ることが可能になった。それからしばらくして夢カジノが娯楽の一つとして親しまれるようになったのだ。 人々は夢カジノをするために大型施設「Good Night」に足を運ぶ。