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春ピリカグランプリ応募作品

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2023年・春ピリカグランプリ応募作品マガジンです。
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#ピリカグランプリ

恋文を読む人|掌編小説(#春ピリカグランプリ2023)

「あの人、ラブレター読んでる」  オープンテラスのカフェで、向かいに座っている妻が突然言い出した。僕の肩越しに誰かを見ているようだ。 「あー振り向いちゃダメ! 気付かれるから!」  90度動かした首を再び正面――妻の方へと向ける。 「なんでラブレターって分かるの?」 「人差し指でこう……文字をなぞるように読んでるの。横にね。私も昔、ああいう風に読んでたから」 「ラブレターを?」 「そう」  一瞬、「いつ、誰からもらったんだ?」と嫉妬の念に駆られたが、とりあえず耐える

🎖️ ピリカグランプリ すまスパ賞|ショートショート|誰モガ・フィンガー・オン・ユア・トリガー

「私がピストルの引金を引くのは上司に頼まれたからなの。決して私自身が好き好んでではなく……」と彼女は呟き、静かに水を飲んだ。 「それが役割ですから」と僕は返したが、自分でも気の利かない発言だなと思いゲンナリした。それで慌てて付け加えた。「あなたのおかげで静止した世界が動き出すんです。その先には喜びも悲しみもあるけれど、それはあなたのせいじゃない。まずは誇りを持たないと」  彼女と僕は仕事仲間だ。だから彼女の苦悩も分かるつもり。上からの指示をこなす日々に嫌気がさすこともある。

貸し出し中?いえいえ、予約中です。(小説)

中学の卒業式の日。進学をきっかけに好きな人と離れることになり、私は告白をしようとした。けど待ち伏せた場所に彼は来なかった。公園でベンチに座って俯いていると、ランドセルを背負った男の子が目の前に立った。 「みーちゃん大丈夫?お兄ちゃんが何かした?」 「ゆうくん」 思わず私は苦笑する。 「かなとに会えなかった」 「うちに来ればいいじゃん」 「それじゃ意味がないっていうか」 「何それ」 ゆうくんはかなとの弟だ。そして私がかなとのことを好きだということをいち早く見抜いた。バレ

ナポリタンを食べた日に【掌編小説】

「どうしても人を指さすときは慎重になさい」 成人した僕に、母がかけてくれた言葉。人を指さしてはいけない、と小さな頃から躾けられてきたのに、それを覆す一言だった。 『ばーか』 「何て書いたか当てろ!」 髪をくるりとアップにし、リラックスモードのアキラ。椅子に座る僕の背後で仁王立ちしている。 僕は言われるがまま、ホワイトボード化した背中を自由に使わせていた。 「『ばーか』です。ごめん!」 振り返ると、アキラは頬を膨らませることで不機嫌さを主張していたが、ついさっき食

掌編小説「指先のメッセージ」(春ピリカグランプリ2023応募作品)

 気がつくと、俺は高校生に戻っていた。  目の前の席には、野球部でバッテリーを組むことになる河崎の後頭部がある。  どうやら今は、高校に入学したばかりの春のようだ。  クラスを見渡して、彼女を探す。  しかし、あの頃の彼女の姿は見当たらない。 「なあ、河崎。古賀さんてどこ?」 「あ? 席、名前順だから、『古賀』だったらお前の後ろじゃん? って、後ろは佐々木か」  どういうことだ。これはタイムスリップ? いや、流行りの転生? それとも、ただの夢か? 「俺、探してくる」

【創作】指輪のサイズを知る4の方法

【彼女 指輪 サイズ 知る方法】 検索バーにそう入力してタップする。 スクロールしながら画面に表示されたサイトを目で追う。 彼女と出会って半年経った今日、初めて彼女が僕の家に来ていた。 この次に彼女と会う日、僕は彼女へのプロポーズを決意していた。 彼女の全てを知っているつもりの僕だったが、残念ながら指輪のサイズまでは分からなかった。 プロポーズには指輪がないと話にならない。 指輪を贈るために彼女が僕の家に来ている今日、絶対に薬指のサイズを知る必要がある。 幸いにも彼女