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春ピリカグランプリ応募作品

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2023年・春ピリカグランプリ応募作品マガジンです。
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#スキしてみて

春ピリカのゆび

「買ってみるしかない。このままでは私のフィットフィンガーがもっとひどいことに」春ピリカは最近ある悩みを抱えていた。それは足の指である。  外出するときに靴下をはいて靴を履くが、どうも最近靴下をはくと、指の間が密着し、そこから汗がにじみ出ることがある。そして家に帰って靴下をはくと足が臭い気がするのだ。この前もピリカが友達の家に行ったときに、「あれ、春さんの周り」とまで言ってから友達が口をつぐんだことがある。「私の周りがどうしたの?」と、ピリカが友達に質問しても友達はそれにこた

プリンセス #春ピリカ応募

誰かがわたしをそっと抱き上げた。 温かい腕のぬくもり。 いい匂いがする。わたしの目はまだ閉じられたままだ。 焼きたてのパンのような、オレンジの爽やかな甘酸っぱい香りがふわっとわたしを包む。 わたしの耳元で誰かの声がする。 わたしの可愛い娘よ。 愛する娘。 きみをずっと守っていくよ。 わたしの目はまだ固く瞑っている。 暗い暗い闇の中にいたのはほんの少し前だったはず。 わたしの後ろにはいつもたくさんの指がある。 それをうしろ指と呼ぶことをいつからか知った。 ママはいった。 いい

短編小説【こどもの日、不思議な指】

お題「ゆび」 【こどもの日、不思議な指】 こどもの日の朝、7歳のヒナは、友達のタロウとユキと一緒に近所の公園に集まり、楽しいゲームと笑いでお祝いしました。鬼ごっこをしていたヒナは、ブランコの近くの地面から奇妙な指が出ていることに気づき、ふと足を止めました。 「タロウ、ユキ、これ見て!」と指をさして呼びかけました。 タロウは「なんだこれ?指に見えるよ!」と言いました。 勇気を出したユキは、「…引っ張って見てみようか」と提案しました。 好奇心を抑えきれない子どもたちは

おかあさんゆび(第1話)

【あらすじ】 最強シングルマザーのユミ、その1人息子あきら、ひょんなことから2人と暮らすことになった華。 私がnoteで出会った素敵な方々の魅力をキャラクターに詰め込んだ作品です。 3人が繰り広げる会話中心のハートフルコメディタッチの破天荒なストーリー。 良かったらご覧下さい。 ********************************** あきら「お母さんおきてよ~。今日やすみでしょ~。」 ユミ「・・・・、う・・・る・さい。」 あきら「え~、どっか連れてってよ

ファティマの指|春ピリカグランプリ2023個人賞受賞作|

 ファティマの左手には、薬指がない。  何が起きたのかは、今でもわからない。  此処は、ファティマが生まれた大地だ。ザックの中に、ファティマの遺骨を背負い、瓦礫の街を歩く。遠くには、美しい山河。地獄は、天国の中にある。  キャンプ地に辿り着くと、世界中から集まった医療スタッフたちが、眩しい笑顔で迎えてくれた。様々な色の肌、瞳、髪。それぞれが皆、美しい。私を「ガイジン」と呼ぶ人は、此処にはいないだろう。手を振って、呟いた。 「ファティマ。指を探しに来たよ」  息を吸い込

始まりと終わりの物語

 これから私は傑作小説を書くところだ。物語の冒頭は読者をひき付ける最も重要な箇所である。渾身の力で文章を書き上げた。なかなか迫力がある。特に最初の3ページは、我ながら満足のいく書き出しであった。  冒頭部分は完璧に書けた。自然に執筆が進んでいく。登場人物が勝手に動き出す。私は作者でありながら、コイツら面白いなと思いながら物語が流れるように展開していった。  あの男にはこんな側面もあったのか、あの女はこんなに哀れな人生を歩むことになったのか、と書き始めた時にはなかった着想が