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夏ピリカグランプリ応募作品(全138作品)

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2022年・夏ピリカグランプリ応募作品マガジンです。 (募集締め切りましたので、作品順序をマガジン収録順へと変更いたしました)
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#スキしてみて

鏡の魔女の引き抜き方│【夏ピリカグランプリ】🙌

 やあ。あんた、男前だねえ。私の好みの顔。でも髪も髭も少し伸びすぎだと思うよ。  おや? その顔は驚いてるね。  私の声が聞こえているみたいだね。  うひひ、びっくりしなくていいんだよ。  私は魔女。鏡の中に住む魔女さ。世界中のどんな鏡にも現れることができる。  でも、こっちから覗かれてることにすぐ気付く人間は珍しい。あんた、魔法使いの才能があるかも。  良かったらあんたも鏡の魔人になれば良い。鏡の魔人の給料って、けっこう良いのよ。魔女よりは少し安くなるけどさ、男も需要が

鏡の中のボレロ 【物語】

 踊り部の夏合宿に部員でもない僕が駆り出された理由はよくわからんが、親友の渡が熱心に誘ってきたので参加している。 「おまえ、自覚ないのか?」 「何のことだ?」 「おまえはな、片足に重心かけているだけで絵になる男なんだよ!」  パンパンッと部長である彼が手を叩くと、爪先立ちでスススと男子部員五名が集まってきた。 「踊り部の精鋭達よ! この鏡館は圧巻だろう」 「まさに、我々の求めていた環境です」  渡が「うむ」と満足げに頷く。 「踊り部が目指す美しいポージングを極めるの

視線の先|#夏ピリカ応募

 山形から東京の高校に転校した初日から、僕の視線の先は彼女にあった。  一番前の席で彼女は、僕が黒板の前で行った自己紹介には目もくれず、折り畳み式の手鏡を持ち、真剣な顔で前髪を直していた。そのことが気になって、彼女の様子を観察してみる。休み時間になる度、彼女は不器用そうに手鏡を開く。自分の顔と向き合い、たまに前髪を直す。何度か鏡の中の彼女と目が合ったような気がする。鋭い目つきで少し怖い。隣の席のクラスメイトに「彼女はいつも手鏡を見てるのか」と訊くと、バツが悪そうに「分からな

他人の人生を歩む #夏ピリカ応募

俺の人生どこで間違えた?モニターに映る敵を銃で撃ちながら思う。大学院まで行って就職した会社を1年で辞めて、再就職失敗して引き籠ってもう10年経つのか。詰んでんな、俺。意識がまどろんでいく—。 やべ、寝落ちしてたか。今何時だ?体感、昼ぐらいか。…なんか変だ。なんで俺、便器に座ってんだ?朦朧としながら立ち上がりドアを開ける。どこだここ、俺んちじゃない。ふと気づくと右手に大きな鏡。そこに女子高生が映っている。 は?誰だ、こいつ。理解が追いつかない。こいつが俺で、俺がこいつなのか

愛しのマリー 〜【夏ピリカ応募】ショートショート〜

蚤の市で目に留まったのは、少し燻んだ銀の手鏡だった。  銀食器の横に並べられたそれは、20cm位の縦長で周りと柄が、全部手彫りで細かく豊かな自然が溢れていた。 あまりに見事な装飾に見惚れていると 「フランスの1700年代位かね、ここまで豪華なものはなかなかないよ。」 店主の年配の男性が、直々に現地の市場で見つけたと言う。 持ってみると、しっくり馴染む。 なぜか、手にピッタリと吸いついて使いやすそう。 ちょっとお高めだったが、連れて帰らなければいけない気がして購入した。

鏡越しの絆

「なんでオレの名前はケンなんだ?ネコなのに」 ボロ家に似合わない大きな鏡の前で男に聞いた。 「お前がでかいからイヌと間違えたのさ。だから、ケン」 男は笑いながら、鏡に映るオレに答えた。 ひと月に1日だけ、オレと男は鏡の前で会話をする。その日だけ、鏡越しであればお互いの言っている意味がわかるのだ。理由はわからない。 男は小説家だから物知りかと思ったが 「小説家ってのは何も知らないやつのことさ」 と言って笑った。 オレと男は、たくさん話をした。オレは、猫まんまばかりだから、