マガジンのカバー画像

春ピリカグランプリ

133
2023年・春ピリカグランプリ、記事収納マガジンです。
運営しているクリエイター

#短編小説

命の理由~続・ファティマの指【#シロクマ文芸部】

 平和とは、何だ?  掬っても、掬っても、どれだけ掬い上げようとしても、命が、指の間からこぼれ落ちていく。  遠くに聳え立つ山脈に目を細める。頂上が雪で覆われた、遥かなる山。此処は、天国の中にある地獄だ。終わらない戦闘。毎日、死にゆく人々。 「サクラ、すごく疲れているようだけど、少し休んできたら? ずっと寝ていないんでしょう?」  キャンプ地のテントの脇にある、小さなベンチに深く腰掛けた私の目を、看護師のアイリーンが覗き込む。アイリーンの故郷は、東南アジアの、豊かな熱帯

水底にて

先日、フィナーレを迎えた、春ピリカグランプリ2023。 想像力を搔き立ててくださったピリカグランプリに、今一度、深く感謝申し上げます。 ここに、応募には至らなかった、もう一つの物語を公開します。 応募に至らなかった理由は、テーマの「指」が、作品の中でそれほど大きなウエイトを占めていないこと、それから、悲劇であることです。希望のある作品を応募したかったので、こちらの作品は蔵入りとなりました。 この度、蔵から出してみようかな、と思います。 もしよろしければ、お付き合いいただけ

掌篇小説『愛の造型(モデリング)』

マンションで昨夕、ガスか薬品か知れぬ煙と臭いが充満し、非常ベルが鳴り住民が避難する騒ぎとなった。 年寄りたちがエレベーターを占拠していたから、私は部屋に夫はいないに決っているがいちおう確かめたのち独り、ハンカチで鼻をおさえ階段をおりた。甘すぎる菓子にも錆びた鉄にも、ガソリンに薄荷をまぜたようにも感じる、ひんやり白い空気の渦を。 道中、みじかい髪の女性が担架ではこばれゆくのを視た。その辺りで臭いが濃密だったので、発生現場の住人と思った。私と似た年頃か、蒼い顔をして眼をふせ。

「春ピリカグランプリ2023」において、すまスパ賞を受賞させて頂きました! 昔から書きたかった「オレンジの糸」というのが、やっと形になって楽しかったです! 講評(若者のすべて)→https://note.com/589sunflower/n/n7e448c85284c

短編小説|祖母の小指

 母の実家にある大きな和箪笥が、私は大好きでした。祖母が生まれた時からすでにあったという、とても年季の入ったそれ。幼い頃の私は遊びに行くたび、まるで祖母の顔に刻まれた皴のように深く、色濃い木目を指でなぞり、意味もなく引き出しを開け閉めして遊んでいました。  一番真ん中の引き出しに入っていたのは、何本もの祖母の小指。開け閉めするたびにころころと転がる様が楽しくて、私は夢中になりました。ある日、引き出しに小指がたくさん入っている理由を祖母に尋ねると、煩わしいから包丁で切り落とす

春ピリカグランプリ2023と猫田

みなさん、こんにちは。 最近バイクを買って、ぶいんぶいんと乗り回している猫田です。 この度なんと、再びピリカグランプリ審査員を拝命いたしました。いやはや、おやおや。こんな奴でいいのでしょうか。許されるのでしょうか。運営のガバナンスは機能しているのでしょうか。 本記事では改めまして、 ①「春ピリカグランプリ」とは? ②「猫田雲丹」ってどこの馬の骨? の以上2本立てでご説明させていただきます。 「春ピリカグランプリ」とは? これに関してはもう説明不要かもしれませんね。 我

こんにちは。 ついに、あのピリカグランプリが帰ってきます。 誠に恐縮ではございますが、再び審査員を務めさせていただくこととなりました。 すばらしい作品の数々との出逢いに今からワクワクと胸が躍ります。 皆様ぜひ奮ってご参加ください!! https://note.com/saori0717/n/n18980dde92bd