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福丸小糸は田嶌紗蘭を抜きに語れない シャニ3rdで見た幻覚の正体

春の訪れとともに歩み、次の季節まで駆け抜けた

 名古屋、東京、そして福岡。春の訪れとともに歩みはじめ、そして次の季節の入り口まで駆け抜けた『シャニマス 』初のライブツアー「THE IDOLM@STER SHINY COLORS 3rdLIVE TOUR PIECE ON PLANET(以下、シャニ3rd)」は盛況のうちに幕を閉じた。

 声優たちはライブで歌い、踊り、ときに語りながら、それぞれが演じるキャラクターを表現する。われわれプロデューサー(あるいはオタク)はそうした彼女たちの姿に、二次元(キャラクター)と三次元(声優)との共通項を勝手に見つけ、「自分の好きな〇〇が現実にいる」と自分の都合のいいように解釈する。

 もちろん筆者のそうしたプロデューサーのうちの一人なのは紛れもない事実だ。感染症が流行しているこのご時世を考慮して、全公演配信視聴での参加だったが、画面越しでも十分に彼女たちの魅力が伝わってきた。

 2ndライブから気になってはいたものの、この3rdライブで完全に筆者の視線をくぎ付けにした声優がいた。名前は田嶌紗蘭さん(以下、紗蘭ちゃん)。ノクチル・福丸小糸役の声優だ。公演の回数を重ねれば重ねるほど彼女から目が離せなくなり、気がつけば彼女と彼女が演じる福丸小糸が“推し”になっていた。

まるで『天塵』 紗蘭ちゃんが小糸に見えるまで、ライブデビューから振り返る

 紗蘭ちゃんが演じる小糸はアイドルユニット・ノクチルのメンバー。シャニマスでは2番目に新しいユニットだ。本来であれば昨年(2020年)の5月2日、3日に千葉県・幕張イベントホール​で開催が予定されていたシャニ2ndで華々しくデビューを飾るはずだったが、緊急事態宣言の発出によりライブが中止に。同年10月31日から11月1日の生番組「MUSIC DAWN」で初披露された。偶然だがノクチルのイベントコミュ『天塵』を思わせるようなデビューに、胸が躍ったプロデューサーも多かったのではないだろうか。

ノクチル表紙

 さて、偶然が呼び寄せた軌跡は3月21日、22日開催の2ndライブに続く。ノクチルにとっては初の有観客ライブで声優陣はとても緊張したことだろう。その緊張は、1日目のユニット曲「いつだって僕らは」を披露している最中に、紗蘭ちゃんの担当部分の歌詞が飛ぶというアクシデントになって現れた。

 しかし2日目、飛んでしまった部分をしっかり歌い切ったうえに、とびきりの笑顔とガッツポーズをして、まるで小糸のように配信のカメラからフレームアウトしていった紗蘭ちゃん。こうした出来事から徐々に紗蘭ちゃんと小糸にハマっていった。

「誰かの居場所を作るアイドル」を表現

 そしてシャニ3rd。「小糸がライブに出ていたらきっとこんな姿を見せてくれるはずだ」という幻想を、現実に変えてパフォーマンスをしてくれたのがこのツアーだ。

 シャニ3rd名古屋では元気いっぱいにソロ曲を歌い、小糸の魅力を存分に引き出してくれた。ノクチル以外のトークではあまり目立たなかったものの、その姿は実に小糸らしかった。

 一方ゲームの『シャニマス 』では、名古屋と東京の間にノクチルのG.R.A.D.シナリオが追加された。W.I.N.G.編に続き、個人の成長にフォーカスした物語は、ノクチルメンバーのキャラクター像をより明確にした。

 公演でのソロ曲披露とゲームでの「G.R.A.D.シナリオ」追加をへて開催されたシャニ3rd東京では、紗蘭ちゃんの“小糸度”はますます高くなっていった。ユニット越境チームの「チーム ルーナ」のMCパートでしっかりとトークに加わっていたし、ノクチルのパフォーマンスでは笑顔いっぱいで、曲が終われば腰を深く曲げてお辞儀する。そうした態度はまるで「誰かの居場所を作るアイドル」という目標に向けて奔走する小糸を表現しているようだ。小糸推しでなくとも「あぁこの姿は小糸だ」と思ったプロデューサーは多かったのではないだろうか。


 そしてツアー最終地の福岡では、パフォーマンスの合間合間に見せる笑顔、ちまちました動き、MCもだいぶ慣れてきたなと思ったら一転、緊張してカタコトで話す姿が見られた。画面越しから見たファンサの数々、一挙手一投足がキャラクターを表現していて、画面に映る彼女はもはや小糸だった

同じセトリだからこそ解釈の余地が生まれた

 筆者は紗蘭ちゃんの姿に「福丸小糸」の幻覚を見たと述べた。しつこくなるが、それは公演をこなす度に成長する紗蘭ちゃんと(現在公開中の)ゲームシナリオでの小糸が、見事にリンクしたからにほかならない。そしてなにより、筆者が物語を咀嚼(そしゃく)して「ライブ中の小糸はこうするはずだ」と抱く想像を、カメラに映る紗蘭ちゃんが現実に変えたのも大きな要因だ。
 キャラクターという虚像だけを見ていれるだけでは決してハマることはなかった。だから「福丸小糸」というキャラクターの魅力の半分は「田嶌紗蘭」にあり、「福丸小糸」は「田嶌紗蘭」を抜きに語れないのだ。

 今回のシャニ3rdツアーのセットリストは7割ぐらい同じ内容だったが、これに対して一部で批判が出て、話題になっていたようだ。しかしほぼ同じセットリストだったからこそ、声優陣のパフォーマンス能力が高くなっていくのをありあり感じとれたのではないだろうか。筆者はそこに解釈の余地が生まれたと考えている。

 現在、感染症のおかげでライブ中の声援は制限を余儀なくされている。しかし新たな治療薬やワクチンが普及すれば、以前のように“推し”に声援が送れる環境に戻れる日は、案外遠くないのかもしれない。そうしたら数年ぶりにライブに行き、小糸と紗蘭ちゃんに向けて精一杯オタク棒を掲げて声援を送りたい。

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