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「本当」のプロだった、おじさんの話

「はぁ~、×〇%$#~だよぉ~」

調子がいいみたいだ。今日は天気もいいしな。造園業者のおじさんの鼻歌が窓越しに聞こえてくる。

「みかんの花が咲く前に余分な枝は落としておいた方がいいんだよ。花が咲く前にね」と、冬のある日の電話の向こうでおじさんが念を押した。

家の前の畑にネギをとりにいったら、みかん(ネーブルなんだけど)の木が本当にたくさんの花のつぼみをつけていた。(あ!今かも!)

「ちょうどねぇ、今日お宅に行った方がいいかなぁ、と考えていたんだよ」「そうなの?!以心伝心だね~!!」と昼過ぎに話したら、なんと今日早速来てくれるというのだ。

「2年くらい切ってないかなぁ」おじさんは家にある柑橘系の木々や柘植の木、椿の木、柿の木をみてそういった。

父が木の消毒が出来なくなってから、柑橘の果実が汚れるようになったり、高い枝の剪定が難しくなって仲介業者に紹介されたのがこの造園業者のおじさんだった。

人懐っこい笑顔で優しい人だ。人の好さが体中から溢れている。話し方も穏やかで嫌な物言いは全くしない。

初回の剪定の時にいただいた名刺を頼りに今度は、直接依頼をするようになった。相変わらず、優しい大きな笑顔で「こんにちは!」

今日もその笑顔のままだった。早速、剪定してほしい木々を見てもらい、剪定を始めてもらう。鼻歌は初めて聞いたが、ぎっくり腰も大丈夫って事だな。

2時間ほどすると、わざわざインターフォンを押して家の中にいる私たちに知らせてきた。窓も玄関も開いてるし、「出来ました~!」ていえば聞こえるのに、だ。

私たちが急に呼んで、せっかく「午後は休みを取ったんだよ」というのにおじさんは鼻歌をうたいながら、さくっと木々を剪定し、「来た時よりも美しく」どこかの標語みたいに切った木々だけでなく、我が家の清掃が行き届かない所まで綺麗に静かに、何事もなかったように仕上げてしまった。

「こういう風にやれば、自分でもできるよ」って木々の風通しを良くすることや、日当たりを良くするようなコツも惜しみなく私たちに教えて、私達に仕上げの確認をするように促した。

「うぁ~綺麗だね。すっきりしたねぇ」と母と二人で感心しきりだ。

感動した!(小泉首相のようだが)私たちは、お茶を進めるが最初は家の中にあがろうともしない。玄関で、「いや、ここで」「いやいや、お茶だけですからどうぞ、どうぞ」とゴリゴリにおしてやっと「あぁ、すいませんねぇ」とおじさんは申し訳なさそうに体をすぼめて、やっとテーブルについた。

私たちの満足は120%以上だ。それなのに、おじさんの提示額は予想をはるかに下回る金額だった。

そして、帰り際におじさんは噛みしめるように言ったのだ。

「お客さんが喜んでくれるのがいちばんなんだ。本当はお金なんていただかなくても、喜んでくれるのが嬉しいんだよ、本当に」

いやぁ、なんなんだ。かっこよすぎる。これこそ、「本当」のプロなんだ。

「本当」のプロは2トントラックの運転席後ろの小窓から「じゃぁ!」ってな感じに手を振りながら、去っていった。果てしなく心配り、目配りが出来る人なのだ。それも、さりげなく、慎ましやかに。その姿は神々しかった。

最後まで、おじさんはかっこよすぎて、なんだか泣けるぞ。





一人の時間にぼんやり考えたことや、クスっと思い出し笑いしたこと、こそっと誰かに話したい事をここで紹介しています。いつか「読むクスリ」みたいな本になったらなぁと野望を抱いております。その時のために、それはそれは有難くお受けすることにしたいと思います!どうも有難う!