ただの日記(20230210)

 帰省するとき、たいてい空港まで両親が車で迎えに来てくれる。
 空港から家までの道中は、主に、私と母がずっと喋っている。
 たまにしか会わないので、話のたねはたくさんある。
 父は黙って運転していて、たまに会話に入ってくる。 

 その日は父が一人で迎えに来てくれることになっていて、母は諸用で家で留守番していた。
 ラジオや音楽も流さない、父と二人きりの車内は静かだけど、沈黙が苦痛じゃないのは好きだなぁと思う。
 別に話したくないわけじゃなくて、お互い思うことがあれば、ぽつりぽつりと口を開く。
 窓から見える景色は山と畑と田んぼだけだから、私が口に出すのはだいたい目にした植物の話だ。
 そこの家に植えてある木に何か柑橘の黄色い実がたわわに生っているのを見て、「最近、職場で八朔をもらったよ」とか。
 父は「うちの畑にも八朔が生ってたよ。お母さんは八朔は水分が多いからあまり好きじゃないって言うけど、甘くて美味しいのにねぇ」って言ってた。
 母はサワーポメロがめちゃくちゃ好きだ。

 朝一番の飛行機に乗ると、昼前には家にたどり着く。
 いつもは家に着く前に途中の飲食店でお昼ごはんを済ませたり、スーパーで買い物をするけど、その日は飲食店もスーパーも通り過ぎた。
「買い物しなくていいの?」と尋ねてみると、「お母さんは何も言わなかったから、家で何か作ってくれるんじゃない?」と言われた。
 いいのかなぁ、と思っていると、父がお昼ごはんの予想を始めた。
「僕は焼きそばだと思うな。この前はスパゲッティーだったからスパゲッティーはないだろうし、チャーハンだったら、朝ごはんのときに『今日はごはんを固めに炊いたよ』って言うだろうし」
 父の推理に「へぇー」って相槌を打ちつつ、家に帰り着いた。

 台所で料理をしていた母に、「買い物してないけどよかった?」と尋ねると、「大丈夫だよー」と言われる。
 何を作っているのか聞いてみると、なんと、焼きそばだった。
 ちょっとにこにこしながら、父との会話を話す。
 母は「え〜」って眉をきゅっとしながら、声はちょっとうれしそうだった。
「お父さんの言う通りなの、いやなんだけど。やっぱり今から野菜炒めにしようかな」
 フライパンには野菜がたくさん炒められていて、野菜炒めでも十分いけそうな分量ではあったけど、口で言ってみただけみたいで、その後すぐに迷いなく、焼きそば麺を投入していた。

 食卓に焼きそばの皿が並んで、それを見た父が面白そうに、私に「ほらね。お父さんはお見通しなんだよ」って言った。

* * * * *

 昨日、深夜に美味しそうなチャーハンの写真を見て、無性にチャーハンが食べたくなった。
 チャーハンはお店で食べるのが一番美味しいと思っているので、ほとんど作らないんだけど、パラパラにする方法を教えてもらったので、久しぶりに作ってみることにした。
 チャーハンにするならごはんは少し固めに炊かなくちゃね、と思って、ふと思い出した帰省した日のお昼ごはんのこと。

2023.02.23

 

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