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病院のスタバにて

 大学病院内のスタバにいる。待ち時間が2時間はざらなので、利用する人は多い。高齢者がほとんどであるため、注文はホットかアイス。〇〇フラペチーノは言いにくそうになんとか伝えている。レジ横のベンチで新作を飲みながら、高齢者の列を眺める。

 なかなか呼ばれない。1時間スタバで潰したがまだ呼ばれない。私は皮膚科に通院している。全身の脱毛症を患っており、普段はウィッグを着用して生活している。戸惑ったのは最初だけで、今はどのウィッグをつけるか、どんなウィッグを買おうか、などと楽しんでいる。

 自分とは何か。顔形、髪型、服装、個人を形容するものは様々だが、私は毎日髪型を変える。服装も日々変わるものだし、私を表すものは定まらない。今はマスクもあり余計に誰か分からないだろう。私を私と判別できるのは目だけである。目。目だけが私を形作る。 

 ...やっと呼ばれたのであとは薬を貰うだけである。診察時間5分。診察時はウィッグを外し、360度全方向から写真を撮られ、研修医の熱い眼差しを感じながら回る椅子に乗りぐるぐるしている。この時だけ、私は「丸坊主」という記号を手に入れる。なんの因果か手に入れてしまった記号。去年から拾った新しい記号。

 髪型、服装などはただの記号に過ぎず、拾うも捨てるも自由である。並べて文章を作れるかもしれないし、記号を持たない者は無個性と呼ばれるのかもしれない。しかしそれらは生身の自分に乗っかっているだけで、本当の自分を表すものは目の奥にある意思だけなのかもしれない。自分を自分と判別するもの。それが目だけって、と思うかもしれないが、実際私はそうである。強い意思を目の奥に込め、私は私を表現する。


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