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ポムの樹の出現と消失

 1番近くのポムの樹が潰れた。これで市内は全滅である。元々は4店舗ほどあったはずだが、いつのまにか全員消えてしまっていた。ああ、愛しのポム。消えた君らはどこへ行ったというのか。私を置いてどこで何をしているのか。

 大事なものはいつのまにか無くなるわけで、ポムの樹だけでなくずっと通っていた喫茶店も潰れた。彼氏も別れて分解したし、美味しかったスタバのなんとかラテは期間限定でもう飲めない。大事なものはいつか消えるなんて、そんな重要な事になぜ気付かないのだろうか。

 存在のありがたみを忘れる。「ありがとう」の対義語は「当たり前」とは言い得て妙で、中々気付けないのは無理もない。私だって彼氏とこれからもずっと一緒にいるもんだと思っていた。別れて分解して消えてみると案外あっさりしているもんで、こんなものかとある種の清々しさを感じなくもない。 

 彼氏のありがたみって何だ?エスカレーターで先に乗せてくれること?車道側を歩いてくれること?気軽にセックスできること?清々しい程何も残らないのは彼を好きじゃなかったから?

 消えたポムの樹は新たな土地で再生する訳もなく、ただ消えて終わりである。もうあの馬鹿でかいオムライスには出会えない。消えて名残惜しいのはそれだけ愛が深かったからなのか。消えて清々しているのはそれだけ愛が無かったからなのか。



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