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【インタビュー】色んなことを天秤にかけたら、精子凍結しないなんてリスクしかないって思った~頸髄損傷・さわたけさんの精子凍結のはなし~

大学生の頃にスポーツ事故で頚髄を損傷。四肢麻痺の障害を負い
車椅子で生活するさわたけさん。

いつか子どもを持つ選択肢を諦めないため、4年前にTESE(精巣内精子回収術)精子凍結をしました。

脊髄損傷の生殖という現実 

 不思議なことに、障害を持つ前に障害のある人を見たことがなかったんですよ。見たことないはずがないのに、僕は不思議と見たことがなかった。人って、本当に見たいものしか見ないんだなって、自分が障害を持った時に思いました。リハビリセンターに行ってみると、世の中はこんなにもたくさん障害者がいるのにねって思いましたよ。
 脊髄損傷者の生殖について知ったのは、たしかリハビリ施設で周りの仲間との情報交換の中でだったような気がします。
 「生殖機能は脊髄損傷により障害されて、精子の質や精子をつくる機能は時間の経過により低下するから、早めに精子を採取して凍結しておくといい。」
というようなことです。

 昔から子どもは欲しいなと思っていました。だから僕にとっては怪我で自分の生殖がどうなったのかは、なんとなく気になる話題でした。
 
 脊髄損傷の男性は性機能が障害されます。射精ができないことによる精子の質の低下に加え、時間の経過によって精子を造る機能が障害されていくそうです。
 
 僕はパートナーがいないままTESEを受け、今もフリーです。だから将来凍結精子を使う時が来るのかどうかわからなかったのですが、いざ子どもが欲しいとなった時に「精子がない!」となってはそこで人生の選択肢は断たれてしまいます。自分はそれで良くてもパートナーの人生もあるんです。
 お金、時間、自分の人生の豊かさ、色んなことを天秤にかけた時に「精子凍結をしないことは、将来のリスクでしかない」と思いました。

 
 受傷から2年ほどだった頃のことです。
彼女ができた頃で、ふと将来が不安になった時期だったのかな?
「そういえば精子凍結はどうやるんだろう?」と思い、かかりつけ医に相談したところ、すぐに男性不妊専門医に紹介してもらうことになりました。

僕の場合は、近くにすぐ相談できる先があったことが幸いでした。

障害のある父親になることのイメージはわかないけれど

 正直なところ情報が少なすぎて、障害を持った自分が車椅子で父親になるというイメージは全く湧きません。障害を持つ父親のロールモデルがもっと必要です。

 自分が体調を崩して入院中にパートナーと子どもは大丈夫なのかとか、サポートしてくれる人がいない時、頼れる行政サポートはあるのか?
 学校に上がるようになったら、学校側はどの程度受け入れてくれるのか?
そうした細々した不安はあります。

 だけど障害を持った自分だから父親になっちゃいけないとか、子どもが可哀想だとかは全く思えないんです。そりゃあ不安は無いわけじゃないけれど、なんとかなるよと思うんです。

 親がネガティブで「辛い。死にたい。何もできない。」とばかり言っていれば子ども「そうか。障害は何もできなくて可哀想なことなんだ。」と感じるかもしれませんが、子どもが「障害のあるパパなんていやだ」と思わないくらい、自分が人生を楽しんでいれば、子どもも「車椅子だからパパは可哀想だ。」とはならないでしょう。「車椅子かどうかに関わらず、それなりに人は人生を楽しめる!」ってことを教えれると思っています。


いざ男性不妊クリニックへ

 僕が紹介された福岡のクリニックは男性不妊をメインに扱っていて、男性の患者さんも多くみられました。

https://mensrepro.com/

  パートナーがいないので助成金もありませんでしたし、完全に自費診療でした。当時、掛かった費用は約40万(半年間の保管料込み)で、年間の更新料が6万円です。正直、高いなとは思いますが将来への必要な投資です。

(令和4年4月より不妊治療でのTESEは保険適用となりましたが、付随する治療の一部は自費診療となっています。)

不安もあったけど希望がある

 何も知らない状況で一番不安だったのがお金でした。どのくらいかかるのかのイメージがわかなかったんです。多分そこが不安で踏み切れない人もたくさんいると思います。
 僕の場合は精子を10本凍結して、年間6万円の凍結費用が掛かっています。自動更新はされずに振込です。振り込まないと自動的に廃棄されてしまうため、毎回ドキドキしますね。保管費用や更新のシステムもクリニックや病院によって様々で、ここよりも安いところもあります。

 睾丸にメスを入れることには抵抗ありませんでした。パートナーもいない状態で切ってみないと精子が採れるかどうかわからないけれど、受傷から年月も経っていたので、「精子がいなかったらどうしよう」という焦りの方が大きかったんですよ。だから睾丸切るだけなら、それくらいのことはするよと思ったんです。全身麻酔じゃないことも大きかったです。
 僕の場合は局所麻酔で意識がある中での手術で、その場で採った組織をみせてもらえました。受傷して時間が経っていたので、もうまともな精子は無いかもしれないと不安だったんです。顕微鏡で見て、すぐに精子があることを教えてもらえて安堵しました。

 精子は10本分採れて、凍結してあります。

日帰り手術で、トラブルはとくにありませんでした。強いて言うなら、自律神経の反射で悪寒はありました。感覚がないので痛みは感じませんでしたが、感覚があったら痛いのかもしれませんね。暫くはキツめのブリーフを履くように言われたので、少し生活しづらさはありましたが。

 先の不妊治療の部分は、まだ知らないことだらけなので不安に思いながらも、いつかパートナーと子どもを作るためのプロセスに進めるといいなという希望を持っています。


これからの人に伝えたいこと

将来的に子どもが欲しいと考えていて、金銭的に可能であれば精子採取と凍結はやっておいた方がいいと思います。自分が納得していても、パートナーの考えもあります。選択肢は多く持つに越したことはありません。


まとめ

 さわたけさん、まだまだ情報の少ない貴重な経験をお話しいただきありがとうございました。
 脊髄損傷の男性の生殖はまだまだ語られる機会も少なく、当事者にすら知らされないこともあるそうです。

 脊髄損傷者の生殖機能は一般的に、時間の経過とともに低下すると言われています。

https://www.jscf.org/knows/report/


 多くの人が豊かな人生選択の機会を得られることを願っています。


 脊髄損傷か否か、障害の有無に関わらず、不妊治療の技術発展や助成の充実、社会全体の子育てサポートの拡充がはかられ、全体の質がボトムアップすることで、障害があってもなくても出産育児しやすい社会になっていくことでしょう。

福岡市内のホテルのバリアフリー情報を集めて情報発信されている
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