シカ激増で死の森と化す、日本の異常な生態系
鹿児島県霧島山地の林内は、見ての通り、地上約1.5mより下にほとんど緑がない。シカが届く範囲の植物を全部食べてしまっている(ディアライン)。
えびのエコミュージアムセンターでは「霧島は九州有数の植物の宝庫です」とアナウンスが流れていたが、「だった」と訂正すべきだ。林床植生は、シカが嫌うハイノキばかりで、あとはコガクウツギやツタウルシ、シキミなどが少数で、貧弱&単調極まりない。つまり、鹿が嫌う忌避植物や毒草、トゲトゲの植物ばかりの歪んだ生態系だ。
高木には、優占種のミズナラやアカマツのほかに、コシアブラやハリギリ、コハウチワカエデ、ヤマボウシ、ミヤマザクラなども見られるが、これらの幼木は全く見られない。草がなくなれば、シカは高木の幹もどんどんかじって枯せてしまう。植物と生態系の知識があれば、この森は木々が減って衰退する一方なのが容易に想像できる。
霧島の北、えびの市から熊本県人吉市にかけての山地には、葉っぱがくさいマツカゼソウだけが異常に目立つ。これもシカが異常に多い森の典型だ。いや、日本の森の典型になりつつある。
林内の下草、すなわち林床植生がなくなると、今度は土壌が流出しやすくなり、谷沿いから崩壊して土砂崩れを起こす現象が次々見られる。森林生態系の問題を知らない多くの人々は、これを近年の集中豪雨のせいだけにしてしまう。
とにかく、こんなに異常な森が日本中に増えている。シカを大量に駆除して死体を森に放置する、、、そんな対処療法だけしていても、肉食のクマが増えるなど、生態系はますます乱れる一方だ。そう、クマの出没多発と、シカの激増は明らかにリンクしている。
さらに言えば、犬の放し飼いを禁止した頃から、シカやイノシシ、クマやサルなどの人里出没と被害が急増している。放し飼いのイヌがうろついていれば、野生動物はこんなに人里に近づいて来ないはずだし、人間が絶滅させてしまったオオカミ(=シカの捕食者)がいれば、シカやイノシシだけがこんなに増えることもなかったはずだ。
人間が本気で捕食者になるのか、本物の捕食者の野に放つのか、国や自治体をあげて、早急に真剣に考える必要がある。
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