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雲南省剣川でのある白族の文化人との出会い

社員旅行で雲南省は麗江に来ている。1日まるごと自由行動の時間があり、のんびりローカル古镇巡りでもするか、と考えていた。同僚に雲南省昆明市出身の人がいて、「少し僕と所縁のある古镇が近くにありますが、一緒に行ってみますか?」というので、是非にとご一緒させてもらうことにした。

私たちが向かったのは、剣川県という白族が今も人口の9割以上を占めるという地域らしい。昆明君いわく、「全く観光地化してない古镇なんで、コーヒーショップとかキャピキャピしたものはないです」とのこと。期待が高まる。他に四川は成都人、あと上海人という4人のグループで剣川に行くことにした。

集落につくと、なかなか素敵な街並みである。昆明君の言っていた通り、訪れたことのある多くの古镇と違って観光の匂いがほぼしない。本当に白族の人が普通に暮らしている感じだ。街に着いてすぐに、ほぼ全てのお家の門に絵と書が左右一枚ずつ貼ってあることに気が付いた。同僚昆明君の解説が入る、「白族は書法がとても好きなんですよ。元々は文字を持たないのですが、なぜか漢字に対するこだわりは強く、書道を嗜む人は漢族より多いような気がします」

道を歩いていくうちに、貼ってある絵の中に非常に愛らしい、おそらく白族の民俗文化を描いたものが多くあることに気が付いた。絵のタッチに特徴があり、同じ画家さんだろうと見当がついた。「さっきから何回か見かけているこの絵、私すごく好きだな~。どこかでポストカードとか買えないかな」とつぶやく。昆明君が絵に目線をやった後、言った。「えっ、この絵ですか?!おそらく、僕の知り合いの人の絵ですよ」

昆明君は、7年前に大学の研究の関係で2か月程この地域に滞在していたという。画家さんとも、その当時の知り合いだという。早速Wechatで連絡してくれたが、返事がない。昆明君は焦る様子もなく、その辺の町の人に聞き始めた。○○先生、どこにいるかわかる?町の人も、朝あの通りで見かけたよ、とかいつもは昼は文化会館でお茶飲んでる、とかヒントをくれる。私たちもそれに合わせて町をぐるぐる探し回った。最後は、あるタバコ屋のおばちゃんが直接先生の家に電話をしてくれて、無事に先生に辿りつくことができた。

画家の方は张旭东という。絵のほうも勿論有名だが、道教の道士さんでもあるらしく、この地域の文化人として町の人から尊敬されている存在だという。中国語ソースで記事があったので載せておく、張先生の絵も何枚か見られる。https://www.sohu.com/a/483360239_120543300

張先生のアトリエにつくと、無造作にカラーコピーされたA4の絵が何種類も置かれていた。家の門に貼られていたのはこういうタイプのものだったのか。改めてみると益々可愛らしく、見れば見るほど沢山欲しくなるが、家に飾れる枚数に留めておこうと冷静さを呼び起こす。こういうのが好きな友達へのギフトに数枚足して、合計8枚を購入することにした。1枚50元くらいだろうか…?全く値段の見当がつかない。蓋を開けてみると、1枚5元だという。「町のみんなが門に貼るためのものだから」とのことだった。

張先生は昆明君を可愛がっていたようで、突然の来訪をとても喜んでいた。そしてこの手の状況では中国ではド定番の、「うちにお茶飲みに来なさい」展開となった。張先生の家は3階建てで、一番上の日当たりのよいお部屋を仕事部屋にされていた。先生は民俗画以外にも漢族伝統の工芸画も描かれていて、タッチが全く違うので驚いた。でも、工芸画のなかにも微かに張先生の民俗画の独特な透明感のある青緑色の存在が感じられて、素敵だった。

絵は学校で習われたのですか?と聞くと、6歳から描いていて今年で40年のキャリアになるが、学校という場で勉強したことはない、という回答が返ってきた。学校で誰かに教えてもらった小手先の技術だけでは大成できないと、少し批判的に語ってくれた。自分で何が美しいかを判断して、これはどうやって作り出すのだろう、と研究と試行錯誤を繰り返す。さらに、絵をかくための素材や話題のインスピレーションを得るために、読書を沢山して自分の思考を深めることも欠かせない、と付け加えていた。

私たちは2時間ほど滞在したのだが、宗教・歴史・四川省・日本など色々な話をしてくれた。張先生の普通語は訛りがきつく、かつ内容も複雑だったので話題によって私の理解度は10~70%(泣)くらいだったが、示唆に富んだお話ばかりで大変刺激を受けた。話題ひとつ一つが深く今日このnoteには書ききれないが、考えを整理した後に改めて書き起こそうと思う。

知識や思考を昇華させて、美術としてアウトプットする。さらに、それをコミュニティの日常に自然に浸透させ、そこに住む人たちの毎日を少し素敵に変える。そんな夢みたいにかっこいい事をしている文化人に会えて、少し一緒に話をできた幸せな1日があったことを、まずは備忘録として書いておきたかった。

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