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40の手習いドイツ語学習を通して気づいたこと


半年ほど前に40を目前にしてドイツ語学習を始めた。ゲーテ・インスティテュート(ドイツの孔子学院…?)の週合計8時間のコースに申し込んだのだ。A1.1からA1.2, A2.1まで1か月半ごとに0.5レベルを消化するペースで進み、約半年が経った。

ドイツ語ファンには怒られるが、私は欧州言語では断然おフランス語が美しいと思う派で、大学の第二外国語もフランス語であった。ドイツ語を始めたのは、相方の母国語がドイツ語でコロナ前は頻繁に母国を訪問していたため交流するのに便利だということ、ドイツ的な感覚(哲学や生活文化含め)への興味、同じ屋根の下にネイティブがいるので習わないと損、といった曖昧かつ適当な動機からであった。

約半年が経ったいま、正直言ってドイツ語自体の進歩は全くどうということはない。しかし、学習の過程のなかでドイツ語以外の色々な気づきがあって、思い切って初めて良かったと感じている。今日はその気づきについて記そうと思う。

赤ちゃんに戻って、世界に立ち向かう追体験

先週、ドイツの子供向け番組を見てみたが発言が、速すぎて追いつけない。相方は言った、「これは7歳以上向けの番組だから、あんたには早すぎるね。」私もすんなり、確かに小学1年生くらいだと全然歯が立たないなと受け入れた。新しい言語習得を始めると、貴方が現実世界で何歳であろうと関係なく、赤ちゃんに戻って複雑怪奇な大世界を前に立ちすくむという経験をさせてくれる。

年齢を重ねると、仕事や生活のなかで一定の経験が蓄積されてくる。幼少期や社会人になりたての頃のような、右も左もわからずパニックになるような機会は相対的に減少するといえるだろう。または、困難な状況に陥っても、自分で解決する度胸と行動力が培われているので、対処できるようになる、と言ってもいいかもしれない。

新しい語学習得に飛び込むと、そういった経験がいったんリセットされてしまったかのような感覚に陥る。初対面での挨拶のとき、気の利いた一句で印象づけたいのに、どう言うかわからず「私の名前は○○です」しか言えない。週末は何をしていたか聞かれ、知っている単語が限定されるため、事実と違うのに「散歩をしました」と毎回答えるはめになってしまう。こんな風に、突然この世界での自分の可動範囲が狭くなってしまうのだ。このような状況は、大きなフラストレーションを伴う。そして一定期間、常に付きまとう。

このようなタイプのプレッシャーと日常的に付き合っていくことで、自身にポジティブな効果がもたらされている。一つ目は、新しく知らないことを学ぶ勇気を持ち続けられるための訓練を詰めること。二つ目は、限られたリソース(語彙や表現)の中で目的を果たすための目的志向が研ぎ澄まされること。英語学習は学生時代から始めていたこともあり特に何も感じなかったが、6年前くらいに始めた中国語学習の際に薄々上記のような事を感じ始めていた。40近くなり、仕事でもマネジメントの立場に置かれることが多くなったいま、語学学習のもたらす意義について更に強く感じられるようになった。

中国人の同級生と一緒に中国語でドイツ語を勉強すること

私の通うクラスは、今のところ私が唯一の非中国人であり、授業はドイツ語60%中国語40%くらいで展開される。仕事の際もほぼ中国語環境だし、環境的に大した違いはないかと思っていたが、クラスが始まってみると「ドイツ人VS非ドイツ人」という構造において中国人も日本人も完全に平等関係になれることが新鮮に感じられた。

仕事場では、日本語ネイティブとして日本企業の窓口をする役割を持っていたり、幾分か郷に入っては郷に従え的な気遣いをしたりとか、私は中国人の同僚とは異なる身分を持っている部分が少なからずある。しかし、学校の中では、無限に出てくるドイツ語の愚痴を言いあったり、便利な格変化早見表を共有しあったり、テスト後にお疲れ会を企画したり…誰も私が日本人であることは気にしない。友人関係とはまた違った、目的を共有できるグループの中で、中国人の同級生たちと親密な関係を築くことができてよかったと感じている。

さらに、中国語でドイツ語を学ぶことのオマケ的効果もある。中国語の復習&語感磨きである。授業も中国語ベースなので、メインの辞書も独中辞書アプリにしている。中国語がわかりにくい際のサブとして独英辞書アプリも使い、理解を補完している。中国語の語彙のなかで微妙にズレて意味を理解していたものがあり、ドイツ語という全く違うフィルターを通して微妙な間違いに気づくという事が何回かあった。日本語だと中国語と語彙的には近すぎるものもあり、微妙な差に気づきにくいことがあるのだと推測する。3か国語以降の学習は、このように既習言語のシナジーを造っていくことの楽しさもある。

今後ドイツ語の難しさに(また)心が折れそうになったときに心を落ち着かせられるように、そして年齢や環境といった理由のために語学学習をためらわれている方の参考になるように、私の気づきを整理してみた。

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