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(連載小説)和巳が"カレシ"で、かすみが"カノジョ" もうひとつの学園祭のミスコン⑧

「それでは準備が整いましたようですので後半の審査を開始したいと思います。これより順にドレスを着たファイナリストがステージ上に登場しますので皆さんどうぞご期待ください。ではエントリー番号1番!・・・・・。」

MC役の司会者がこう言うとエントリー番号順にファイナリストがステージ上に進んで行く。

それぞれがそれぞれに趣向を凝らしたきれいな白のウエディングドレスを身に纏ってステージ上に現れると、会場からは先程幕間で流されていた振袖の動画にも負けない大きな歓声が上がった。

「わあー今度はドレスだって!。きれいー!。」

「振袖だけじゃなくてドレスもめっちゃ似合ってるー!。かわいいー!。」

「男の子がこんなにドレスが似合うだなんてすごーい!!。」

などと称賛の声が上がる中、怜奈がステージ上に上がると「これが本当は男子なの?ー全然そんな風に見えなーい!。」と先程より一層大きな歓声が上がっていた。

そしてかすみの出番となり、しずしずとステージ上へと歩き始めた。

「えっと・・・・・こうかな?・・・・・。」

ブーケを持ち、プリンセスラインの豪華なドレスの長いトレーンを少し引きずりながら日頃は履かない7センチの高めのヒールの靴を履いたかすみがしずしずとお淑やかに、そしてゆっくりとステージ上のランウェイを進むと先程の怜奈の時と同じ位大きな歓声が会場に湧き上がった。

「わあーとってもかわいいー!!。」

「こんなにドレスが似合う男の子っている?ー。」

「この子すらっとしてて華奢だしスタイルもとってもよくて素敵ー!。」

などと会場からかすみのドレス姿に高評価の声が飛び交い、お手製の「かすみ LOVE」「かすみ かわいい」の飾りのついたうちわが揺れている。

「よかった・・・・・。会場のみんなもわたしのドレス姿似合ってるって思ってくれて・・・・・。」

そう思いながらランウェイを進んでいるうちに安心したのか自然と笑みがこぼれてくる。

「お召しのドレスは女性らしいプリンセスラインの白のドレス。なで肩で華奢な体型を活かし、この体型だからこそ着られるオフショルダーのこのドレスが今日のこのステージにとても映えています。」

と司会者に言われながらランウェイを歩いているとまるで花嫁として結婚披露宴に出ているような感じがしていた。

そして大歓声の中ランウェイを歩き、予め決められたステージ上の定位置に立ち止まって周りを見ると、ステージ上に立っているドレスを着たファイナリストたちに対しての会場からの熱い視線を感じ、そして他のファイナリストたちの着飾った華やかで美しいドレス姿がそこにはあった。

「みんなとってもきれい・・・・・。それにわたしにも会場からいっぱいお褒めをいただいてうれしいし、ドレス着るってこんなに楽しいんだ・・・・・。」

そう思っていると司会者からステージ上のファイナリストそれぞれに順に質問が始まり、ここでの質問とトークは最終審査の一部分を兼ねているのでそのやりとりは審査員も熱心に聞いていた。

質問自体はエントリー番号順ではなく、司会者がランダムにファイナリストとトークや質問をするスタイルで、結構アドリブ性も要求される。

千穂や里奈と司会者とのやりとりは素朴で、結構初々しさもあり、会場からも好反応のうちに進んでいた。

そして怜奈に司会者が話を向ける。「平野怜奈さん、とってもマーメードラインのドレスがお似合いですが、実際に着て見てどうですか?。」

「はい、とってもすてきですし、また豪華で映えるデザインなので本選にはピッタリだと感じました。それにわたしにはこのドレスは本当に合っているようなのと、皆さま方からの評判もおかげさまで高評価のようですのでここは一気にグランプリに向けての勢いをこのドレスでつけていただいたと思ってます。」

と自信満々に怜奈は答え、会場からも「ほんとドレスお似合いねー!。」「怜奈さんのドレス姿映えてるー!。」などと声が掛かる。

そんな怜奈に司会者が続けて「”一気にグランプリに向けての勢いをつけたい”と怜奈さんはおっしゃいましたが、ずばり優勝への手ごたえを感じてらっしゃると言う事でしょうか?。」話を進めると「はい。最終的には審査員さんと会場の皆様でお決めいただく事なのですが、ここまで来たらせっかくなので是非とも優勝させていただければと思っております。」と自信満々に質問に答えている。

「怜奈さんすごい自信・・・・・。それに質問の受け答えも上手だし、何より今日のこのドレス姿もとってもきれいよね・・・・・。」と思いながら横でやりとりを聞いていたかすみに司会者が質問をする。

「さて豊岡かすみさん、予選の1次ウエブ審査での高得票、そして本日の本選でも前半の私服審査でとてもナチュラルでかわいらしいワンピース姿をご披露いただき、お着替えの間に流れた振袖動画に加えてこのドレス姿に至るまで全部会場から大好評ですね!。」

「は、はい・・・・・ありがとうございます。わたし今までほとんど大勢の方の前で女装したわたしをお見せした事が無かったので、女の子になったわたしを見てどんな反応を皆さんがされるのかパス度も含めとっても気になっていたんですけど、今のところおかげさまでご好評をいただいたようでホッとしています。」

そう言うかすみだったがそれはどれも本心だった。普段は着物屋さんでのバイトの時以外女装する事の無いかすみは当然ブログやSNSにアップされている巷の女装子たちのように女装して外出するなんて事は今までもチームかすみの初顔合わせとこの前の紺のワンピースを着て登校した時以外は全く無く、確かにその時は高いパス度でなんとか乗り切ったけど元々何度女装してもとても恥ずかしいのには変わりなく、しかも今日はウエディングドレスと云う純女でも着る機会の無い究極の衣装を本当は男子の自分が着ているので余計にそう思っていた。

「いえいえ、ですがそれにしてもかすみさんの今日のファッションには会場からも”どこから見ても女の子にしか見えない”とお声が上がっていますし、これまでの経緯を見てもかすみさんは充分グランプリ候補だと思われますがご自分ではいかがですか?。」

「はい・・・・・こんなわたしを見て”女の子にしか見えない”だなんて多くの皆さんにお褒めいただいて本当に嬉しいし光栄です。またグランプリ候補と言っていただいてこちらも大変光栄ですが、わたし自身は今日のこのコンテストはまずは楽しむのを目標にしていますので最後までとにかく楽しませていただこうと思っています。えへっ。」

と最後は緊張が少しほぐれたのか「えへっ」と言いながら照れ笑いがこぼれていて、会場からはそのかすみの初々しい仕草を見て「かすみちゃんってかわいいー!。」「グランプリ最有力はかすみだね!。」などと怜奈の時に負けず劣らず大きな反響、それも好意的で好反応な反響があがった。

そんな風に全員に質問が終わるといよいよ最終審査となる。会場からは入場券の裏にエントリー番号の1から5番とそれぞれの女装名が書かれていて、それのどれかに〇をして投票をしてその合計が得票となり、また先程からステージ上にてコンテストを審査しながら見ていた5名の審査員はそれに加えて予め主催者側で決められた審査基準に沿って各自が審査をして配点を決めてそれを合計する。

審査基準は「パス度」「女性らしさ」「トーク力」「ファッション」の4項目で、ファッションは前半の私服、幕間の和服、そして最後のドレスの3パターンそれぞれに審査をしていただくとの事。

またそれとは別に審査員各人に10点ずつ「フリーポイント」と云う事で「将来性」や「人柄」、はたまた「期待値」などのこの子に少し点数を加えたいと思うならば加点してもらってよい仕組みとなっている。

審査が始まると審査員は別室へ、またかすみたちは一旦ステージ後方の控室へと下がり、軽くメイクを直してもらったりしながら審査の行く末をモニター越しに眺めていた。

ステージでは投票が終わったので幕間を利用してダンスパフォーマンスが行われていて、それなりに会場も盛り上がる中、控室のかすみたちは少々緊張の面持ちで審査結果が出るのをじっと待っていた。

混戦なのか思ったより審査に時間が掛かっているようで、ダンスパフォーマンスも予定を延長してアンコールに応じているような感じで、少しやきもきしながらかすみたちはもちろん会場のあずさたちチームかすみの面々や怜奈の取り巻きの友人やカノジョの麗美も同じようにやきもきしながら審査発表を待っていた。

「優勝はできたらいいけど、まあこうやってきれいなドレスが着れたり、会場の方にいっぱい”きれい”とか”かわいいー”と言ってもらってわたし皆さんにはちゃんと女子に見えたようだったからそれで充分。でもそろそろ結果が知りたいな・・・・・。」

とかすみは思いつつ控室で待っていると審査結果が出たようで改めてスタンバイするように事務局から言われ、エントリー番号順に5名の女装子は整列し、ステージ上にドレス姿のまま上がった。

大きな拍手と歓声に迎えられてステージ上に上がった女装子たちに司会者が「大変お待たせしました!。審査は大接戦、大混戦だった為、少々お時間が掛かってしまいましたがなんとか最終結果が決まりましたのでこれより審査結果を発表させて頂きます!。皆さまステージ上にご注目ください!。」そう言うとBGMのドラムロールが鳴り、ステージ上の照明が少し暗くなる。

「審査員さんお願い・・・・・かすみをどうか選んであげてください・・・・・。」

と会場のあずさは祈るような気持でステージ上を見つめ、また麗美は「絶対わたしの怜奈が今日は優勝するのよ!。あずさたちになんか負けてる訳ないわ!。」と心の中でつぶやきながら同じようにステージ上を見つめていた。

そしてかすみも怜奈も緊張がマックスに達した頃「発表いたします!。栄えある第1回渋谷学院大学”もうひとつのミスコンテスト”のグランプリは・・・・・。」と司会者が言うとステージ上に会場中の注目が集まる。

「グランプリはエントリー番号5番、豊岡かすみさんです!!。おめでとうございました!!。」

そう司会者が言うとパッとステージ上の照明が明るくなり、そしてスポットライトがかすみの居る位置を照らし始めた。

「え?今”エントリー番号5番の豊岡かすみ”って言われた?。わたしがグランプリなの?・・・・・ほんと?・・・・・。」

そう思いながらきょとんとしているかすみに司会者が「グランプリは豊岡さんに決定しました!。いやーおめでとうございます!。」と言いながら近づいてくる。

「ほんとにわたしがグランプリなんだ・・・・・。」

司会者がそう言いながら近づいてきて、そして会場の大歓声を耳にする事でやっとかすみは自分がこの”もうひとつのミスコン”で優勝した事を実感したのだった。

「やったー!!!。かすみが優勝だよ!!、優勝!!!。」

「かすみすごーい!!。おめでとうかすみー!!。かすみがグランプリ!。きれいだよー!!。」

そして会場のあずさたちチームかすみのメンバーと鉄郎たち仲のいい友人たちも思いっきり手を叩いたり、飛び上がったりしながらかすみの優勝を自分の事のように喜んでいた。

その横で麗美たちは意気消沈してステージ上を見つめていた。「なんで怜奈が優勝じゃないの?。この中で怜奈が一番きれいで女の子らしいのに。」そう麗美は不満たっぷりの表情でステージ上の怜奈とかすみ、それと会場で喜びを爆発させているチームかすみの面々を横目で見ていた。

そして麗美の周りで陣取っていた怜奈の取り巻きの学生メンバーたちも意気消沈し、白けた表情でステージ上を見つめていた。

「晋吾に言われてSNSとかであんなに結構ネガティブキャンペーンやったのに・・・・・。」

「グランプリじゃないんで俺たちに賞品や賞金、特典とかの分け前もきっと無いよな・・・・・。」

そう口々に言い、また「麗美さん、俺用事あるんで先帰りますね。さーせん。」「俺もすいませんけど帰ります。」と会場を早々と後にする者まで出始めていた。

そんな中ステージ上では司会者がかすみに優勝インタビューと云う事でマイクを向けていた。

「改めまして豊岡さん、グランプリ受賞おめでとうございます!。」

「ありがとうございます・・・・・。」

「今の率直なお気持ちは?。」

「はい・・・・・会場の皆さんの反応はおかげさまですごくよかったと自分でも感じてましたけど、まさか優勝までとは思ってなかったのでうれしいのとびっくりなのと両方です。」

「今のこの優勝と云う事を誰に一番伝えたいですか?。」

「やっぱりこのコンテストに出る事を勧めてくれて、また出ると決まってからは普段女装に慣れていないわたしにあれこれと準備を手伝ってくれてお世話をしてくれたチームかすみのメンバーにまずはお礼を言いたいです。」

そう言うと会場からは暖かくて大きな拍手が起き、もちろんチームかすみのみんなも同様に大きな拍手をかすみに送っていた。

そして司会者から会場に向けてひと言挨拶をと言われたのでかすみが「皆さん、こんなわたしをグランプリに選んでいただいて本当にありがとうございました。最初賞品と賞金に惹かれてエントリーしたようなところもあったんですけど、それでもチームのみんなにあれこれ教わったりしながら、またSNSとかで多くの方に励ましの言葉を掛けていただいたりしているうちに段々と女装する事が恥ずかしい事には変わりない中でも”女の子でいるって楽しい”、”女の子のおしゃれって楽しい”と思えるようになり、コンテスト自体を楽しめました。どうもありがとうございます。」と言うと今日一番の大きく、そして温かい拍手と雰囲気が会場を包み込んだ。

そして引き続きステージ上では賞状と花束贈呈の後は各種賞品・副賞がかすみに送られて、この頃になると緊張はさほどなくてどれも笑顔で受け取る事ができていた。

その後は記念撮影など全てのプログラムが終わり、かすみたちファイナリストもメイクオフと着替えの為に控室に戻ってくるとチームかすみの面々がかすみを待ち構えていて「かすみやったね!。グランプリだよ!。本当におめでとう!。」と言いながらあずさはかすみに抱き着いてハグしていた。

「うん、ありがとう・・・・・。みんなのおかげだよ。本当にみんなありがとうね。」

そしてメイクオフをしていると事務局から「豊岡さん、すみませんが明日は予定何かありますか?。」と聞いてこられたので「いえ、明日は普通の学生として今度は本家ミスコンを見に来る予定ですが他には特にありません。」と答えると「そうですか。それならよかった。いやできましたら”もうひと仕事”お願いできませんかねと思って・・・・・。」と言ってこられる。

「”もうひと仕事”ってなんですか?。」

「いえね、ちょっと思ったんですが・・・・・。」

そう言うとこっそりかすみに耳打ちをする。

「はあ・・・・・それは別に構いませんが・・・・・・。」

「なら決まりです。明日またお手数ですがお越しください。」

(つづく)







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