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ハジマリハ深い谷底から 二章 滅びの足音①

はじめに

 そこそこ原稿の蓄積ができましたので、短期集中的に更新を再開します。
今回の更新内容全体をざっくり述べると、嵐の前の静けさというところでしょうか。
 ですので、ちょっと足りないなと感じるかもしれませんが、ご了承ください。

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二章 滅びの足音

 内閣閣議室。樺太防衛基地からの急報を受け、東北及び関東要塞作戦本部長と統幕議長、副幕僚長が首相官邸閣議室に集められていた。閣議室の円卓席に座る4名の軍人は、沈黙を守ったまま首相の到着を待つ。

「――いやあ、お待たせして申し訳ない。臨時国会が長引きましてな」
 そう言って閣議室にやってきた内閣総理大臣、吉田田賀吉に4人の軍人は立礼。吉田首相が円卓席の中心に座ると、4名の軍人も着席する。

「それで、樺太で幻獣は抑え込めそうですか?」
「樺太は現在既に戦力の70%近くを失い、防衛線を維持できなくなりつつあります。したがって北海道への侵攻は時間の問題だと思われます」
 私の問いに米内(よない)正憲(まさのり)統幕議長が淡々と報告する。なるほど、樺太も危ないとなると、最悪北海道の放棄くらいは想定しておいた方が良いかもしれませんね。

「そうですか……北海道の状況は?」
「現在、北海道管区においては、幻獣襲来を見越して非常警戒態勢を発令。戦闘に備え、稚内基地に戦力を集結させております」
 私がそう質問すると、米内統幕議長の隣席に座る村井優一東北要塞作戦本部長がそう述べる。それにしても、村井さんは運が悪いですなぁ。もうじき昇進が待っていたでしょうに。

「総理。ここは万が一に備え、兵站を北海道へ供出したいと考えています。ご許可願いますでしょうか?」
「ふむ。山本君。貴方の見解をお聞かせ願えますか?」
 村井作戦本部長の提案に、僕は米内統幕議長の対面側の円卓席に座る、山本堅六副幕僚長に目を向け問う。山本副幕僚長は軽く咳払いしてこう述べた。

「そうですな。万が一の状況がおとずれた場合、北海道は地獄と化します。ですので、ここはまず住民の避難を行うのが肝要かと考えます。しかし、事実を公表してしまうと、世論の混乱は免れません。総理、北海道住民に対して、避難訓練を実施されては如何でしょう?」
「幻獣侵攻を想定した避難訓練……ねえ。確かにそういう名目なら、支持率低下は避けれそうだけど、保証はしないとダメだろうねぇ――僕の一存で予算組むと降ろされかねないから、国防費から捻出で良いかな?」

「ならば、自衛軍大陸東部方面軍団の未消化分が残っておりますので、そちらの予算を消化するというのは如何でしょうか?」
 唸る私に、山本副幕僚長の隣席に座る須藤六郎関東要塞作戦本部長が思いがけない妙案を提案する。確かに未消化分が残っているなぁ――須藤君は目の付け所が良いな。覚えておこう。

「それなら、他に影響を及ぼす事は少ないだろうからそれで実施しようか」
「総理! もう一つ、関東要塞からも兵站を東北要塞に供給したいと考えますが、ご承知願いますでしょうか?」
 私の言葉に須藤作戦本部長が続けてそう提案する。運搬で使った車両は、そのまま避難訓練に使うというわけか。予算多少が抑えられそうだね。

「わかった。村井君、須藤君の提案に同意しよう。米内君、所定の手続きに従って避難訓練の実施と監督をお願いします。避難シェルターは確か函館だったかな?」
「はい。状況如何によっては、函館より北海道脱出の手筈も整えます」
 私が思い出すように述べると、山本副幕僚長は補足するように解説する。上手く考えるものだねぇ。それなら、私は書類手続きと官邸で演説するだけで済みそうだ。

「よし。なら、書類作成と提出はいつも通り米内君にお願いします。私はこれから陛下にご報告申し上げます。皆さん日本国民のために万事よろしくお願いします」
『はっ』

 私がそう述べ、立ち上がり皆に頭を下げると、4人は立礼を返し退室していった。さて、陛下にはラシア大陸の件もある。どう取繕っておこうか?

2023.04.06 前作『幻獣戦争』より絶賛発売中

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