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ハジマリハ深い谷底から 一章 継承者ーー⑫

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一章 継承者ーー⑫

翌日、私は5人を名寄基地作戦会議室に集めた。作戦会議室といっても、座学用のプロジェクター設備に、長机と椅子が置かれている簡素な部屋にすぎず、普段はミーティングに使われる程度の会議室だ。
私は、部屋の講義用の操作卓で、話す予定の資料をまとめながら5人の集合を待つ。本来なら、昨日岩下司令から与えられた命令と情報を伝えるだけで良いが、俺が受け持っているのは通常の部隊員ではなく、尻が青いひよっこ共だ。幾ら優秀であっても復習しておくべき情報もある。そう、敵である幻獣の情報だ。改めて伝え、思い出してもらわねばならない……自分達がボーイスカウトの類ではなく、軍人であることを。

 しばらくして、朝食を終えた比良坂達が会議室に入室してきた。比良坂達は操作卓正面の席に左奥から比良坂、小野、徳田、柴臣、織田の順で並び敬礼。私が敬礼を返すと同時に着席する。
「おはよう。今日はお前達に通達がある」
 私は操作卓から5人に目を向けそう述べる。
「通達……任務ですか?」
「――まさか……」
「徳田君何か知ってるの?」
「えっ? なんすか? 戦略機乗り回しすぎたんすかね?」
「いや、それは関係ないんじゃねえか?」
 私の言葉に5人はそれぞれ違う反応を見せるが、徳田だけは察したような顔をする。もしかすれば、親族から何かしらの情報を得ているのかもしれないな……

「――昨日、基地司令より『幻獣侵攻における非常警戒態勢』が発令されたとの連絡を受けた。俺達はこれより稚内基地に赴き警戒任務にあたる」
「……我々に詳細を知る資格はありますか?」
 軽く咳払いして通達する私に、比良坂は多少勘案して述べる。驚くかと思っていたが、思いの外冷静のようだな、比良坂は……破顔している織田と徳田に比べると、だが。
「いや、待たれよ! 比良坂殿。その質問の意味を理解されているでござるか?」
「軍人としての責務を果たす機会がやってきた。それだけじゃないのか?」
「いやっ、えっ? 何で副隊長冷静何すか? もうちょっとびびるところじゃないんすかね?」
 苦悶に顔を破顔させたまま問う徳田に、比良坂は何食わぬ顔で答え、さらに驚いている柴臣が懐疑的な問いを投げかける。

「……うーん。立花隊長。その任務に拒否権はありますか?」
「まあ、そうだよな。一応拒否権は使えんのか? この場合?」
 三者三様に反応を返している隣で、小野と織田がもっともな質問をする。まあ、逃げたいという人間を無理に連れて行くわけにも行かないが、その場合は面倒な仕事が増えるな。
「確かにお前らの反応は当然だ。まだ新兵だからな。こんな任務は本来熟練者が優先して引き受ける類のものだ。仮に、拒否するなら隊は解散。穏便に済ませるなら辞表提出になるぞ」
「当然でしょうね。懲戒免職にならないだけマシでしょう。お前らはどうするんだ?」
 私の回答を比良坂はごく自然に受け止め4人に問う。こいつはなぜこうも冷静なのだろうか? 徳田達の反応がごく普通の反応のはずだが……幼少期の教育がこいつをここまで冷静にさせているのだろうか?

「言うまでもないけど、舞人が行くなら僕は行くよ」
「……信介さん、どうするっすか?」
 いつもの調子で答える小野に柴臣は逡巡して織田に目を向け問う。一蓮托生というわけか……
「俺か? 俺は……比良坂が行くならついていく」
「其方達死ぬかもしれないのでござるぞ! わかっているのでござるか!?」
 苦渋に満ちた顔で回答する織田に続いて、目を覚ませと言うかの如く徳田が声を荒げる。ああ、そうか。こいつ私が今から伝える情報を知っているのか。だから、こうも抵抗するのか……友達想いなんだな。

「信康。お前はどうするんだ?」
「――えっ?」
 冷静に問う比良坂に徳田は虚を突かれたかのように訊き返す。
「そうだよ。僕らの不安を煽ってないでちゃんと答えなよ」
「いや、ちょっ何で某が悪者になっているのでござるか?」
「いやまあ、確かに、別にまだ戦闘になるとは決まっているわけじゃないしなぁ」
 小野の鋭い指摘に徳田がたじろぎはじめ、冷静さを取り戻した織田がそう呟く。確かにその通りだが、私の経験上間違いなく戦闘になる……が、敢えて今言う必要はないな。予想を口にしてしまえば、未来が訪れてしまうかもしれない――私だってそうならない事に期待したい。

次回に続く


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