見出し画像

テレビは規制がなければ放送できないメディアである

よく今のテレビは規制があるからつまらなくなったという意見が挙がるが、それは誤りである。今も昔も地上波放送には自主規制は存在している。テレビには放送基準というものが制定されており、放送事業者は放送のルールを守って番組の制作・放送しなければならないのだ。

地上波放送における放送基準

テレビ番組おける放送基準(現在で言うコンプライアンスまたは自主規制)は、1958年に制定されました。その後、1970年にラジオとテレビの放送基準を統合して現在の形となる。それと並行して1969年には現在のBPO(放送倫理・番組向上機構)が「放送番組向上協議会」という名前で設立されました。BPOの直接の前身は1969年に設立された「放送番組向上協議会」と1997年に設立された「放送と人権等権利に関する委員会機構(BRO)」である。つまり1950年代~1970年代にかけて自主規制とテレビ番組を審議&チェックを行う団体が出来たということです。

一家団欒でテレビを視聴する昭和の家庭の様子

インターネットであれば嘘でも炎上商法でも人々の関心や注目を集めれば収入になる世界ですが、テレビは「視聴者・リスナーからの信頼」があるからこそ、番組を見て聴いて、その結果、広告主からCMを出稿してもらっている。「放送基準」を遵守し、視聴者・リスナーの信頼を得られなければビジネス面も含めた放送事業が成り立たなくなってしまう。ルールがあるからこそ、その範囲内で番組が放送できている。テレビは自主規制が無ければ公共の電波では流せないメディアなのだ。

■1950年代~1960年代(モノクロ放送時代)

コント55号の裏番組をぶっとばせ! / 時間ですよ

一般家庭にテレビが普及し始めた1950年代後半から1960年代前半は、現在よりテレビの自主規制、特に「お色気」に対する規制がすごく厳しかった時代であり、女性のヌードはもちろん、下ネタ、ドラマのエッチなシーン、放送禁止用語など少しでも放送すれば視聴者からの批判は絶えなかった。クレーム(苦情)、PTAやBPO(当時:放送番組向上協議会)などの団体、総務省(当時:郵政省)といったところからも注意を受けるほどで今の時代よりもテレビに対しての風当たりが厳しい時代だった。これは当時のテレビの影響力が大きく、テレビの影響が大きければそれに比例するようにクレームの数も増加して批判されやすくなるといったことが理由として挙げられる。1950年代~1970年代は、一般的にも深夜にテレビを見るという風潮がなかったため、夜間の9時~11時という時間は既に深夜という感覚で消灯時間となっていた(現在で言う夜中の2~3時)。

1965年に放送がスタートしたワイドショー『11PM』

●『ピンクムードショー』(フジテレビ)
地上波の放送基準が制定された後にフジテレビで放送。日劇ミュージックホールのヌードダンサーが出演する番組で乳房露出が多かったため、「低俗」・「卑猥だ」といった批判が殺到し、4回目の放送からはヌードの放送が禁止となった。
●『11PM』(日本テレビ)
日本初のお色気番組と呼ばれ、一般的にもお色気のイメージが強いが、初期は週刊読売編集長だった山崎英祐が司会を務め、時事問題についての考察を述べるスタイルの硬派な番組であった。しかし、視聴率が取れなかったため、放送作家だった大橋巨泉を司会にして、お色気から硬派な社会問題まで幅広く取り上げたところ大人気番組となった。11PMの場合は、最初からお色気を狙って制作されたのではなく、様々なジャンルの情報を取り上げる中の1つとしてお色気を放送していたという例であった。
●『コント55号の裏番組をぶっとばせ!』(日本テレビ)
BPO(当時は放送番組向上委員会という名称)の設立と同じ年に放送がスタートしたが、ゴールデンタイムにお色気要素を持ちこんだことで視聴者からの苦情が相次ぎ、1年間で打ち切られている。野球拳は本来、愛媛県松山市に伝わる郷土芸能だが、この番組の野球拳は、じゃんけんで負けた者が脱衣する内容であり、この番組の影響で野球拳といえば脱衣野球拳という誤ったイメージが定着してしまった。33%という番組の最高視聴率とともに当時のテレビの影響力、悪く言えば洗脳力が凄まじかったと見ることができる。
●『時間ですよ』(TBS)
銭湯を舞台にしたホームドラマ。当時の日本ではまだ各家庭にお風呂がなく、銭湯に通うのが当たり前だった時代。そのような銭湯文化を反映して制作された作品で女湯でドタバタするシーンが有名あるが、スタート当初はモノクロ放送(白黒放送)でお色気シーンに対して厳しい風潮だったこともあり、お風呂でのヌードシーンがほとんどなかった。

さらにお色気、性的描写のあるアニメや漫画に対しても非難される例も多かった。未だに昔は規制がなかったから良かった、昔は規制がゆるくて自由だったと言ってるのは、勉強不足の人 = テレビに洗脳された人(テレビが正しいと信じている)ということですね。現代では昔と比べてテレビの影響力が低下してるため、クレームの数も以前より減少している(テレビ以外のコンテンツもあり、テレビ離れも加速化しているため)。その一方で、昔は過激な歌詞で放送禁止だった楽曲が普通に放送されていたり、お笑いやバラエティでは裸芸人が毎日のようにテレビ出演していたり、昭和の頃よりも自主規制が少しずつ緩和されてきている傾向がある。

現在の60代以下の年齢の人たちは、幼少期、若者、または生まれる前の時代…。もちろん当時を経験していないため、昭和の頃のテレビも現在のテレビと同じように放送基準もあり、自主規制もコンプライアンスもあり、クレームもあり、BPO(放送倫理・番組向上機構)もあったという事情を知らない人も多いでしょうね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?