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【備忘録】金枝篇を読む

まじないのルーツを求めて

金枝篇』(きんしへん、: The Golden Bough)はイギリス社会人類学ジェームズ・フレイザーによって著された未開社会神話呪術信仰に関する集成的研究書である。金枝とはヤドリギのことで、この書を書いた発端が、イタリアネーミにおける宿り木信仰、「祭司殺し」の謎に発していることから採られた。完成までに40年以上かかり、フレイザーの半生を費やした全13巻から成る大著である。

Wikipedia - 金枝篇 より

とあるイベントにて手に取った、日本中の奇祭を取り扱った同人誌。
その中には、日本中のヘンテコなお祭りや御神体などを紹介しつつ、「何でそんな事になったのか」という視点で奇祭のルーツに迫るといった内容であった。
そのルーツを探る上で出てきた「類感呪術」「共感呪術」といった、呪いが伝搬する概念に、その単語の出典元であろう「金枝篇」に興味を持ったのが、自分が金枝篇を読むきっかけだ。
取り組んでいる創作で「その土地の伝承を見聞して具現化する」というプロセスを扱っており、参考になると思い某JUNK堂で金枝篇…の、簡訳版である「図説・金枝篇」を購入した。

先の同人誌の著者様からこちらをお勧めされたので手にとって見たのだが、いつも読んでるような小説などとは違い、結構な学術の書物だ。
休憩の合間で読むのは適さないと判断した自分は拝読を一旦保留。
何かの長期休暇等で続けて読もうと画策する。
そして2022年の正月に、一日65ページずつ読み進めて正月休み中に読破したのである。


それで、どんな内容だったのよ?

上にwikipediaの記事を引用したが、改めて(かなりいい加減に)内容を説明するとこんな感じだ。
民俗学を研究していたフレイザー先生は、イタリアのネミ村にあった「司祭殺し」という信仰を知る。
ネミ村には「森の王」という役割を持った祭司がいて、聖なる木の枝を持った者と戦い、そして殺されなければならないという物騒なものであった。
何でそんな事を?何で木の枝?どうして人間の死を伴うの?…などとフレイザー先生は思ったかどうか定かではないが、とにかく一連の信仰の要素一つ一つに「なぜ?」を抱き、世界各地から似たような伝承を取り寄せては比較し、「こんな状況だったのでこれを行ったのではないか?」と信仰のルーツに迫っていくといった内容だ。
イタリア・ネミ湖の豊穣の女神・ディアナから始まり、ギリシアなどの北欧やアフリカやアジア、もちろん日本の信仰なんかも取り上げつつ、「王はなぜ偉いのか?」「呪いとはなぜ考えられたのか?」「それを殺すとはどういう意味合いがあるのか?」「なぜ”ヤドリギ”を用いなければならないのか?」等など、信仰を構成する一つ一つの要素に「なぜ?」をつけていく。
そして、他の似たような信仰とそれの成り立ちを加味し、「こうではないか?」という推測を延々と立てていくのである。

で、何を学んだ?

…少し申し訳ないが、自分はこの本を読んでその全てを理解したとはとても言い難いと思う。
世界の信仰の解説をカタログ的に楽しんで、〇〇はだから✕✕なのであるという要点だけを極力読み取ることに努めた。
読み終えて数年経った今は、取り上げられた信仰の詳細なんて1割も思い出せないだろうし、確か読了した当時もそれは同じだった。
ならば、自分はこの本を読んで何も学ばなかったのか?と聞かれれば、いいや、そうではないと言えるはずである。
読了した時の感想がこれだ。

少なくとも金枝篇を読んだことによって、物事の成り立ちや意味、当時の状況を察する視点は身についたと思う
例えば「王は何故偉いのか?」という分かってそうでそんなに分かってなかった事を「王はその昔、呪い師だった」「呪い師は自然の写し身であり、自然そのものとして扱われていた」「人間が老いるように呪い師の効力も衰えていくので、殺して新しく交代させる必要があった」「なので呪い師は殺される間際まであらん限りの贅沢を尽くすことが許され、つまりその振るまいが王となった」と一通り成り立ちが解釈できるようになった。
物事には…特に一見すると奇妙な風習や信仰・祭りといったものは、遡ればキチンとそれが必要とされた当時の状況というものがあって、神様もしくは自然といった人間の手ではどうにもならないものに見立てて、それを思うがままに操りたいがために願い、奉り、殺したのである。

願掛けを行う神社仏閣、果ては物珍しい道祖神。
何の気無しに「こういうご利益がある」と聞き及び手を合わせるが、金枝篇を読んだことでそれが求められた神様であると認識し、求められた当時の状況や願いに思いを馳せ、改めて敬いの気持ちを持ってお祈りを捧げたいと思ったのであった。


いつでも読めるようバッグに突っ込んでたのが災いして雨でガビてしまった我が金枝篇。
フレイザー先生ごめんなさい。

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