探偵討議部へようこそ⑥ #10
前回までのあらすじ
ヒデモーのベルトと靴は無事届けられた。道路パトロールカーに追いかけられたハシモーとロダンであったが、なんとか逃げ切り、「安全講習」を免れた。
「いいお友達を持っていますね。」
マスモト・リキがまだ茫然自失のテイのヒデミネに語りかける。
「お前は次期エースなんだろ!」に対して、ヒデミネが思わず叫んだ言葉、「ハシモト氏、ズッキューーーーン!」の意味はよくわからないが、その瞬間、二人の間に暖かい心の交流があったことは、マスモトも理解していた。
「はい。実際のところ、僕にはあまり『友達』と呼べるものがなかったので、よくわからないです、、、。」
ヒデミネは正直に答えた。
「そうですか、、、。ならば今日最後のレクチャーです。『友達』とは、、。」
「『友達』とは、、?」
「アンディベータブルなものです。なぜ友達なのか、とか、友達とはなんだろうとか、どうして友達になったのか、とか、、そこを議論することに意味はありません。ただ、『友達』という結果だけが、そこにあるのです。ハシモトくんが自転車で駆けつけ、君が謎の言葉を叫んだ時点で、『二人は良い友達である』という結果が確かに残ったのです。議論の余地なく。」
ディベートを愛するが故のマスモトの発言だったが、なぜかそのとき電光のように時間が気になってしまったため、ヒデミネは上の空だった。
「マスモト先輩、もう遅刻寸前です!」
「いそぎましょう。着替えの時間が要りますしね。」
マスモトの駆るドミンゴは猛スピードで夕闇の中へと消えた。
無事に組み合わせ抽選会が終わった翌日、いつものように部室に向かったマスモトであったが、部室のドアに、新しい唐草模様のチーフが上品なリボン結びでくくりつけてあることに気づき、短い歓喜の声を上げた。
(やっぱりこれも、ハナコさんでしょうかね、、。どうして、わたしが後輩のためにチーフを犠牲にしかけたことを知っているのでしょう?あの方はほんとになんでもご存知ですね、、。それとも、わたしのことがそんなに気になるのでしょうか、、?)
胸元に飾った破れかけのチーフにふと目をやるマスモト。どこかで、誰か、恐らくは自分の大切な人が、自分のことを見てくれている。そのことが彼に新たな自信を与えた。胸を張り、部室のドアを開ける。
・・もちろん、ヒデミネのやったことだ。
だが、この先、ヒデミネが名乗り出ることはない。「友達」がアンディベータブルなもので、過程はともかく結果としてそこに存在するという性質をもつならば、「恋人」も恐らくそうであろうと彼の優秀な頭脳が演繹したからだ。何かのきっかけになりますように。優しいマスモト先輩に幸あれ。
口笛を吹いて廊下を歩くヒデミネに、走り寄ってきたユウカが話しかけた。
「ヒデミネくん、昨日はどうやったん??」
いつもより、かわいい笑顔じゃないか、とヒデミネは思った。
「ハシモト氏」のほうは、その日尻から熱を出して大事な部活をサボってしまい、同じく尻の痛みを抱えながらも部に顔を出した「アマハネさん」に後日罵倒される羽目になった。
(第6章 了)
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