探偵討議部へようこそ⑥ #9
前回までのあらすじ
ついにドミンゴを捕らえたロダンの自転車。ハシモーはヒデモーにベルトと靴を渡すことに成功した。
ほっとしたのはその瞬間だけだった。いつの間にか、今度は後ろから黄色い自動車が赤い回転灯を回しながら追いかけてくる。道路パトロールカーだ。
「あらら、悪い事はできないものだねえ、、。もうみつかっちゃったか。」
他人事のように語るロダン先輩。
しかし、黄色い車はみるみる大きくなってきている。ここまで死力を尽くしたロダン先輩には、もはやアレから逃げ切るだけの余力は残されていないだろう、、。
「あれに捕まると、罰金だけじゃなく、自転車安全講習も受けないといけなくなるねえ、、。」
ここだけの話、絶対先輩は安全講習を受けた方がいいと思った。
「ハシモーくん。自転車から降りて。」
観念したのか、路肩に自転車を止めて、ロダン先輩がいう。これは素直にお縄を受けるおつもりか。それも致し方あるまいと思った矢先、、。
「ふんぬ!」
今まで以上の気合を込めて、ロダン先輩は右手に自転車、左手に僕を抱え込んだ。そのままガードレールを飛び越えて、路肩の土手に着地する。間髪入れず、目の前の林の中に全速力で駆け出した。
道無き道をロダン先輩は無言で走る。枝が、木の葉が容赦なく僕の顔面に打ち付けられる。まるで太古の原人の獲物になってしまったかのような心境だ。どこまで連れて行かれるのであろうか、、。
1kmほどは走っただろうか。実際のところ、僕は運ばれただけだが。僕たちはようやく平地に出て、ロダン先輩もさすがにその場に倒れ伏した。二人とも葉っぱやホコリだらけだ。荒い息をついている。先輩のTシャツもボロボロだ。
「ロダン先輩、、。どうしてこうまでして助けてくれたのですか?ヒデモーのズボンなんか、先輩には関係ないじゃないですか。」
僕は先程来の疑問を口にする。
「どうしてって、、、言ったら失礼だけど、僕の自転車の方が早いじゃない?」
ロダン先輩はキョトンとしている。
その一言でわかった。ロダン先輩にとって、「困っている人を助ける」、ということはごく当たり前で疑問を差し挟む余地がないことだってことを。僕の質問は「なぜそんなに人に優しいのですか?」に近いのだが、それは生与のもの、としか言いようがない。
僕は続けて、前から聞いてみたいと思っていたことを聞いてみた。
「ロダン先輩、、。どうして探偵討議部にいらっしゃるんですか?」
これは後から考えたらずいぶん失礼な質問だったと思う。でも、探偵の「人の秘密を探る」とか、「人を出し抜く」とかいうイメージが、どうしてもロダン先輩にはそぐわない気がして、いつか聞いてみたいと思っていた。この機会が一番、自然に聞くことができたのだ。
ロダン先輩は笑い出した。
「あははは。確かに僕はシューリンガンやデストロイみたいに頭が切れないもんねえ、、。」
「いや、そういう意味ではなくて、、。」
「いいんだよ、ハシモーくん。僕自身がよくわかってることだしね。でもね、例えば『大学に入って、4年間好きなことをしてもいいよ。』と言われたとするやん。そのとき、『自分が得意なこと』を磨きたいと思う人と、『自分がやったことないこと』にチャレンジしたいと思う人に分かれると思うんだよね。せっかくだから、僕はやった事ない事、自分とは縁遠いことに飛び込んでみたかったんよ。それに、、、。」
「それに?」
「探偵って、困った人を助けるのも仕事でしょ?」
そうか、ロダン先輩には、「探偵」というものが僕とは違う風に見えているんだ。どちらが正解、というわけではない。それは一人一人の世界の見方、の問題。ロダン先輩の見る風景にはどこどこまでも明るい太陽の日差しがさしているようだ。
「探偵討議部のメンバー、とても個性的だけど、僕は大好きなんよ。一緒にいると、毎日が楽しいもんね。」
最後にロダン先輩はこう締めくくった。その回答に、何を付け加えることができるだろうか。大学生活の1日をどう過ごすか、を考えるとき、結局は、それがすべてで、それに勝るものなどないのだ。
日は傾き始めている。西日の中のロダン先輩は、とても眩しく輝いて見える。この後また自転車の荷台で大学まで帰る、ということを考えさえしなければ、満足のいく冒険だった。
(続く)
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