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探偵討議部へようこそ⑥  #8

前回までのあらすじ
ロダン先輩の駆る暴走自転車は、ついに<リッキー>マスモト・リキの運転する車、スバル・ドミンゴを捕らえた。しかし、無常にもドミンゴはインターチェンジを越え、高速走行に入るのであった。

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ドミンゴは目の前だ。目の前なのにどうしても追いつけない。ロダン先輩も言葉少なになってきている。何をしてるんだリッキー先輩は、ヒデモーは!くだらないディベート談義でもしているのだろうか。そんな暇があるならバックミラーをみてくれ。僕たちの疾走に気づいてくれ!

無情にも速度を緩める気配のないドミンゴ。その後部に貼られているやたらファンシーなたこ焼きステッカーにイライラさせられる。
そのとき、、、。

「あ!ロダン先輩!!あれ!!」

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ネクスポ西日本の高速道路管制室に電話があったのは、その少し前の事である。男性の声で、「東インターに自転車の侵入がありました。周辺を走行の車に注意喚起をお願いします。ママチャリで、二人乗り。荷台に乗っている人物は、大きな座布団に座っています。非常にスピードをだしており、明らかな道路交通法違反で、危険です。」との詳細な通報。流れるように状況を説明している。

ママチャリで高速走行!?通報を受けた管理事務所のフジタは、半信半疑である。こういったいたずらの通報は連日のようにあるのだ。だが、対処しなければ、万が一のときに後で責任を問われてしまう。東インターチェンジ付近に設置してある監視カメラの映像を確認するが、それらしき自転車の姿は見えない。またいたずらか!

そう思った瞬間の事である。インターチェンジのゲート付近に向かって、通報されたのとそっくりのママチャリが猛スピードで向かう姿が目に入ったのは。これは危ない!違法に改造され、エンジンがついているようにしか思えない。なんというスピード!

そこからのフジタの行動は早かった。一連の対応を速やかに終えた勤勉なフジタは、一息ついて先程から頭に巡っている疑問を改めて反芻した。
(なぜ、あの自転車が高速道路に侵入する数分前に、予期したかのように通報できたのだろう、、?)

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ヒデミネが指差した先には高速道路の電光掲示板。そこに流れている文章は、

「東インター付近、自転車の侵入あり。運転注意!」

「なんですって!この辺じゃないですか!?自転車!?」

思わず減速し、あたりを確認するマスモト。

次の瞬間、「バン!」助手席側のガラスに巨大な手のひらが張り付いた。

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目の前に「東インター付近、自転車の侵入あり。運転注意!」の電光表示。リッキー先輩のドミンゴは、その表示を前にわずかに減速した。運転席でリッキー先輩は、何かを確認するかのように周りを見回している。その一時の減速を利用して、ついに僕たちはドミンゴの左側に躍り出る事に成功した。助手席に座るヒデモーの驚く顔が見える。そのとき。

「ふん!」

ロダン先輩は右手を離し、片手での走行に移ると、助手席のウインドウに離した右手をべったりつける。「バン!」と、どデカい手がガラス窓に張り付いてくるのにのけぞるヒデモー。なんか叫んでいるが、僕の耳には届かない。

「ぬわ!」

気合一閃、ロダン先輩は右手の力でウインドウをこじ開け始めた。サファリパークで猛獣に襲われた観客のようなヒデモーの顔。そのわずかな隙間、その顔に向けて、あらん限りの言葉で叫ぶ。

「ヒデモー!ベルトの配達だ!!窓を開けろ!」

その瞬間のヒデモーの顔は忘れられない。泣いてるのか笑っているのか、まだ恐怖しているのかわからない複雑な表情を浮かべたヒデモーは、それでも僕の声や姿に気付いたのか、助手席側の窓を開けた。

「ハシモーくん!頭陀袋を!」

ドミンゴと並走しながら立ち漕ぎのロダン先輩が叫ぶ。

頭陀袋ではなく、巾着です!

ヒデモーが不本意な名称で呼ばれた、というかのように叫ぶ。

元々は僧侶の托鉢のために首から下げやすい形状に作った袋のことだけど、今は紐がついてる運搬用の袋はのきなみそう呼ぶんだよ!

ロダン先輩のいらないレクチャーが入る。

英語ではsa,sack、もしくはca、car-ry、、carry-all bagですね!

関係ないのに運転席でリッキーさんまで叫んでいる。こんな時にも舌は回っていない。

僕は、その頭陀袋だか巾着だかわからないものを、ヒデモーが開けた助手席の窓めがけ、渾身の力で投げ込む。
「ヒデモー!かっこよく決めてこいよ!お前は次期エースなんだろ!!」

走り去るドミンゴの背中にそう叫んだ。ヒデモーがなにか喚いているが、それは聞こえない。いずれにせよ、ミッション・コンプリートだ。

(続く)

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