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探偵討議部へようこそ 八章 第十四話

第十四話 ハンサムな男、こんにちは。

 「カノン」のボリュームが小さくなり、会場は暗闇に包まれた。不意に流れ出す「スターウォーズ」。スポットライトが、インカムマイクをつけたアララギの日焼けした顔を浮かび上がらせる。憤怒の時間だ。

「今時、スターウォーズかよ!と思った者がいるだろう!君たちの人をバカにしたような魂の波動がちゃんと伝わっているぞ!『何かに向かって行動している人』を茶化したり、バカにしたりすることしかできない者が、この中にいるということだ!」

 その時、不意に最前列にいる男が挙手した。壇上から目をやると、それはとてつも無くハンサムな男。

 (私以上のハンサムは許さぬ。)

 アララギは唾を飲み、冷徹に言い放った。

「今は私が話す時間だ。手を下ろしたまえ。」

「すみません。」
 ハンサムな男は素直に手を下げ、引き下がるかに見えたが、ニコニコと続けた。

「あのぅ。センスいいと思いますよ!出てくるところ、めっちゃカッコ良かったです。僕、スターウォーズ大好きですぅ。それに、おっしゃる通り、何かに一生懸命な人を茶化したり、バカにしたりするのって良くないですよね。心に響きました!」

(……。どこにもこういう馬鹿はいるものだ。まさしく一生懸命なバカ。無駄に饒舌、無駄にハンサム。)

 アララギは鷹揚な笑みを浮かべた。

「名はなんだね?」

「コマ、、ドリー・泡尾です。」

 (駒鳥粟夫?大きな体に似合わぬ名前だな。)

「よろしい、駒鳥くん。私は『ライフ・アンジュレーション』代表、アララギ・イッシン。私たちのセミナーでは、凝り固まった君たちの魂を一度リセットし、可能性を開花させる。」

 ハンサムな男、「駒鳥」はハンサムな目をキラキラさせながら聞き入っている。

「さらに、少しずつ君たちの魂の波動を宇宙そのものの持つ波動と共鳴させ、幸せの方から君たちのほうに寄ってくるようにしていく。ほんの少しの秘密の魔法と、君たちの『自分を変えたい』という気持ちがあればそれができるのだ。私のやり方についてきさえすれば、その秘密を君たちと惜しみなく共有しよう。」

「それはどうも本当にありがとうございます。楽しみです!頑張ってついて行きます!」

 ハンサムな男、「駒鳥」が丁寧にお礼を述べた瞬間、大音量で「カノン」が流れ出し、アララギ・イッシンは光に包まれた。

 自信に満ちた表情のアララギは赤い唇から真っ白な歯を覗かせ、次のステップに移る。
「このセミナーを執り行うに当たり、まずは参加者の中からグループリーダー役を決めたいと思う。我こそは、思う者は起立したまえ。」

「駒鳥」がスックと立ち上がった。(フフン、想定内だ。プランB。)
 アララギは日焼けした顔に憤怒の表情を浮かべた。

「今立ち上がった駒鳥くん以外のもの!だから君たちはダメなんだ!ここに自分を変えるためにきたんじゃないのか!秘密を知りたくない者は、自分を変えたくないものはここにいても仕方がない。今すぐ荷物をまとめて帰れ!さあ、帰るんだ!!誰も君たちを止めはしない。」
 渾身の怒号に、会場は静まり返る。満足げにアララギは会場を見下ろした。だが、、。水を打ったような静寂の中、音もなく一本の手が上がる。「駒鳥」だ。再び発言を求めているようだ。

(こいつは恐れ知らずか、、。いや、空気が読めない輩かな。しかし、馬鹿だとしてもこのハンサムな男を手駒にできれば広告塔として使えるかもしれん。少し付き合ってやるとするか。)

「それに対して真っ先に立ち上がった駒鳥くん。君には見どころがある。だが、真っ先に名乗りを挙げたその気持ちの中に、『他の参加者を出し抜いてやろう』という気持ちはなかったかね?そういう君の心の波動が伝わっているのだが、、。」

「うーん。せっかく来たからには、と思ったんですけど、多少はそんな気持ちも混じってたかもしれませんね。どうして判るんですか?凄いですね!それより、先ほどから左目が充血しているみたいですけど、大丈夫ですかー?」
 「駒鳥」は、アララギのオッドアイを真っ直ぐに見つめ、心配そうにそう言った。

(続く)

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