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「インテリ校の番長」による進化的ゲーム理論

インテリ校にも番長はいる。いや、「いた」というのが正しい表現かもしれない。
今や「番長」という存在自体レアだからだ。ヤンキーでさえレアな昨今では、番長なんか激レアである。課金しても手に入れることは難しい。

かくも残念な現状ではあるが、かつてはインテリ高にも番長がいた。
彼らの行動原理は、基本的には「強きを助け、弱きを挫く」であり、古き良き「番長」のそれとは異なっている。しかしながら、この「古き良き番長」、つまり、「弱きを助け、強気を挫く」番長は、「インテリ高の番長」よりさらにレアな存在であり、漫画の中以外の場所に存在したのかどうかすら怪しいから仕方ないのかも知れない。

だが、「インテリ校の番長」の行動原理は精緻なロジックに裏付けされたものなのである。
幸いにして、彼の理念を端的に示す会話記録が残っているから、ここに記しておこう。

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「おい、腹減ったな。焼きそばパン買ってこい。」

「番長。残念ですが、今手持ちがありません。」

「お前は不良だろうが!カツアゲでもなんでもして、焼きそばパン買ってこい。」

「了解です。」

「いいか。ガリ勉を狙えよ。ガリ勉は体を鍛える暇を惜しんで勉強しているから、腕っぷしに難があるお前でもカツアゲできる。強気で行け。」

「了解です。しかし、見ただけではガリ勉かどうかわかりません。」

「相手がメガネをかけているかどうかで判断しろ。メガネをしている奴は、たいてい勉強をしている。つまり、ガリ勉だ。覚えておけ。メガネの厚みと筋力は逆相関するんだ。」

うーん、ロジック!さすがはインテリ集団、「マダ高」を束ねる男である。
しかし、、。

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「ば、ば、番長!」

「どうした。」

「大変なことになりました。こないだカツアゲしたメガネ、隣の「ヤン高」の番長の弟でした!向こうの番長が怒って乗り込んでくるそうです。こちらから打って出ますか!?」

「ばかなことを言うな。お前は進化的ゲーム理論を知らんのか?

「なんですか?それは?」

「番長は強い。番長同志が戦った場合には、お互いのメンツがあるから互いに引き下がらない。ここまでいいか?」

「はい」

「番長同士が戦った時、勝利の確率50%、勝利したときに得られる利得が20ポイント、負傷のコストは−80ポイントだったとする。番長はどちらかが怪我するまで引き下がらないから、一回の戦いで得られるポイントの期待値は−30ポイントだ。従って、番長同士が戦うのは損にしかならない。」

「なるほど。」

「下っ端は弱い。従って、窮地で下っ端の取りうる戦略は『逃亡』だ。ゆえに、負傷しそうになった場合は逃げてしまうものとする。戦いで負けても負傷はしないわけだから、ポイントを失わない。番長と下っ端が戦った場合、番長は勝ち、20ポイントを得る。下っ端はポイントが変化しない。」

「難しくなってきましたね。」

「下っ端と下っ端が戦った場合には、勝利の確率50%、ゆえに一回の勝負で得られる利得の期待値は10ポイントだ。」

「わからなくなってきました。」

「仕方ない。マトリックスを書いてやろう。」

無題104 (2)

「字が汚いですね。下っ端の『ぱ』くらい漢字で書いてください。」

「ええいうるさい。これでわかったろう。番長同士は戦ってはならない。番長は下っ端を狙うが吉。下っ端同士が争うのは構わない。」

「なんとなくわかりました。」

「ちなみにだが、世の中の全てが番長、と言う世界があったとしたら、常に平均−30ポイントの利得を得ることになるので、番長は絶滅する。逆に、全てが下っ端なら、下っ端は常に平均10ポイントの利得を得ることになるため、下っ端は栄える。しかしながら、この下っ端の集団の中に一人でも番長ができると、番長無双状態、下っ端狩り放題となる。このマトリックスでちょうど均衡が取れるのは、番長が全体の1/4の時だ。」

「番長多いですね。」

適切な番長の数は、得られる利得によって変わるのだ。今回のこの説明は、あくまで一つのモデルケースと考えれば良い。ともかく、だ、番長同士は争ってはならない。お前が行って、怪我しそうになったら逃げて来い。」

かくも厳密なロジックによって、インテリ高、「マダ高」の番長は自らを律している。
しかし、ロジックの権化たる彼も、このゲーム理論の根底を揺るがす誤謬があることには気づかなかった。
「マダ高」番長と「ヤン高」番長が戦った時、勝利の確率50%な訳が無い、と言うことに。

(了)

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