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保護命令は「生命に係る暴力や脅迫」の有無を証明するものではない。

法制審議会家族法制部会第13回会議(令和4年3月29日開催)
議事録(TXT版 PDF版

「東京家裁の細矢でございます。それでは、私から御説明させていただきます。 まず、裁判所においてDVを受けたという主張がされる典型的な事件類型としましては、地方裁判所が取り扱う配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(いわゆるDV防止法)に基づく保護命令申立事件がございます。ここではDVの有無等や生命・身体に対する重大な危害のおそれ等が直接の審理対象となっております。・・・DVの主張が明確にされていないものの、当事者の振る舞いや言動、資料等からDVが疑われる場合には、手続のどの段階においても優先的かつ慎重な検討等がされていると思います。…DVの主張が明確にされていなくても…DVという事柄の性質上、密室内での出来事である場合が多く、的確な証拠がない場合も少なくないことから、最終的には、諸事情を総合的に考慮した上で、それぞれの事案における判断に必要な限度において適切な認定、評価等をすることになると思います(法制審議会家族法制部会第13回会議(令和4年3月29日開催)議事録29~31頁)。」

 とあるように、配偶者暴力支援センターまたは警察に相談、援助、保護を求めた事実さえあれば、その客観的証拠が審理の主軸となり執行されることが少なくなく、保護命令の執行は「生命に係る暴力や脅迫」の有無を証明するものではありません。

 以下省略なし

 東京家裁の細矢でございます。それでは、私から御説明させていただきます。 まず、裁判所においてDVを受けたという主張がされる典型的な事件類型としましては、地方裁判所が取り扱う配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(いわゆるDV防止法)に基づく保護命令申立事件がございます。ここではDVの有無等や生命・身体に対する重大な危害のおそれ等が直接の審理対象となっております。 - 29 他方で、家庭裁判所が取り扱う家事事件や人訴事件におきましては、例えば、離婚事件や子の監護に関する事件等においてDVに関する主張がされることがございます。なお、家事事件、人訴事件でいうDVには、身体的なDVだけではなく、心理的・精神的DVも含まれます。 DVは当事者や子の安全や安心等に密接に関わる事情ですので、DVに関する主張がされた場合のほか、DVの主張が明確にされていないものの、当事者の振る舞いや言動、資料等からDVが疑われる場合には、手続のどの段階においても優先的かつ慎重な検討等がされていると思います。なお、事件類型に応じて、当該事件の主要な論点との関係におきまして、DVの評価、位置付けの在り方は異なり得ると思います。 例えば、面会交流事件におきましては、既に本部会においても御説明差し上げたとおり、家庭裁判所におきましては、子の利益を最も優先して考慮しており、その際に、特に安全については、どの段階においても最優先に考慮するようにしております。DVの主張がされた場合でなく、先ほど申し上げたようにDVの主張が明確にされていなくても、当事者の振る舞いや言動、資料等からDVが疑われる場合には、同居親及び子の安全を最優先に考慮するとの観点から、お子さん自身への暴力も含め、同居親に対するDVの有無、態様や頻度、けがや精神的ダメージの有無、程度、通院の状況、日常生活や職場での影響の有無、紛争の背景及び実情、父母の関係性や子との関係性、DVが子の面前で行われたかどうか、子のDVについての認識の程度、DVの子への影響の有無、程度等の具体的な事情、さらには飲酒や薬物服用の有無、精神疾患の有無等といった周辺事情をきめ細かに確認し、DVによる同居親及び子への具体的影響を検討し、DVの再発リスクについてアセスメントすることになります。 このようなアセスメントを行うに当たって必要がある場合には、家庭裁判所調査官において、子の利益を最優先に考慮するとの観点から、子を含む当事者の意向や心情、子の生活状況、子の心身の状況を調査したり、児童相談所や学校等の関係機関への調査などを行ったりすることもございます。また、身体的暴力以外には目を向けないということはなく、心理的・情緒的虐待についても考慮すべきであると考えられています。そして、その際には、虐待者から被虐待者への心理的支配の有無や程度等について慎重に判断し、子への具体的影響について検討することになると考えられます。なお、裁判所は、家庭裁判所調査官による調査結果を検討する際は、家庭裁判所調査官と同一の立場ではなく別個の立場において、調査の経緯、方法、内容等についても慎重に吟味した上で、他の主張や資料等を総合考慮することが求められていると考えています。 一般論として申し上げますと、子の健全な成長という観点からは、いずれの親との間でも適切な形で交流が継続することが望ましいと考えられるところですけれども、今述べたようなDVのアセスメントの結果次第では、面会交流を認めることがかえって子の利益に反する事案もあり得ると思います。家庭裁判所におきましては、ニュートラル・フラットな立場に立った上で、面会交流を行わないことも含め、親子間の面会交流の在り方について適切に判断するようにしています。なお、この点に係る判断は、当事者主義的アプローチによってされるものではございませんので、同居親がDVの存在について主張立証に成功しない限り面会交流を実施しなければならないという方向で調停運営や審理を進めることはございません。 - 30 以上が面会交流事件においてDVの主張があった場合の一般的な考え方となりますが、他にも、例えば子の引渡し事件においては、子を連れて行った親が他方の親からDVを受けていたと主張している場合などに、子を連れて別居を開始したことがやむを得ないものであったと評価できるのかといった観点から検討されることや、子を連れて行った親がDVをしていたということを他方の親が主張している場合などに、そのような親を監護者と指定するのが適切かどうかといった観点から検討されることがあると思います。 また、夫婦関係調整事件、いわゆる離婚調停事件においては、DVは離婚原因や慰謝料に関係するものとして検討されることがあると思います。 いずれの手続におきましても、家庭裁判所においては、被害を受けたと主張する者の主張のみに基づいてDVの有無や程度を認定することはなく、証拠資料を精査するとともに、相手方にも十分な反論や反証の機会を設けた上で、適切に認定、判断するようにしております。もっとも、DVという事柄の性質上、密室内での出来事である場合が多く、的確な証拠がない場合も少なくないことから、最終的には、諸事情を総合的に考慮した上で、それぞれの事案における判断に必要な限度において適切な認定、評価等をすることになると思います。 なお、これらの検討の結果、DVがあったとまでは積極的に認められないという場合におきましても、その疑いが残るというような場合には、例えば面会交流事件におきましては、直ちに何らの制限なく直接交流を認めるのではなく、お子さんや同居親の安心・安全や面会交流の円滑かつ安定的な実施という観点から、第三者機関の立会いを必要としたり、リモートによる間接交流から開始するなど、一定の条件を付した上での面会交流を認めるなどの配慮をする例も多いと思います。 それでは、次に審理運営上の配慮についても御説明させていただきます。 DVが主張されている事案におきましては、手続における当事者及び関係者の安全・安心の確保にも細心の注意を払うようにしております。具体的には、DVの被害を受けたと主張する側から、住所等の秘匿の上申が出された事案におきましては、調停委員会を含む裁判所全体において、相手方にその方の住所が知られることのないように慎重に配慮しております。このような配慮は、審理運営上の配慮として行われるものであって、DVの事実の存在を認めるかどうかについての結論とは必ずしもリンクしていないということに御留意いただければと思います。 また、調停・審判・訴訟期日におきましても、DV被害を主張する方の心情や安全を守るため、期日の呼出時刻や待合室、退庁時の順番、経路などについても慎重に配慮しております。さらに、DV事案について、電話会議の利用を促進することも実践しておりまして、今後はウェブ会議を活用した調停進行も考えられると思っております。 裁判所における配慮には手続の適正との関係や、物理的な制約等の限界もございますけれども、事前に配慮を求める事項を御連絡いただければ、家庭裁判所におきましても事前に体制を検討し、対応したいと思いますので、是非御遠慮なくお申し出いただきたいと思います。 最後に、裁判官等の研さんについても御説明させていただきます。 今述べました審理運営上の配慮のほか、裁判所では、例えば司法研修所や、裁判所の職員総合研修所の集合研修として、犯罪被害者に関する研究者かつ臨床医である外部講師を- 31 お招きし、DV被害を受けた方の心理状態や、DV被害の訴えが医学的にどのようにアセスメントされているか等を内容とする講演を実施いただくなど、広く裁判官や家庭裁判所調査官等の関係職員がDV被害について必要な知見を身に付けられるよう、必要な研修等を実施しております。この他にも、各家庭裁判所独自の取組としまして、同様の講演会や勉強会等を実施しているという例もあると承知しております。 家裁がDVの問題をどのように扱っているのかに関する私からの説明は、以上とさせていただきます。

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子どもの権利条約に反する行政の行使が横行している。 北欧に比べればアジアは人権後進国である。 子どもに優しくない日本を変える事が出来るのか…

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