見出し画像

苦しみの中でより良い状態を保つためにレジリエンスを高める 2

現在行っているハーバルセラピスト講座でもお話ししたのですが、医療社会学における健康と病気に関しての考え方で「サルトジェネシス(Salutogenesis):健康生成論」という仮説があります。医療社会学者アーロン・アントノフスキーが提唱した考え方です。

それに対するのが「パソジェネシス(Pathogenesis):疾病生成論」です。

パソジェネシスでは、健康か病気の二極に分け、病気の原因を追求し、健康になるためにそれを取り除く、要するに病気を予防・治療するという西洋医学の考え方に代表されます。この場合、極端な言い方をすると「病気は不幸だから、原因を取り除いて健康になり幸福になる」と認識することもできます。

サルトジェネシスはそれとは別に、健康(ease)と健康破綻(Dis-ease)を一連のつながりとして見なし、その個人がどの地点にいてどの程度easeを実現できているのかという見方をする考えです。easeとは決して「病気でない」状態を指すのではなく、わかりやすく言えば「心身が楽な状態」のこと。より身体的・精神的なウェル・ビーイングを実現していくことにフォーカスした考え方です。例えば、生まれつきの障害があっても、慢性疾患や慢性の痛みがありながらも、全体的な秩序を保ち、相対的な健康を維持し、その個人がより良く、幸せに生きる状態を目指すことです。

極端で、ちょっと意地悪な言い方をしたら、病気がないからと言って心身が健康とは限らない、病気がないからといって幸せだとは限らない、とも言えます。

ホールパーソンを治療し、身体・心・精神のつながりを取り戻し、自己治癒力を働かせると言うナチュロパシーのホーリズムのコンサプトもサルトジェネシスに近いですが、ナチュロパシーでもある程度「自然治癒力を阻害しているものを除去する」と考えるのでその点はパソジェネシスですし、ただ、全体を見るときにサルトジェネシスの視点をより強く持っているかと思います。

サルトジェネシスではウェル・ビーイングを実現していくにあたりレジリエンスを高める必要があるとされます。レジリエンスとはストレスや負の出来事に対して向き合い、それを回復させる力、良い方向へ促す力を指します。

そのレジリエンス強化に必要なものが、ストレスに対するコーピングスキル(対処方)を持つこととや、首尾一貫感覚(sense of coherence:SOC)を持つことです。

SOCとは;
・有意味感(meaningfulness):不幸な経験に直面しても、その中にやりがいや意味を見つけ出し、自分の人生において挑戦し感情を投入して関わる価値を見出す能力
・処理可能感(manageability):困難が降りかかっても、人の助けを借りながらでも先に進める能力が自分には備わっている、なんとかなる、という感覚
・把握可能感(comprehensibility):自分の置かれている状態を一貫性のあるものとして理解し、将来起こりうることの予測ができ、それに対して準備をし、驚かず、裏切られることがあっても動じない感覚

サルトジェネシスやSOCについてはネットにたくさん情報が載っているので興味のある人は見てみてください。英語の本を読む意欲のある方はフリーで提供されている専門書をどうぞ。

SOCは要するに自分の状態を俯瞰して把握できている感覚かつ自分の状態を理解しコントロールできる自覚のようなもので、アントノフスキーはこの感覚自体は後天的に発達し、成人の早い段階で固定化する(おおよその土台の能力は決まる)と言っています。当然、その後、人生経験を積み重ねることでSOCは上がって行きますが、人生の後半に突然形成されるものではありません。これは訓練によっても育てることができるものなので、若い人たちを育てる世代の人はこの点を意識して子育てや新人教育をされるとよいのかなと思います。

そして、慢性疾患や慢性の痛みを抱えて生きる人たち。

病気であること自体が不幸なことではない、障害自体が不幸なことではない、治らないと幸せになれないというわけでもない、という一番根本の点さえ整理ができていれば、SOCの感覚をより高く形成していくことは不可能ではないかと思います。

病気や痛みや障害を抱えながらも、幸福感を感じながら自分らしく生き生きと生きることは可能です。それこそがライフスタイルメディスンです。

具体的にどのようなことが可能か?については、その3で。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?