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「尿や血液一滴で癌が分かる検査」を闇雲に受けないほうがいい理由

こんにちは、Wellnessドクターチームです。

先日、敏腕経営者である光本さんのTweetが話題になっていました。

近年、「尿やわずかな量の血液によって癌を早期発見できる」と謳う検査(いわゆるリキッドバイオプシー検査※)が多数出現し、多くの人々の期待を膨らませています。しかしこれらの検査を健康な人が予防のために受けるというのは、国の医療を破綻させる可能性があるとともに、無駄な不安や安心をもたらす可能性もあり、受けた人全体で見た場合にデメリットがメリットを上回ってしまう可能性があります。

(※)リキッドバイオプシー(Liquid biopsy)とは、主に癌の領域で内視鏡等を用いて腫瘍組織を直接採取する従来の生検(biopsy)と異なり、血液や尿などの体液サンプルを使って診断や治療効果の予測を行おうという技術。

最初に断っておきますが、この記事はこれらの新しい技術を否定するためのものではありません。実際、腫瘍マーカーのような病態推移評価など、いくつかの領域では実際に活用できると考えています。その上で今回は、これらの検査を安価に多くの健常者が受けることによって起こると予想される社会的問題、現状の検査精度の実際、健常者が受けたことで受けうるメリットやデメリットを事実に基づいて提示しつつ、「考える」ことを目的にしています。

あくまで検査というのは、「その結果を用いて何らかのアクションを起こす」ためにあります。検査を受けること自体に注目してしまいがちですが、受けた後にどのようなアクションが待っているか、全てのパターンを理解してから受けることが重要なのです。これは脳ドックなど、予防のために受けるあらゆる検査について言えることです。

それではリキッドバイオプシーを含む新しい検査と向き合う際の注意点について理解を深めましょう。

検査前確率が極めて重要である

-健康な若年者が闇雲に受けるのはやめた方がいい。

今回話題になった「尿一滴で癌の有無をチェックする」サービスにおいては、感度が85%、特異度が85%とされています。これは、癌がある人の85%が陽性と判定され(15%は見落とされ)、癌がない人の85%が陰性と判定される(15%は癌がないのに陽性と出てしまう)ということを意味しています。

例えば40代前半の男性では、10万人あたり約100人が癌に罹患します(厚労省データ)。つまり、およそ1000人に1人(0.1%)です。

1万人の40代男性がこの検査を受けることになったとしましょう。この時、実際に癌に罹患している人は1万人×0.1%=10人です。感度85%なので、この10人のうち8-9人は癌が見つかります(1-2人は見逃されます)。また特異度85%なので、9990人の癌がない人のうち9990×15%≒1500人は、実際は癌がないにも関わらず検査で「陽性」と判断されます。

特に癌のリスクが高くなく自覚症状もない若年健常者がこの検査を闇雲に受けるとどうなるかというと、「実はあった癌が見つかりhappyになる人」の100倍以上の人が、「実際には癌がないにも関わらず癌検査で陽性と言われ、全身の検査を受けさせられても勿論見つからず、一生不安を抱えていきていく」リスクがあるということです。

癌検査で陽性です。身体のどこかに癌があります。」と言われたことを想像してみてください。すごく恐ろしいと思いますし、当然不安で仕事のパフォーマンスは落ちませんか?何としてもたくさん検査を受けて、見つけ出したいと思いませんか?それでも、どんなに調べても、癌は見つかりません(だって本当にないわけですから)。そんな状況が多くの人に起こるわけです(40代前半の男性ではおよそ6-7人に1人がこの状況に陥ることになります)。

勿論、癌のリスクが明らかに高い基礎疾患を持つ人や高齢層に対してこの検査を適用した場合は事情が異なります(気になる方は検査前確率を変えて、是非ご自身で計算してみてください)。覚えておくべきなのは、検査前確率(検査を受ける人が病気である確率)が極めて重要であるということです。健康な若年者に対してこのようなスクリーニング検査を推奨することは、いい面を悪い面が上回ってしまう可能性があるんですね。

結果的に医療費の破綻が加速する可能性がある

-偽陽性の精査に保険を適用していては国の財源がもたない。

健常な個人が誤って陽性と判断されることで不安を抱え続けることになるリスクについて前述しましたが、このような検査が拡充していくと、社会的にも大きな問題になります。なぜなら、リキッドバイオプシー検査で陽性になった人たちは必ず精査(癌がどこにあるか調べるための検査)を受けることになるからです。この財源を国が負担するとなれば、間違いなく社会保障費は破綻するでしょう。

厳しい言い方をすれば、自由意志に基づいて信頼度の確立していない検査を自ら選んで受けたゆえに「無駄な不安(実際には癌がないのに陽性)」を抱え、その不安を解消するために国の財源を使って検査を進めるという構図が出来上がります。勿論、本当に一部の人が実際にそれによって恩恵を受けますが、ほとんどは無駄なコストになってしまうため、国民全体の税金を使う価値があるかは慎重に判断しなければなりません。

では自由診療にすればいいという話になるわけですが、実際にない癌を探す検査を全てやっていては相当な経済的負担が生じます。さらに、仮に考えうる全ての検査をやって癌が見つからなかったとしても、「偽陽性でしたね(癌はないようですね)」とは言い切れません。100%の検査というのは存在しないからです。結果的にこの人たちは一生、「癌があるかもしれない」という不安を抱えて生きていくことになるわけです。

検査を受けるということは、このような知られざるリスクを秘めているということを知っておきましょう。

医療発展の時代だからこそ、頼れる医師の存在が必要

-自分の状況に合ったサービスを取捨選択しなければならない。

予防医療・ヘルスケア領域の市場は年々拡大しており、おそらくこれからも多くの企業が新しく画期的な検査や、健康状態を高めるためのSolutionの開発に尽力することと思われます。しかし今回のエピソードにあるように、ある人たちにとって有用な検査や健康行動が必ずしも全ての人にとって良い選択肢ではないということは覚えておくべきです。

しかし、自分に合った検査や健康行動を取捨選択するためには、広範な知識が必要になります。そして必要な知識レベルは、医療発展の時代だからこそどんどん上がっていっています。

そんな時に頼れる医師(かかりつけ医・パーソナルドクター)を持っておくと、過不足なく合理的な意思決定を行うことができるようになります。一人で判断をする場合にも、「友人が勧めているから」という理由で安易に検査や新しいSolutionに飛びつくのはやめて、「本当にそうなの?」と疑う姿勢を常に持つようにしましょう。

さて、今回はリキッドバイオプシーに関するお話を起点に、検査を受ける際の注意点について確認しました。3つのポイントを押さえましょう。

*検査はその精度と同じくらい検査前確率が重要であり、若くて健康な人(検査前確率が低い人)が闇雲に新しい検査を受けることはデメリットの方が大きい可能性もある。
*検査はその結果を活かしてのアクションにこそ意味があるので、受けた後の結果によって次どうなるかを理解した状態で受ける必要がある。
*どんどん新しい検査法や健康食品が出てくる時代だからこそ、リテラシーを高めることが大切。その手段の1つとして、頼れるパーソナルドクターを持つことも有用。

正しい知識に基づいて合理的な判断のもと予防をしていきたいという方は、ぜひWellness Membershipもご検討ください。
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