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Kyoto Creative Assemblage: Feb.

受講中の「Kyoto Creative Assemblage(京都クリエイティブ・アッサンブラージュ)」について、2月度(講義最終月のため3週分)の講義内容に関する感想などを綴りました。

2月度講義の流れ

  • 2/3 オンライン:Part2-2 最終課題共有

  • 2/10 オンライン:Part2-3「Design of Business Ecology」講義(Business Ecology、Stakeholder/Purpose/Mission、Multiscalar Design Strategy)

  • 2/16-17 対面:Part2-3 グループワーク

2/3 Part2-2「Design for Multi-Species & Deep Care」最終日

2/3(金)に実施されたリアルタイムセッションは、Part2-2の最終日。毎週、さまざまな課題に取り組んできました。“非人間フィールドワーク”にはじまり、割り振られた領域の“非人間を含む拡張ステークホルダーマップ作成”、対象は自由設定の“毎日のケア実践”、リアルタイムセッション中の“マルチスピーシーズ討論会(LARP)のためのキャラクターシートづくり”、そして最後は“Deep Careを想起させるサービス/プロダクト・事業・エコシステム案”。1月度の記事で背景などを紹介した通り、Multi-SpeciesとDeep Careを巡るテーマが続きました。
Part2-2の講義が終わりケアを完全に理解したということもなく、また課題の感想共有の中で「ケアを続けることはつらい」という趣旨の会話が多かったことも印象的で、ケアとはなんだろうかと考える週末を過ごしていました。そして、ケアと関連づけて思い出したのが、エーリッヒ・フロム『愛するということ』でした。有名な本なので、手に取った経験のある方も多いのではないでしょうか。下記は約3年半前の私が、鈴木晶による新訳版に残していた読書用付箋をたどっての引用です。

「生きることが技術であるのと同じく、愛は技術である」(p17)
「愛の能動的性質を示しているのは、与えるという要素だけではない。……その要素とは、配慮、責任、尊重、知である」(p48)
「愛とは、特定の人間にたいする関係ではない。愛の一つの『対象』にたいしてではなく、世界全体にたいして人がどう関わるかを決定する態度、性格の方向性のことである」(p76)

以上の引用中の「愛」を「ケア」と置き換えても、収まりがよいように感じます。つまり、フロムのいう「愛」を参照して「ケア」を捉え直すことができるかもしれません(アプローチA)。他方で、フロムは愛が生まれる対象を明確に人間どうしに限定しています。例えば下記。

「生産的活動で得られる一体感は、人間どうしの一体感ではない。……完全な答えは、人間どうしの一体化、他者との融合、すなわち愛にある」(p37)

ここで、上記引用の前半部分が、Multi-Speciesも扱ってきたPart2-2と関連づけられそうだと感じました。該当箇所が指している内容は、以下の通りです。

「一体感を得る第三の方法は、創造的活動である。……どんな種類の創造的活動の場合も、創造する人間は素材と一体化する。素材は、彼の外にある世界の象徴である。……農民が穀物を育てる場合であれ、画家が絵を描く場合であれ、どんなタイプの創造的活動においても、働く者とその対象は一体となり、人間は創造の過程で世界と一体化する。ただし、このことがあてはまるのは、生産的な仕事、すなわち私が計画し、生産し、自分の眼で仕事の結果をみるような仕事のみである」(p36)

最後の引用からは、「ケア」という概念を持ち出さずとも、創造的活動/生産的な仕事を通じて、人間と非人間(世界)はよりよく協働できる可能性が示されているように感じました(アプローチB)。
より深く考えうる2つのアプローチを見いだすだけでいまの私には精一杯ですが、哲学的/倫理的なテーマだからこそ、焦らずじっくりと考えていきたいと思います。

2/10 オンライン:Part2-3「Design of Business Ecology」講義

Deep Care LabによるPart2-2に続き、RE: PUBLICによるPart2-3が2月10日(金)から始まりました。2月17日(金)午後・18日(土)終日で対面講義が実施され、この2日間で講義本編は終了。そして3月11日(土)の全体振り返りをもってプログラム終了となる予定です。
さて、RE: PUBLICパートのタイトルに含まれる「Business Ecology」とは何なのか。その概念について、RE: PUBLIC田村大さんはBusiness Modelとの対比で説明されました。

・Business Modelとは、事業者と顧客のあいだで、GainとPainを背景に、事業者がプロダクトやサービスを提案し、顧客が対価を支払う
Business Ecologyとは、多様な参加者(市民・行政・事業者・NPOほか)が、Problemsを背景に、各参加者が場やシステムに参加し、それぞれがそれぞれのベネフィットを持ち帰る(この状態が自律的に継続する=Ecology/生態系)

Business Ecologyと合わせて「Multiscalar Design Strategy(リンク先PDF p18)」が紹介されました。縦軸はPersonからPlanetという空間軸、横軸は過去から未来という時間軸で示される概念図ですが、この図での重要な示唆は過去/未来方向にいくほど空間軸のスケールが大きくなること。つまり、いま・ここの「Product or Intervention」が、どのような文脈に動機付けられたものなのか(Motivation contexts in time)、そしてこの先にどんな影響を与えうるのか(effects in time)、それらを大きな視座から(デザインリサーチを通じて)認識しようとする考え方です。
Business EcologyとMultiscalar Design Strategyを踏まえ、2日間の対面講義が実施されました。

2/16-17 対面:Part2-3「Design of Business Ecology」グループワーク

2月17日(金)午後・18日(土)終日の2日間で、京都工芸繊維大学に設立されたKYOTO Design Labを会場に対面講義がおこなわれました。なお、この金曜午後は、KCA講義期間のなかで唯一の平日日中の開催でした。
対面講義までの課題も含め、3-4名のグループで取り組んだBusiness Ecologyをめぐるデザインプロセスは、およそ下記の通りです。

・(社会課題を背景とし、)肩入れしたいステークホルダーを設定する
・そのステークホルダーに対して、自分たちのパーパス(Why)とミッション(What)、実践を想定する具体的なプレイスを設定する
・ミッションと、プレイスにあるリソース(環境・技術・資本など)を掛け合わせたアイデアを創出する
・ミッションとアイデアの実現に必要な、リソースとステークホルダーを列挙する
・各ステークホルダーの参加の仕方と得られるベネフィットを整理する
・Multiscalar Design Strategyを参照し、具体的なアイデアの先にある未来へのポジティブな影響を見据えてミッションを更新する
・Business Ecology Canvasでこれまでの要素を一覧化する

実際は行き来しながら内容を修正・調整していく、デザインらしい非線形のプロセスをたどりました。最後には、パーパス、ミッション、プレイス、アイデア、リソース、ステークホルダー・参加の仕方・ベネフィットを俯瞰することで、それらが成立しうるかを見つめ直すことになります。
前項でも紹介した通り、Business Ecologyの考え方の特徴は「多様な参加者が、Problemsを背景に、各参加者が場やシステムに参加し、それぞれがそれぞれのベネフィットを持ち帰る」ことでした。田村さんいわく、ここでいうベネフィットとは「主体の幸福を増進させる幅広い利得」の意味であり、「貨幣価値的な利得」を意味するプロフィットとは区別されています。つまり、アイデアの実現に不可欠な各ステークホルダーの立場や背景を理解し、ステークホルダーごとのベネフィットを破綻がないよう共存させることが求められます。この点は、「デザイン」の人間中心の考えや共感という姿勢を発展させたものといえるかもしれません。
他方で、田村さんが講義のなかで繰り返し強調されていたのは、「肩入れしたいステークホルダーの変化を軸に、つくりたい未来を描く」ことでした。“肩入れしたい”という言葉を、(お客様への価値を創出するという文脈のなかで)使ったことはあるでしょうか?私情がのった語感があり、論理性に重きを置いたビジネスの文脈においてはあまりふさわしくない印象を持つ方もいらっしゃるように思います。しかし、その私情がステークホルダーからも共感を得られるような性質のものであれば、むしろ何よりも力強い動機付けになるのかもしれません。“肩入れしたい”は、RE: PUBLICで長年取り組まれてきた実践知、結晶化された言葉のように個人的には受け止めました。

この2日間の対面講義をもって、Part2およびすべての講義が終了となりました。Part1はひとつの方法論で一貫した内容でしたが、Part2は3部構成でした。Part2としてどのような総体であったのか、さらにはアート演習まで含めてKyoto Creative Assemblageとはどのような総体であったのか。簡単に言い表すことはできませんが、もう少し潜り、なんとか言葉を手繰り寄せたいと思います。

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