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Kyoto Creative Assemblage: 「社会をよく見て、時代を表現する」方法論

Kyoto Creative Assemblageの前半にあたるPart1「社会をよく見て、時代を表現する」を通して、個人課題として取り組んできた方法論をまとめました。山内裕先生の趣旨/主張を正しく汲み取れていない可能性もありますので、あくまで一人の受講生が受け止めた内容とご理解ください(講義内容の写しではなく、個人解釈でのアレンジ・Tipsも多く含んでいます)。また、用語をできる限り使わずに書いてみましたが、方法論の背景は用語編時代背景編のなかでふれています(11/27:理論的枠組みのみ追記しました)。

方法論/ステップ

  • 社会をよく見る:ふりむかせたい人々を特定する、対象とする人々がふりむいている事象を集める、「星」を並べて「星座」をつくる、星座の背後にある「イデオロギー」を見いだす、「イデオロギーの星座」を完成させる

  • 時代を表現する:「自分」を定める、イデオロギーの星座に自分を投影する、「世界観」/「再定義した自分」を分厚く記述する、世界観をシーンで表現する、「アッサンブラージュ」した世界を開示する

  • 参考:理論的枠組み

社会をよく見る

方法論の前半では、「イデオロギーの星座をつくる」ことに取り組む。

1-1 ふりむかせたい人々を特定する

  • 年代などの属性、勤務先など準拠集団、それらの組み合わせなどによって、対象とする人々を決める。

  • 仮置きで構わないが、最終的には“どんな人にふりむいてほしいのか”という自身の思いを拠り所にして特定する。

1-2 対象とする人々がふりむいている事象を集める

  • たとえば、YouTubeなどの動画、映画、テレビ番組、雑誌、ブランド、店、有名人、スポーツ、趣味など。事象の粒度を気にする必要はないが、事象単独で情景が浮かぶことが好ましい。要は〇〇な感じ、〇〇っぽい、と言えることがひとつの目安になる。具体例を挙げるなら、「飲酒」ではなく「クラフトビール」、「落ちつく」ではなく「チル」など。

  • 自身の事業領域など特定の領域に留まらず、広く集めることを心がける。魅了されている事象だけでなく、拒否感をもっている事象も含めてよい。トレンド的なごく最近に現れた事象でなくても構わないが、現在もふりむいているといえるような事象を集めること。過去の分析を目的とするのであれば、90年代の事象など年代を限定して取り組んでもよい。

  • ソーシャルメディア、ウェブサイト、書籍から集めるだけでなく、簡単なインタビューを実施することも効果的である。事象に加えて、一緒に登場するモノやハッシュタグなどもメモしておくとよい。

  • ある事象を深く理解したいことが決まっているなら、それを起点に事象を探してもよい。その際、単なる要素分解にならないよう注意しつつ、事象の“感じ”を手掛かりにして関連しそうな別の事象を探すこと。

  • 対象とする人々を特定する前に、事象集めから始めてもよい(いつの間にか話題になっていることを探すなど)。

  • 事象を余すことなく集めることは不可能である。また、どの事象を集めるかにおいて自身の判断が入ることに気を揉む必要はない。

1-3 「星」を並べて「星座」をつくる

  • 個々の事象が持つ“感じ”を意識しながら、近そうなものを横に並べ、矢印⇔でつなぐ。遠そうなものやアンチテーゼは点線の矢印でつなぐ。このつながり(事象の関係)を見ていくことが重要であり、見た目はあとで調整すればよい(見た目では離れている事象をつなげることも問題ない)。

  • 対象としている人々をイメージしながらつなぐことが重要である。もしここで手が詰まるようなら、対象とする人々と同じ時代に生きている自分自身に引き寄せてつないでみてもよい。

  • 他の方法論でブレインストーミングの直後に実施するような、事象のカテゴライズや軸を設定しての分類、解釈して別の何かに還元・抽象化する作業ではない。そういった方法論に慣れている人ほど注意が必要である。

  • 星座に中心はなく、閉じられてもおらず、正解もない。ある事象を深く理解することから始めて行き詰まってしまったなら、一度その事象を外してしまえばよい(その事象がなければ星座が成立しない、ということはない)。

1-4 星座の背後にある「イデオロギー」を見いだす

  • 並べられた「星」はどれもが具体的な事象だが、星と星を“感じ”でつないだ「星座」の背後には共通する観念、つまり「イデオロギー」が存在している。ひとつの星が複数の矢印でつながれている(複数の星座の一部となっている)なら、その星の背後には複数のイデオロギーが含まれている可能性がある。

  • 近くに並べた星であっても完全に重なることはなく、対置することによって星と星の差分をみることができる(“感じ”は似ているがこの要素が異なる、というようなもの)。つないだ矢印ごとにこの差分を見ていくことで、イデオロギーの輪郭が明らかになっていく。言い換えれば、個々の星の詳細を見たところでイデオロギー(の輪郭)は見えてこない。

  • 星座のなかに矛盾しているようなイデオロギーがあってもよい。また、アンチテーゼになっているイデオロギーを見出せれば、対象とした人々がなぜふりむいているのか/いないのかがより明確に理解できる。

1-5 「イデオロギーの星座」を完成させる

  • 前半のステップで可視化してきたものが、“(対象として特定した)人々がふりむいているイデオロギー群”を示す「イデオロギーの星座」である。

  • イデオロギーの星座は現在の時代表現であり、固定的/永続的なものではない。現在のイデオロギーの星座も、一世代前のそれから変遷してきたものであり、この先も変わりうる。

  • イデオロギーの星座づくりを(あくまで作業のうえで)完成したと見なすには、①対象とした人々がふりむくイデオロギーの全体像が見いだせたと自身が感じられること、もしくは②対象とした人々が特に強くふりむいている事象を特定し、その事象の背後にある複数のイデオロギーの輪郭がはっきりと見いだせたこと、このどちらかが目安となりうる(①を目指し、途中で②に路線変更することも問題ない)。

  • どちらにせよ、“イデオロギーの星座づくりを通して、自身が初めて発見できたことがある”といえるような感覚を得ているかが重要である。

時代を表現する

方法論の後半では、「世界をアッサンブラージュする=新しい世界観を表現する」ことに取り組む。

2-1 「自分」を定める

  • 会社・組織、ブランド、商品・サービスなど、再定義したいものを「自分」とする(方法論に取り組む本人ではない)。

  • この先のステップに取り組むにあたり、自分の“感じ”をあまりわかっていないなら、自分をひとつの星に見立てて星座をつくってみてもよい。

2-2 イデオロギーの星座に自分を投影する

  • イデオロギーの星座で可視化したそれぞれのイデオロギーを自分は持っているのか、さらには個々の星と自分がどう合っているのか/いないのかを見ていく。ある星と自分が完全に一致することはありえず、どのような差分があるのかを丁寧にみていく必要がある。その際の小さな違和感を言葉で書いていく。

  • 自分とどうしても合わない領域(星座の一部や、背後にあるイデオロギー)は棚に上げてもよい。放棄するのではなく、後で棚から下ろす可能性を残しておくこと。一見合わないと感じる領域と自分とを中継できるような星を探してみることも一手である。

2-3 「世界観」/「再定義した自分」を分厚く記述する

  • イデオロギーの星座(現在の時代表現)にそのまま自分を合わせていくようでは、誰も感動しない。時代に対して自分がどうありたいのかを考え抜きつつ、少し自分に引き寄せるような独自の動きによって時代表現をずらすことで、新しい時代を表現する。

  • 星座に自分を投影したなかで、特に議論が集中する部分に焦点をあて、自分はどうありたいのかを踏まえながら、どんな要素がそこにあるのかを分厚く記述していく。ちょうどいい端的な言葉をすぐに見つけようとせず、「〜のようだけど、〜の部分が違うが、かと言って〜にもしたくない」といったように。これが「世界観」の一表現となり、自分を「再定義」すること、いわば戦略へとなっていく。

  • 記述するなかで、矛盾したものも並列させることは問題ない。むしろ、すぐさま妥協して矛盾を解消しようとしないこと。

2-4 世界観をシーンで表現する

  • 分厚く記述したなかで出てきた要素が配置された、世界観が感じられる場面を「シーン」として描いていく。5W1Hの観点や、どんな雰囲気なのか、その情景を言葉で描く。説明的で箇条書きのような文章ではなく、人物の会話なども含む物語のような現在進行形の形式が好ましい。描いたシーンを自分自身が想像/脳内再生できるかどうかがひとつの目安になる。

  • シーンには「自分」が登場しなくてもよい。あくまで描くものは世界観であり、自分という要素がいなくとも成立する必要がある。

  • 最後にそのシーンにタイトルをつけてみる。そのタイトルも配置される要素のひとつであり、コピーやハッシュタグなどに展開しうる。内容の要約、シーンの前置き、ジャンルの名称、ひとつの要素でのシネクドキなど、さまざまなバリュエーションが考えられるが、人々を新しい状況へといざなうような言葉を加えること。

2-5 「アッサンブラージュ」した世界を開示する

  • 後半のステップを経て表現されたものが、“内部から既存の配置/秩序に亀裂を入れなんとか自分を表現することで生まれた新しいスタイルを持つ世界観”を示す「アッサンブラージュ」である。

  • この世界観を、自身が何を通して/どのように実現するのか(商品、店舗、サービス、ビジュアル、ブランド、コミュニティ、イベントなど)、そのプロトタイピングをしてみる(プロトタイピング自体は、実現にあたって協力を得たいステークホルダーをふりむかせるための手段である)。

  • プロトタイピングせずとも、世界観の分厚い記述や描いたシーンは、クリエイターや専門家に依頼する際のクリエイティブディレクションそのものにもなる。

  • このようにして新しい世界観を現実のものにし、時代を表現していく。

理論的枠組み

以下では、各用語がいかに構成されているかの骨格のみを取り出しているため、詳細は用語編を参照。

社会をよく見る:「イデオロギー」の「星座」をつくる

●イデオロギーとは
イデオロギー
 =社会を形づくるアイデア・観念
 =スタイルを示す世界観(イーグルトン)
 =文化的なもの(ホルト)
スタイル(スピノザら)
 =世界の認識の仕方(イーグルトン)
 =生活の様式
 =文化
 →人・物・行為に一貫した意味を与える(スピノザら)
世界
 =人を含む総体(スピノザら)
 →スタイルを持つ
つまり、イデオロギーとは、世界という総体に対してひとつの認識の仕方を示すもの
 →そのよびかけに人がふりむくことで主体化される(ジジェク)

●星座とは
星座(ベンヤミン)
 =星と星の関係性
 =イデオロギーの輪郭
  →その時代を表現する

 =ひとつの事象
 =イデオロギーの象徴(ジジェク)
  →時代により生み出される

時代を表現する:「イノベーション」を生み出す/「アッサンブラージュ」する/「歴史をつくる」

●イノベーションとは?(以下、ベンヤミン)
革命
 =過去への狙いを定めた跳躍
 =救済
 =(新たな)星座を浮かび上がらせ敗者に意味を与えること
過去
 =敗者
 =勝者/主流の歴史の流れに抗いかき消されているような現在の事象

●アッサンブラージュとは?(以下、ドゥルーズ/ガタリ)
アッサンブラージュ
 =異種混淆のフラットな集まり
  →総体としてスタイルを持つ=世界
アッサンブラージュのスタイル
 =内部からの解体と再構築によって生まれたもの
  →その行為=救済(ベンヤミン) 
解体
 =逃走
 =既存の配置/秩序に亀裂を入れること
再構築
 =なんとか自分を表現すること
つまり、アッサンブラージュとは、内部から既存の配置/秩序に亀裂を入れ、なんとか自分を表現することで生まれた、新しいスタイルを持つ世界
 →「世界観というのは、何かひとつのスタイルをもっているような世界の表現」(参照記事

●歴史をつくるとは?(以下、スピノザら)
歴史をつくる
 =新しいスタイルをもつ世界を開示する
  →人々の自分と物事を理解し扱う方法を変える

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