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保守派が占める最高裁判所

 アメリカの最高裁判所では近年、これまでのアメリカの価値観を一掃する様な判決が相次いで下されている。この背景にあるのが、トランプ政権時代に任命された3人の裁判官である。これにより、最高裁判所における保守派とリベラル派の比率は6:3になった。アメリカの世論を二分する様な話題に関して、保守派が歓迎する判決が多く出されているが、これもアメリカ分断の一つの象徴である。これから3つの事例を挙げて見ていく。

学費ローン免除無効

 6月30日、最高裁判所は2022年8月にバイデン政権が掲げた学費ローンの一部免除は無効であると判断した。9人の裁判官に対して賛成6反対3であった。金額が大きいことも要因の一つとされ、大統領の権限を超えていると判断した。対象となっていた学生ローンは4,300億ドルに上り、2,600万人が申請を出していたが、これらの人々は10月から再び返済を開始しなければならない。
 今回、提訴したのはアーカンソー州、アイオワ州、カンザス州、ミズーリ州、ネブラスカ州及びサウスカロライナ州であり、何も保守色の強い州であった。判決を受け共和党側は歓迎した。一方、民主党は道が閉ざされたと非難しているが、来年の大統領選で再選を目指すバイデン大統領にとっては痛手である。
 また、今回の判決は経済への影響を孕んでいる可能性がある。返済免除策により覚醒ローンの40%程度が免除される予定であったため、返済の再開は個人消費に影響を与える可能性がある。アメリカ経済は大幅な利上げに直面しており、多くのエコノミストが今回の判決は経済に目に見える形で表れると警告している。

アファーマティブアクション

 6月29日、最高裁判所は人種を考慮する大学入試は「法の下の平等に反する」として違憲判決を下した。今回対象となった大学入試はハーバード大学とノースカロライナ大学であった。これにより50年続いてきた制度が消える。
 アファーマティブアクションとは、「積極的な差別是正措置」と日本語訳される。差別を受けてきた人々の社会的地位向上を目的としてジョン・F・ケネディ大統領が始めて使用した言葉であるが、白人やアジア系から「逆差別」であると批判があった。ハーバード大学が今回提出した裁判資料の中で仮にこの制度が廃止されれば、黒人とヒスパニック系の入学者はそれぞれ6%,9%台になるとしている。
 バイデン政権は今回の最高裁判所の判断を非難すると共に関係省庁に対して人種の多様性を確保出来る様に対策を講じるように指示した。

人工妊娠中絶禁止

 2022年6月24日、最高裁判所は妊娠中絶禁止措置を認める判断を下した。これにより1973年に最高裁判所が中絶を「憲法で認められた女性の権利」であるとした「ロー対ウェイド判決」を覆す決定をした。既に13州で人工妊娠中絶を禁止しており、これらの州内で営業していた産婦人科病院のうちいくつかは閉院を決めた。 
 そもそも「ロー対ウェイド判決」とは当時、女性解放運動の総称であった「ウーマンリブ」により勝ち取ったものであった。1992年に合憲とした際の判決文には「女性が自分の生殖をコントロールする力によって、アメリカ経済と社会生活に平等に参加する能力も高まった」との文言が入っていた。
 アメリカは超格差社会である共に国土が広い。仮に人工妊娠中絶を禁止している州に居住している場合、中絶するためには他の州へ行かなくてはならない。自分の体に関する権利を制限する判決の影響は各所に表れている。

 この様に、最近の最高裁判所の判決は保守派が恩恵を受けやすくなっている。近年は、最高裁判所の構成は保守4、リベラル4、中道1であった。しかし、トランプ大統領による3人の保守派の裁判官の指名により、政治色が濃い判決が多く下される様になった。アメリカの最高裁判所の裁判官は終身制であるため、当分はこの傾向が続くだろう。

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