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Well-being 経営のカギは「SX」にあり

これまで、サステナブルな Well-being 経営がこれからの企業に不可欠だという話をさまざまな形で解説してきましたが、では、実際のところ何をすればよいのかというと、具体的なイメージはつきにくいかもしれません。
Well-being 経営が「絵に描いた餅」にならずサステナブルに展開するためにはどうしたらよいのでしょう。

その重要なキーワードとして今回取り上げたいのが「SX」すなわち「サステナビリティ・トランスフォーメーション」です。

サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)とは

サステナビリティ・トランスフォーメーション(以下「SX」といいます)は、経済産業省が2020年8月に「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」の中間とりまとめ報告の中で提唱した概念です。

この検討会は2019年11月に立ち上がりました。伊藤レポートや価値創造ガイダンスなどこれまで行われてきた議論の成果をふまえ、さらに感染症拡大による環境変化もふまえ、中長期の企業価値向上に関し、企業と投資家との実質的な対話の課題と解決の方向について議論を掘り下げています。

今回の中間報告は、検討会における企業と投資家の議論をもとにして整理した対話の実質化を図るための課題と解決の方向が3部構成で示されており、中間とはいえ相当なボリュームをもつ大レポートとなっています。

1)伊藤レポート公表後の現状認識
2)中長期の持続的な企業価値向上に対する問題の所在
3)問題解決の方向性

SXは、上記の3つめの段階で次のように言及されています。

第二章で示した企業と投資家の認識のギャップを解消するために、企業と投資家の間で、対話における長期の時間軸を共有することの必要性を提示しました。
特に昨今、新型コロナウイルスの感染拡大や気候変動の影響等、企業経営を取り巻く環境の不確実性が一段と増す中では、対話において前提としている時間軸を長期に引き延ばした上で、「企業のサステナビリティ」(企業の稼ぐ力の持続性)と「社会のサステナビリティ」(将来的な社会の姿や持続可能性)を同期化させる経営や対話、エンゲージメントを行っていくことが重要であるとし、こうした経営の在り方や対話の在り方を「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」と呼ぶこととしました。

(経済産業省「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」中間取りまとめを行いました」より。改行及び太字は筆者)

SX に注目すべき3つの理由

SX の内容を整理する前に、なぜこの言葉が登場したのか、その背景をみておきましょう。

急激な環境変化による不確実性の高まり
第4次産業革命による技術革新の社会実装が進むにつれ、従来の業種の境界があいまいとなり、同業者同士だけでなく異業種ものみこむ再編が拡大し、新たなサービスプラットフォームを創出する動きが加速しています。

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(図出典:経済産業省「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会中間取りまとめについて」より)


社会からのサステナビリティの要請
ESG投資ではS(社会)の要素の重要性が再認識され、サステナブル関連の比率が大幅に拡大しています。ミレニアル世代や Z 世代は SDGs ネイティブともいわれ、消費者だけでなく従業員も株主も、あらゆるステークホルダーが社会への貢献を実感できる要素を求めるようになっています。

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(図出典:経済産業省「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会中間取りまとめについて」より)


レジリエンスの必要の高まり
気候変動や激甚化する災害、感染症の拡大など、経済危機の発生が世界的規模で起こるようになっています。サプライチェーンまで目配りしたリスク対応やBCPなど、従来から指摘されてきた企業経営のレジリエンスの高さが問われています。

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(図出典:経済産業省「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会中間取りまとめについて」より)


SXは、企業と社会の持続性を両軸で強化する対話の力

前節で整理した背景からは、企業自身の稼ぐ力だけでなく、長期的な社会のサステナビリティを取り込み、想定外の状況にも柔軟に対応するレジリエンスを高めた経営が求められています。

(1) 「稼ぐ力」の持続化・強化
企業としての強みや競争優位性、ビジネスモデルといった「稼ぐ力」を中長期的に持続化・強化する、将来性を見据えた事業ポートフォリオ・マネジメントやイノベーションへの種植えに挑戦するなど、企業の持続可能性を高める姿勢が不可欠です。

(2) 社会のサステナビリティの経営への取り込み
世界の不確実性の高まりに備え、社会の将来的な社会の姿からの逆算で企業としての稼ぐ力の持続性や成長性を検討するとともに、中長期的なリスクと事業の好機とを把握し、具体的な経営に反映させていく必要があります。

(3) 長期の時間軸の対話によるレジリエンスの強化
不確実な社会の中での企業のサステナビリティを高めるため、常にシナリオ変更が求められる将来を念頭においたこまめなアップデートが必須です。
現在の成功体験に固執し続けることなく、(1) 企業視点と (2) 社会視点のサステナビリティの両観点をもって、企業と投資家が何度も対話を繰り返していくことで企業価値を高め、レジリエンスを強化していく「柔軟な能力変革」が求められているのです。

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(図出典:経済産業省「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会中間取りまとめについて」より)

ブランディングの時代は終わった

経済産業省の中間報告では、今後、このSXや「実質的な対話の要素」を普及させ、具体的なアクションに落とし込むための検討を進めるとしています。

観念的にサステナビリティや Well-being をうたう経営がブランディングになる時代は過ぎ去りました。
これからの企業は、「実質的な要素」をいかに社会全体のステークホルダーへ見せ、「対話」していくかが問われます。

企業としての存在意義(パーパス)を明示しつつ、中長期のプランニングが不可欠です。
計画には、企業としての体制、事業展開の際の判断基準や手法、開発・実装する技術やシステムの3要素を確かなものにしていく必要があります。

さらには、パーパスだけでなく不確実性の高まる社会における能力変革への姿勢を明示する意味においても、人的資本の戦略的な育成や、適時かつ柔軟なアップデートなどのマネジメントが重要となります。
投資家だけでなく、従業員や消費者などのあらゆるステークホルダーに対して積極的な対話を行うことが求められています。

DX は SX の文脈で語られるべき力

現在「トランスフォーメーション」というと、DX(デジタルトランスフォーメーション)の重要性に関する認識が高まっており、さまざまな取組みが強化されているところです。
DX は、AI や IoT、クラウドといったデジタル技術の革新により企業価値を創造するものです。一部では ICT や AI を導入しさえすれば DX だと誤解されていますが、技術の実装は目的ではなく手段であり、経営のあり方を根本的に革新させるという意味合いが重要となります。

これからは、DX の前に SX を重視する経営の革新が求められます。DX は、SX の観点から示される長期的な経営方針の中の短中期的な成果で競争優位性を確立するためのものといえるでしょう。
DX は、前節で示したプランニングの3要素(体制、判断基準、技術)のうちのひとつである技術部門を担う重大な軸です。ただ、不確実な社会のなかでサステナビリティを発揮するには長期的な視野が不可欠で、単純にDXへ置き換えていけば優位性を維持できるわけではありません。
パーパスとマネジメントを含め、ステークホルダーと対話しながら、企業と社会の両面からサステナビリティを求めていく SX をベースにした DX が求められているのです。

別の視点からみると、DX は、企業と社会のサステナビリティを追求する SX にとって不可欠な要素であるともいえます。SX が「戦略の要」とすれば、DX は「戦術の主要な柱」です。

今後かならずキーワードとして重要視されるであろうSX。VUCA、感染症、気候変動などの不確実性や AI 、IoTテクノロジーの発展など、企業の「稼ぐ力の」持続可能は日々難しくなっています。
そのような中で SX を確実なものとしていくためには状況に応じたビジネスピボットが不可欠であり、機動的に動くために企業の DX は必須といえるのです。

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