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パンフレットがカードキットになった話 デザインノート#2

デザインノートらしく、デザイン的なものを語りなよ、、とどこからか聞こえる謎の声のプレッシャーに対抗すべく(妄想?)今回こそ、今回こそ、TOKETAをデザインする思考の過程のようなものをお伝えしたいと思います。

私たちが販売している里親家庭の子どもたちのためのカードキット、
フォスタリングカードキット「TOKETA」はこちらから⇩

▽当初の仕様は「パンフレット」だった

里親制度については近年徐々に知られてきていますが、大人向けの情報が主で、子どもに向けたものありませんでした。
そんな中、里親家庭に迎えられる子どもが里親を理解できるように、子ども向けのパンフレットを制作するということでTOKETAのプロジェクトはスタートしました。しかし、制作に向け里親家庭に関わる様々な人へのお話を聞く中で、子どもに里親家庭や制度のことを知識として知らせることが今の里親家庭に必要とされていることではないことが徐々にわかってきます。

▽些細なことも言葉にできない状況の子どもたち

当事者にヒアリングした際、大人が想像する以上に子どもたちは、大人に気を遣っており、素直な言葉が出にくい状況がありました。
例えば、「カーテンを開けることに驚いた」とか「夜にトイレの水を流していいのか」とか、里親さんからすると当たり前だと思っていることに疑問に感じていたりします。
聞きたいけど聞けないというよりも、聞いていいのかどうかという迷いが子どもの中で膨らんでいる感じでしょうか。
また、大人側も「子どもたちのためにこうしなくてはいけない」という
気負いのような気持ちが、自然と子ども側にも伝わってしまい、お互いの対話を拒んでいるような状況も感じられました。

▽課題を顕在化し、最適なデザインを探る

ヒアリングから、里親家庭の課題は、子どもの知識や情報が足りないことではなく、関係性の中にあること、教科書的なパンフレットで一方的に情報を伝えることがプロジェクトのゴールではないことがわかりました。
では、どのようにデザインでこの里親家庭の中で発生しているわかりあう困難さを超えていくのか?

それは、困りごとを外在化する事で、互いに向き合う構造にすること。

「私が困っていることはこうですよ」と直接提示するのではなく、カードに書いてあることについて、お互い向き合う・一緒に考えることで、少し距離を置いて、これから解決する問題として共有する。
そのやり取り自体が困難さを解決することにつながるのではないかと。

また、向き合うためにはそのための土台作りや、共有した課題をどう解決していくのか、そのために相談先を確認したり、周りの資源を把握するプロセスも重要な過程です。
それら一連のプロセスをデザインとして落とし込み、実践していく、その最適解がカードキットでした。

3つのカードキットも必ず順番通り使う必要はありません。それぞれの状況に合わせて組み合わせたり、自由にプロセスを行き来したりしながら、使う人それぞれに合わせた使い方で活用してもらえたら嬉しいです。
セットで入っている子ども向けの「サポートブック」と大人向けの「支援者の手引き」の内容も、課題を解決するためのポイントが盛り込まれているのですが、長くなりそうなので、また別の機会に書くことにします(笑)

▽デザインする上で大事なこと

TOKETAを制作した田北は、TOKETAの研修の中でこのように話していました。

「デザインの仕事では、わかりやすさが求められることが多いのですが、分かりやすいということは、コントロールしやすいことでもあります。それは支援者が少し前のめりに「子どもたちにこんな風に思ってほしい」と、子どもの見方をコントロールすることにつながってしまう。
わかりやすさとコントロールについては、デザインを作る者として慎重になりたいと考えています。」

これは子どもだけでなく、自分と置かれた状況が違う「他者」と向き合う際に大事にしたいことでもあると私は感じました。
わかりあうことの困難さは、言葉ではなく、関係性の中にあるのではないか。
また、わかりあうことがゴールでもないし、分かり合えなくても、人と人の丸い円みたいなものが接したり、ちょっと重なる部分を見つけたりするその過程や、重ならなくても否定せず、ただ存在を認め合うこと自体が尊いものだなぁと思います。

TOKETAを使って語り合う時間から生まれる、空間の匂いや空気感、相手の表情を含んで、それをまるっと子どもが受け取り、記憶となること、それが関係性の醸成へとつながり、子どもと大人それぞれにとって意義のある時間になることを祈りつつ、私は今日もカードキットの梱包作業に励んでいます。