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路地裏の雑文集 vol.3 クラフトジンの季節がやってきた。

ネットやTVから洪水のように流れ出る感染症関連のネガティブなニュースとは裏腹に、新緑がのびのびと陽射しを浴びて、微かな風が颯爽と身体を横切る、最高に気持ちのよいシーズンがやってきてしまいました。

なのに、STAY HOME。

ここは、クラフトジンの出番です。

ベランダでも屋上でも、窓を全開にしたリビングでも。お気に入りのジンをトニックで割り、のんびりと音楽や読書に浸ってみてください。

ジュニパーベリーの清涼感にスパイスや果皮の華やかな香り、トニックの喉越し、カランカランと風鈴のように氷がグラスにぶつかる音。

あー、なるほど、ジントニックとは本来、初夏の訪れを祝福するために存在しているお酒なのだと痛感せずにはいられないはずです。

というわけで今回は旬を迎えたジンの話。

クラフトジンの魔力

ジンの定義は実にシンプルです。

アルコールを熱して(水より先にアルコール分だけが蒸気となる)、よりアルコール度数が高い液体を抽出する。その工程の中でジュニパーベリー(杜松の実)で香り付けをすること。そうやって作られた蒸留酒であれば、すべてジンと言ってOK。

その定義のゆるさが故に、クリエイティビティの余白が生まれ、ベースのアルコールと各種スパイスやボタニカルとの無限の組み合わせが喚起され、世界中でユニークなジン作りが勃興しているのです。

ベースのお酒(アルコール)を2次利用して、そこにローカルな素材を足したり引いたりして、新しいお酒に作り替えるというプロセスが、音楽に似通っていて、作り手の世界観を反映したボトルデザインも、さながらCDジャケットのそれです。好きな音楽アルバムを探すような楽しさがクラフトジンにはあります。僕は勝手に、クラフトビール(醸造酒)はロックと相性がよくて、クラフトジン(蒸留酒)はヒップホップやクラブミュージックに近接していると思っています。

「蒸留」という営為の気高さ、その奥ゆかしさも堪らない。

例えばオレンジの果汁を直接加えるのではなくて、わざわざオレンジの皮を蒸気に通過させて、その蒸気にオレンジの香りを纏わせる、そこに他の果皮で香り付けした液体をブレンドして、再び蒸留したりする、とか。とにかくまどろっこしくて、もはや魔術。

作り手は自らの美意識と哲学に従い、それと分かるような分からないような微細なバランスで香りを設計。最終的に幾重にも折り重なった香りの層から、原料のボタニカルの香りをそれぞれに判別するのは困難で、むしろそれは野暮だったりする。作り手の技巧とセンスが包み隠された寄木細工のような、繊細なお酒なのです。

その奥ゆかしさ故に、飲み手側にも余白が残されているのがいい。

香りの感じ方や味わいの解釈に幅があって、しかも、ストレートで飲む時、ロックで加水して飲む時、トニックで割って飲む時とで、それぞれ香りの開き方や表情が変化するのも魅力です。

ジンの季節、ぜひお気に入りの1本をディグって、お気に入りの飲み方を探究してみてください。

STAY HOMEが充実するよう、オンラインでゲットできそうな、おすすめのジンを何本か紹介します。

無人島に持っていきたいジン5選。

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(写真提供は@juniper_girl_jpさん、撮影場所は中目黒FORRESTER )

1本目は、お馴染みのMONKEY 47。ドイツ南西部の森シュバルツバルト(黒い森)にひっそり佇む蒸留所で作られる魔法のようなジン。「ヘンドリックス」や「シップスミス」と並ぶ、クラフトジンの立役者です。クラフトジンの魅力が凝縮されているので、僕も、はじめての人には必ず薦めます。クランベリー、リンゴンベリー、エルダーフラワー、オレンジピール、etc。地元で獲れるボタニカルを47種類使って香り付け。飲んだ瞬間に、深い森の中に引き込まれるような感覚に。ベリー主体の香りのアタックから、徐々にフローラル感、シトラス感が段階的に鼻腔を抜けていきます。濃密で複層的な味わい。薬瓶のアートワーク含めて、物語性を強く感じるジンです。作り手が蒸留所開く前に、出版や編集の仕事に携わっていたというエピソードも納得。

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2本目は、もはや定番、辰巳蒸留所のアルケミエ。岐阜県は郡上八幡で、廃業した印刷工場跡地を利用して、お酒の錬金術師こと辰巳祥平さんが作る珠玉の1本。使用しているボタニカルは、なんとジュニパーベリー1種類のみ。例えばモンキーが47種類のボタニカルを足し合わせて作るのとは真逆の発想。辰巳さんは、大学卒業後、10年近く世界中の酒作りの現場に住み込みで働いた経験から、日本で作られる酒のクオリティの高さを確信。日本酒の酒粕で作る粕取り焼酎を元ネタ(原酒)にセレクトし、その素材の魅力を最大限に継承しつつ、ちゃんとジンに昇華。和酒と洋酒の見事なリミックス。DIY精神漲る、孤高のジン。入手困難ですが、頑張って見つけて下さい!

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3本目は、おフランスから、ル・ジン。リンゴの名産地として知られるノルマンディ地方(土壌が痩せてるのでブドウが育たない)のカルバドス生産者が作るジンです。自前の畑で育つ30種類のリンゴとジュニパーベリー、シナモンなどのボタニカルを漬け込んで蒸留。一度飲んだら、リンゴ畑が広がり、その際立ったリンゴの香りを一生忘れることができません。ボトルデザインもフランスらしい品格が感じられて、実にエレガント。僕がリンゴのジンが好きなのは、だいたいルジンのせいです。


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4本目は、オーストリアからスティン。昨今のジンカルチャーを引っ張るニュージェネレーションの旗手。味は間違いない。リンゴ主体ですが、スパイスやハーブなど28種類のボタニカルを使用しているので、果実味とアロマのバランスが素晴らしいのです。モンキーとルジンのいいとこ取りしたようなジン。農家出身の幼馴染の20代の若者二人が、納屋に放置されていた自家製蒸留器を勝手に使って独学で作ってしまったというバックストーリーも好き。アートワークはガールフレンドが担当し、ボトル詰めや発送作業は家族全員で分担するのだそう。夢があります。ジンドリーム。

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5本目は、レペゼン宮崎のヒナタ。これまで紹介してきたジンと比べて、ボトルデザインに若干哀愁や懐かしさが漂いますが、味は逆に先進的、キレッキレです。メインボタニカルは地元で収穫できる日向夏や金柑、そこに大胆にカルダモンとカモミールをぶつけた意欲的なジンです。柑橘とスパイスの相性の良さを驚くほどに確認できます。飲んだ瞬間に旅情を掻き立てられるオリエンタルな味わいは唯一無二。存在感抜群。苦手な人もいるでしょうが、ここまで振り切れるのもクラフトジンならでは。僕は大好きです。

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番外編は、ちょっと知識があれば、もっとジンの世界が楽しくなるということで、「ジンの歴史」。もともとはオランダ発祥で、安酒として悪名高かったジンが、ロンドンドライジンとして名声を獲得するまでの紆余曲折のストーリーはめちゃくちゃスリリング。ワイン不毛の地イギリスで蒸留技術が花開くのも納得。それぞれの国や地方に連綿と引き継がれるプライドやコンプレックスが、現在の各国のクラフトジンの作り手らにもダイレクトに影響されていることがよく分かる一冊です。

風景が広がるのが美味しいジン

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(写真は辰巳蒸留所がある岐阜県郡上八幡)

C/NEで営業中に「クラフトジンってそもそもどういう定義なんですか?」ってよくお客さんに聞かれますが、これ明確な答えがあるようで答えがないのです。(とかいってクラフトジンって言葉多用してて申し訳ない。。)

クラフトビールでも同じですが、大量流通の論理が支配するマーケット内で差別化するために便宜上使わざる得ない言葉であって、「大手が作るものと違って少量生産で作り手のこだわりがダイレクトに反映されたもの」って定番の説明もなんだか無効化されている気もしていて。

大手でも作り手のこだわりが反映された美味しいお酒はあるし、小手でもこだわりをあまり反映しない美味しくないお酒もあるわけだから。

普遍的な定義は難しくて、それぞれが「クラフト」っていう言葉をどう理解するか、どう捉えるかってことしかない。もはや定義なんてものはどうでもよくて、自分が信頼できる作り手を見つけて、それを楽しむってことですね。

僕が、無理やり「クラフト」ってものを定義するならば、飲んだ時に、そのお酒が作られた土地の風景や匂いが感じられるのかってことと、作り手の息使いや手触りがプロダクトの隅々まで薄まることなく反映できる規模なのかどうかってこと、その2点は外せない。

情景と作り手の人柄が滲み出るお酒は、もうどうしたって、こだわり抜いているわけで、もうどうしたって、美味しいに決まっているので。

上記で紹介したジンは、どれも産地の景色が浮かび上がる、素晴らしいジンです。ぜひ各オンラインショップでポチッとして、おうちバーで楽しんで見てください。

C/NEでも酒販整い次第、ジンの販売もしていきたいと思っています。

どうぞお楽しみに。


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