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路地裏の雑文集 vol.5 ビールと言葉の幸せな関係。

ぼちぼち、緊急事態宣言が解除されるであろう6月以降の新たな日常に向けて、意識を切り替えてギアを上げていくタイミングですよね。

ただ、正直に白状しますと、ここ最近はちょっと脳が疲れておりました。

例のコロナ疲れか。

テレビやYahooやSNSやライブ配信やら、全方位のメディアから放流される無限のコロナ禍関連情報と、それにまつわるアフターコロナの世相占い。いわゆるインフォデミックな環境に若干辟易してきました。不安や焦りの裏返しだったのか、自分が依りかかりたい情報や言説を探しては過剰摂取になっていたのだと思います。

今は、新緑の駒沢公園をランニングしたり、月の満ち欠けや草木の揺らぎを眺めたり(ちょっと大袈裟か)、就寝前に映画を観たり(NETFLIXの『サーカスオブブックス』と『ハーフオブイット』が最近のお気に入り)、突然イーグルスを聴いたり、なるべくスマホと距離を置き、別の回路で世界と接続する時間を増やしています。

特に、my favorite timeは、駒沢の家から歩いて20分ぐらい、都立大学が誇るクラフトビールの博物館「The Slop Shop」まで散歩して、レコード棚のようなショーケースから本日のビール1本をディグる時間。味の好みはもちろん、自分のインスピレーションに任せ、ボトルジャケットとビールタイトルを頼りに吟味して、家に帰ってプシュッと答え合わせする瞬間の幸福感たるや。

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(都立大学、ボトルショップ「The Slop Shop」)

1本のビールに身を委ね、それに語りかけるようにじっくり味わい、ボトルを愛おしんでは、その世界観に浸る。ビールと対話しているうちに、次第に気持ちがチューニングされ、邪念が取り払われるのですよ。

恥ずかしながら、1本のビールは1篇の詩なんじゃないかって、本気で思ったりしてます。

Amber Saved My Life

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最近やっぱり好きだなと思った1本が、ヨロッコビールの「Amber Saved My Life」。

逗子や鎌倉を拠点にする地域密着型のマイクロブリュワリーが作る、アンバー(琥珀色)なセゾン(夏の農作業中にグビグビ喉を潤すようなタイプのビール)です。

ヨロッコさんは言わずとしれたセゾン作りの名手で、これまでリリースしてきたセゾンはどれも間違いないクオリティー。海山に囲まれた逗子の開放感溢れるランドスケープがパッと視界に広がるような飲み口で、潮や土の気配をほのかに匂わす旨味と清涼感のバランスが絶妙なのですよ。ヨロッコのセゾンを飲むたびに、ビールはやっぱり工業製品ではなくて、本来は農業製品であることを再発見します。

このアンバーセゾンは、ヨロッコらしさを踏襲しつつも、よりマイルドで、懐の深さを備えた仕上がり。序盤は爽やかな酸味がリードし、徐々にモルト由来の甘みと香ばしさが追っかけてきて、終盤は、杏のような、キャラメルのような熟した果実感がジワジワと口内を満たし、ゆっくりゆっくりと幕を閉じていきます。

その長く引く余韻に、えも言われぬ包容力があって、心が休まります。きっとこれは、1日の終わりに、一人で、自分の気持ちと寄り添いながら飲むビールなのでしょう。

ビールタイトルが、まあ秀逸なこと。

Amber Savd My Life。

物語を感じずにはいられません。

アメリカ映画のBARを舞台にした名シーンや、エドワードホッパーの名画「ナイトホーク」の世界が脳裏に浮かび、

音楽ならば、ザ・バンドの「It makes no difference」とか、キャロルキングの「You've got a friend」とか、ボブディランの「Don't think twice,it's all right」とか、イーグルスなら「Desperado」あたりを聴きたくなります。

話は逸れますが、アメリカの映画って、必ずといってよいほどBARのシーンが出てきますよね。打ちひしがれた主人公が、馴染みのマスターに宥め透かされながら、ふと我に返るやつ。お酒の力も借りて気持ちが解きほぐされるのか、名言がよく誕生するシチュエーションなので、舞台装置としてBARは物語に重宝されるのでしょう。C/NEで最近上映した作品の中でも『パターソン』、『ハーツビートラウド』、『スモーク』、『ラッキー』然り、主人公の一時避難所としてBARが大事な役割を果たしていました。

そうした映画のワンシーンにすっと挿入させたいビールです。

Amber Saved My Life。

なんて鷹揚で、なんて甘やかな響きなのでしょう。

言葉で出会う、最高の1本

作りたい味わいのビールが完成してから、言葉を当てるのか。
世界観や言葉をイメージしてから、ビールを作るのか。

ミュージシャンの場合の、曲を作ってから詩を当てるのか、詩を書いてから曲を作るのか、っていう定番の問いに近接している気がして、

もちろん答えは、時と場合による、なのだろうけど、そのあたりはビールの作り手にじっくり話を聞いてみたいテーマです。

「名は体を表す」とはよくいいますが、印象に残るビールは、自ずと味わいとタイトル(言葉)が自然に溶け込んでいる気がします。何なら互いを高め合っている感じさえします。味わいを言葉が受け止めて、言葉が味わいをさらに引き立てるような関係性。

他にも、心を鷲掴みにされたビールは、例えば、北海道上富良野のブリュワリー、忽布古丹(ホップコタン)の2つのビール。

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『桃源郷IPA』。

『White Album』。

言葉(タイトル)を見た瞬間に、既に恋に落ちている。

飲んでみたら、ちゃんと、言葉のイメージを裏切らず、それを超えた味わいの波及もあって、こちらを夢見心地にさせてくれるビールでした。

ビール選びに迷う時、あまり詳しくなくて、どの銘柄を飲んだらいいのか分からない時、タイトルでビールを選ぶのは、あながち悪くない作戦です。

あなたの感性に引っかかった言葉なら、
きっと、あなたの感性を受け止めてくれるビールなのです。

ビールの、タイトル買い、ぜひ試してみてください。

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