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キャッチフレーズ(14)

結論から言おう。
本番当日、無事20組の出囃子はお披露目され、大盛況の中、お笑いライブは終わった。俺の考えた出囃子が良かったかどうかは分からない。出囃子に注目している観客はいないし、それによって盛り上がりが変わったとも思えない(この点は、後で啓太に文句を言おう)。ただ、何組かにお礼を言われたので、演者のほうは、無いよりはあったほうが良かったんだと思う。そういう意味で、無駄ではなかったわけだ。お礼を言ってくれた奴らの中に、瀬戸田西畑がいたので、ちょっと話してみると、途中でネタを忘れたり、テンポを修正しきれなかったり、いろいろあったらしいけど、見ているほうは全然気づかなかった。場内も爆笑だったし、俺もゲラゲラ笑った。

ライブの途中で体育館を出て、校内を歩いた。文化祭前日と同じく、文化祭当日の雰囲気も好きだった。いろんな店を見るでもなく見ながら、すれ違う誰かと話すでもなく話しながら、雰囲気を味わった。校内放送が聴こえていて、俺の好きな曲が流れてきたので、聞き入ってしまった。いつも自分の部屋か、ヘッドフォンで聞いているのと同じ曲が、学校で、大きな音で流れているだけで、目の前の学校風景がスローモーションのように、映画のワンシーンのように見えた。曲が終わると、この曲にまつわるエピソードを紹介していた。聞き馴染みのある声だと思って聞いていると杏奈だった。そうか、杏奈がやると言ってた架空のラジオ放送か。杏奈め、なかなか良い曲をかけるぜ。

日曜日は一般開放されるので、土曜日よりも人が多かった。杏奈からクレープの連絡がくるんじゃないかと思っていたけど、連絡は来なかった。一度見かけたときには、放送部の女子たちと一緒だった。女子同士で楽しむことに
したのかもしれない。俺も気にせず啓太たちと楽しむことにした。

やがて15時が過ぎて、2日間に渡る文化祭が終わった。始まりがあれば終わりがあり、終わりがあれば、次のことが始まる。要するに片付けが始まる。
みんな名残惜しそうに、それぞれのオブジェを壊し始める。俺も段ボールをたたんだり、壁に貼った画用紙を剥がした。なんだかんだで今年は自分のクラスの準備にはあんまり参加しなかったな。窓から校庭に目をやると、誰かが笑いながら走り回っていた。
「校庭を見ると必ず誰か走り回ってるよな」すぐ横にいた啓太が言う。
「な。絶対だよな」「校庭あるある、な」「文化祭あるあるだろ」「どっちでもいいわ」
目と目だけで笑いあう。

(つづく)


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